【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

塩の湖。




「そうか……」

 俺は、膝の痛みが無くなったこともあり、お礼を兼ねてリルカの頭を撫でる。
 毎日、お風呂に入っていることもあり、リルカの髪は、とても触り心地がいい。

「――んっ……」

 リルカの頭を撫でていると、彼女は地面の上に腰を落として瞳を潤ませながら上目遣いで俺を見てきた。すると「神田さあーん」と俺の腰に抱きついてくると、トランクスに手を掛けようとしてくる。

「お、おい!」

 俺は無理矢理、立ち上がりながらリルカを引き剥がすが、俺の脚にまとわりついてくる。
 一体、どうしたというのか……。
 
「――ま、まさか?」

 俺は、エルナのほうへと視線を向ける。
 すると彼女は「異性に触れられると発情期になるでしゅ!」と、語りかけてきた。 
 
「――ま、マジか?」

 俺は声を荒げてエルナに問いかけると「うん、本当でしゅ! お母さんが同じ状態になっていたことがあるでしゅ!」と、答えてきた。

「神田さん……」

 リルカが両腕を広げて俺に抱き着いてきようとする。
 俺はリルカの両手を掴みながら、突進を止めるが――。

「この力、女の子とは思えない!」
 
 考えて見れば、リルカとエルナは重さが1トン近くある材木というか丸太を運んでいたという実績がある。
 恐らく力は、俺を遥かに凌駕しているだろう。
 
「神田さん! 神田さん! 神田さん!」

 鼻息を荒くして近づいてくるリルカは美人だが、あまりにも求められると俺としても恐怖を感じてしまう。

「落ち着け!」
「大丈夫です! すぐに済みますから!」
「何が!?」
「何がです!」

 力比べをしている様子を見ていたエルナが、興味無さそうに近くの落ち葉の上に寝転がると目を閉じてしまう。
 もしかしたら、獣人の村では、こういう男女の問題がよくあることなのかも知れない。
 
「エルナ! どうにかしてくれ!」

 リルカの力が強すぎて、まったく歯が立たない。
 このままでは押し切られて押し倒されてしまう。
 
「発情期の雌は危険でしゅ! 別の雌が近づくと攻撃してくるでしゅ!」
「そ、そう……なのか?」
「うん、だから手伝え――」
「干し肉を、あとでこっそりやるから!」
「手伝うでしゅ!」

 エルナが、颯爽と立ち上がるとリルカの背中に向けて走り始めた。
 そして……エルナがリルカから2メートルの距離まで近づいたところで「他の雌の匂い!」と振り返ろうとしたところで俺は、エルナを守るために「リルカ!」と叫ぶ。

 ――すると彼女は動きを止めた!

 そして、俺の言葉に反応するかのように言葉を紡いでくる。
 そう「神田しゃー……」と、俺に語りかけている途中で力が抜けるように、その場に座りこんでしまう。

「い、一体!? ――な、何が!?」

 じっくりとエルナとリルカの様子を見る。
 するとリルカの尻尾を掴んでいた。
 それも、かなり強く握っているのか、エルナの手が震えている。

「神田しゃん、獣人は尻尾を強く掴むと力が抜けるでしゅ」
「…………そ、そうなのか……」

 俺は溜息をつきながらズボンを履く。
 
「あれ? 私……一体――」

 どうやら、正気に戻ったのかリルカが回りを見渡すと「神田さん、ずいぶん疲れているようですが何かあったのですか?」と語りかけてきた。
 
「リルカが発情したから大変だったんだよ……」
「そ、そんな……私ったら……ごめんなさい! 発情期だけは、どうにも出来なくて……」

 彼女の言葉に俺は肩を竦めながら「まぁ、俺も獣人の性質をよく知らなかったからな。
 今夜にでも獣人の性質を教えておいてくれ、何かあって取り返しがつかなかったら、それこそ大変だからな」と彼女に告げておく。

「分かりました。ご迷惑をおかけしました」

 反省しているリルカの頭を一瞬、撫でようとしたが、さっきの襲われたことを思い出し手を止める。
 ――いかん、また暴走させるところだった。

「神田しゃん! 約束!」
「分かっている」
「約束ですか?」
「ああ、リルカを止めるのを手伝ってくれたら、干し肉を多く上げると約束したんだ」
「神田しゃん!? や、約束が!?」
「あっ……すまん、つい……」

 つい口が滑ってしまった。
 わざとではない。
 そう、干し肉は高いから大目に上げたくないという気持ちから合法的に約束を破ろうとしたわけではない。
 
「そうだったのですか? ……エルナ?」
 
 俺の言葉に、リルカが目を細めてエルナを見る。

「まぁまぁ、今回は俺も悪いんだから約束は約束だからな」
「神田しゃん!」

 俺の言葉にエルナが瞳を輝かせている。
 ただ、俺も獣人と人間は同じ分量で渡していいか分からない。だから「とりあえずリルカに渡しておくから、リルカから貰っておいてくれ」と言うと「神田しゃん……」とエルナが金色のキツネ耳を伏せながら元気なく肩を落としていた。



 色々と波乱があったが、膝の痛みが無くなったこともあり俺達一向は5分ほどで、湖に到着することが出来た。

「これは湖というのだろうか……」

 見渡す限りの塩の塊が隆起している湖。
 そこは、写真で見たことがある南米のウユニ塩湖よりも多きな塩の塊というか山が存在していた。
 さらに、湖と思われる大きさは少なくとも東京ドーム10個分はあるだろう。
 
「これは……かなりの収入源になりそうだな……」

 


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