【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記
鳴子。
心苦しいが、キツネ耳の姉妹に荷物をログハウスの中に運んでもらったあと、荷物から毛皮を取り出し丸太の上に敷く。
いくら表皮を削ったといっても乾燥させていないし、表面を加工してもいない。
そんな状態で上に座っても皮膚には、いい影響を与えない。
少なくとも俺にとっては……。
獣人は、どうかは知らないがとりあえず敷いておいて問題ないだろう。
日本にいたときに、建築についてもっと学んでくるべきだった。
おかげで建築関係は、冒険者ギルドの仕事を請けた本当の初期の雑務で覚えたきりだ。
それでも役に立つのだから、人生何が必要になるか分からないものだな。
「あの……カンダさん、何をしているのですか?」
「ああ、生木の上に座ると、水分を多く含んでいるからな。皮膚が弱いと皮膚と反応して炎症したりすることがあるんだ。だから、毛皮を敷いている。絨毯の代わりみたいなものだな」
「そうなのですか? それなら私達も、お手伝いしますね」
リルカは、妹のエルナと共に冒険者ギルドが手配した袋から毛皮を取り出すと床に敷いていく。
床といっても、8畳くらいしか広さのない家だ。
すぐに敷き終わる。
「それじゃ食事にするか?」
「はい!」
「ごはーん!」
二人とも、尻尾をぶんぶんと振っている。
楽しみにしているところ悪いが、レパートリーは昨日と変わらないんだけどな……。
それでも満足してくれたようで囲炉裏の近くでリルカとエルナは食事後、身体を寄せ合うようにして寝てしまった。
天井の一部は空けてあるから煙は外に出るようにはなっている。
問題は、窓ガラスが無いから窓がないってことくらいか……。
明日は、両開きでいいから窓を作らないとな。
俺も横になって寝ることにした。
遠くから狼の遠吠えが聞こえてきたのは、たぶん気のせいではないだろう。
翌朝、寝ぼけていた俺は、もふもふな毛並を堪能していたら、リルカに尻尾ビンタをされた。
もちろん、それほど威力があるわけではないがとても毛並のいい尻尾ビンタは、凄まじい威力をもっていて「カンダさん! 責任取ってくださいね!」と、リルカが顔を真っ赤にして怒ってきた。
仕方なく干し肉を大目に上げて、今回だけはと許してもらうことに成功した。
それにしても尻尾を触られるだけで婚姻関係が決まりかねないとか、10年間も冒険者をしていて、まったく知らなかったぞ? ヤバイなこの世界。
ケモミミや尻尾を愛する日本のケモナーが来たら、初日で全員、婚約扱いにされかねん。
そんなことになったら、すさまじい光景が見られそうだ。
現在、俺は朝食を取ったあと、丸太から無数の絵馬のような薄い板を大量に作っている。
そして、リルカとエルナには、俺が生活魔法で掘った穴に丸太を埋め込んでもらっている。
そして午前中一杯かけて鳴子という罠専用に使う柱を4隅に配置することが出来た。
そのあとは、麻袋を解体して寄り合わせていく。
3人でチマチマと囲炉裏を囲んで寄り合わせ一本の麻で作られたロープを作り鳴子を括り付けていく。
「リルカエルナは縄を柱同士に上手く巻いてくれ、丁度、俺達が寝泊りしている建物を囲う様にしてくれよ」
「わかりました」
「はいでしゅー」
二人とも行く当てが無いのか俺の命令を忠実に聞いてくれている。
まぁ、それもご飯がなくなるまでの間だと思うが――。
なんと言うかお金の切れ目が縁の切れ目というか、食料の切れ目が縁の切れ目というか、なんと言うか微妙なところだな……。
食料は、まだ一週間くらい持つし、残り数日になったら最後に立ち寄った宿場町に行って買い込むのがいいな。
「……ふむ――」
よく考えたら、荷車か何か必要だな。
俺は膝を痛めて、長時間歩けないからな……。
それに獣人を町に連れて行ったら目立つ。
「戻りました!」
「もどりましゅた!」
今後のことを考えているとリルカとエルナが戻ってきた。
俺は袋の中から干し肉を一切れずつ取り出す。
「ご苦労様、これでも食べて休んでいてくれ」
「あ、ありがとうございます!」
「わーい! 干し肉!」
リルカと対照的に幼い少女であるエルナは自分の気持ちを素直に表面に出す。
それが、とても微笑ましい。
利害関係だけで繋がっていた元パーティとは違うような……。
いや、食料で繋がっているから本質は同じか?
まぁ、深くは考えないことをした。
外へ出て鳴子がきちんと機能しているかチェックする。
縄を揺らして音が鳴るかを確認していく。
「特に問題ないな……」
昨日は寝る前にウルフの遠吠えが聞こえたからな。
用心しておくに越したことはないだろう。
「さて、今日こそは俺も風呂に入って体を洗うとするか……」
何だかんだ言って昨日はお風呂に入れなかったからな――。
夕食を食べたあと、俺は風呂に入る。
そのあと、お風呂のお湯を張りなおしリルカとエルナにも入ってもらった。
毎日、風呂に入っておいたほうが身体にもいいからだ。
さて、明日は周辺の探索をしないといけないな……。
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