【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

ログハウス。

 ログハウスの立て方だが、簡単に言えば丸太を重ねていくだけだ。
 今は、丸太の端には窪みを作る作業をしているところだ。
 その窪みは日本刀を使って削っている。
すると、作業を見ていたリルカが銀色の尻尾を揺らしながら「カンダさん、その武器は魔力が何かを纏っているのですか?」と、聞いてきた。

 攻撃魔法を扱うリアですら気がつかなかった。
 その魔力の移動に魔法を一切使うことができないと言われている獣人が気づいたに驚いた。

「――よく気がついたな?」
「私達姉妹は獣人族の中ではおかしいのです」
「そういえば……、どうして人間に追われるようになった? 普通なら群れで行動しているはずだろう?」
「……それは……」

 地面の上に丸太を並べていた彼女が立ち止まったことで、俺達の会話を聞いていたエルナが、リルカと俺の間に割って入ってくると「お姉ちゃんを苛めないにゃいで!」と言ってきた。

「エルナ、大丈夫よ、別に苛められているわけじゃないから」
「ほんとう?」

 リルカは、妹であるエルナの金色の髪の毛を撫でながら「本当よ? カンダさんは、私達がどうして、こんなところにいるのか気になったみたいなの」と優しく諭している。

「別に言いたくないことなら言わなくていいぞ?」
「いえ、それほど重い話でもありませんので……」

 俺は、生活魔法である劣化防止の魔法を刀にかけながら、丸太の表皮を剥ぎ重ねた時に必要な窪みを作っていきながら、「そうか? ならいいのだが……」とリルカの言葉に返事を返した。

「カンダさんは、人間が、どうして身体能力が高い獣人を狩ることが出来るか知っていますか?」
「いや、考えたことなんてなかったな。そんなことをしたこともないからな」

 俺の言葉にリルカは嬉しそうな顔をすると「やっぱりカンダさんの魔力を嗅いで感じた印象は嘘ではなかったようです」と、解れたワンピースのような布地を押し上げている胸に両手を置くと、安堵の溜息を漏らしていた。

「人は体内に魔力持っているのですが……」
「ああ、それは俺も神官としての講義を受ける時に教会で教えてもらったな」
「――はい。そして、人間というのは魔力探査という魔法を使えるのです」

 そういえば、俺やリアも使えたな。
 誰にも言っていないが、リアが使う魔法は周囲の生物を感知する探索系の魔法のはずだ。
 対して、俺が使える探査魔法は、生活魔法に属する物で忘れ物探索という魔法だ。
 これは無機物、生物、建造物、全てに有効で一応リアの魔法とは別のカテゴリーということで考えている。

 実際、日本刀が入った箱を見つけたのも忘れ物探索の魔法だから、中々有用性は高い。
 ただ、この魔法。
 有効範囲が家一件分しかないから、数百メートルまで感知できるリアの魔法と比べると、使い勝手が微妙だったりする。

「それでですね。普通の獣人には魔力はないのですが、時々、魔力を持つ子供が生まれることがあるのです。そういう子供がいると、群れ全体が危険に晒される可能性があるため、間引かれるのです」
「なるほど……、山の中で置かれても獣人の鼻なら、仲間に追いつけるからな」
「はい……」

 しかし、魔力があるなら魔法を教えれば戦力になるというのに、もったいないことをするものだ。
 俺なら――。

「――ん?」

 途中まで考えたところで、自分が今、置かれている現状がマズイということに……。

「いや、大丈夫か」

 どうせ、このへんには人間とかいないからな。
 ここまで帆馬車で移動してきたが、最後の宿場町から、ここまで誰にも会わなかったし……。

「リルカとエルナは何時から、ここに住んでいる?」
「私達は、6の月からでしょうか?」
「――ということは、今は11の月だから半年近くは、ここに住んでいたことになるわけか……」
「はい、そうなります」

 この世界アガルタでは地球と同じ暦が使われている。
 1月が1の月。2月が2の月のようなものだ。
 そして、一ヶ月ごとに30日と日数も決まっていて一年で360日計算となっている。
 そのため地球とは5日の差分が出るが……まぁ、誤差のようなものだろう。

「そうか、半年近く住んでいて問題ないなら大丈夫そうだな。それより聞きにくいことを聞いて悪かったな」
「いえ、もう昔のことですから……」
「……」

 半年前が昔のことか……。
 ずいぶんと大変な日々を送ったのだろう。
 辛い記憶であるはずの記憶が劣化するほどの環境。
 それはどれだけの物だろうか。

「それより、コイツに掛けられている魔法が気になるんだったか?」
「はい、普通の魔法ではないですよね?」
「そうだな、簡単に言えば劣化防止ってところか」
「劣化防止ですか?」

 俺は彼女の言葉に頷く。
 この世界の生活魔法は、応用範囲がとてつもなく広い。
 そして、その応用範囲は自分がどれだけの知識を持っているかに寄る。
 日本のアニメや漫画や小説を見て読んできた俺にとって、生活魔法は攻撃魔法よりも遥かに使い勝手がいい魔法なのだ。
 何せ、知ってさえいれば、生活魔法としての属性に入っていれば使うことができるからだ。

「まぁ、簡単に言えば魔力を流している限り折れないし、切れ味は鈍くならないし、錆びないという魔法だな」
「それって、すごいことなのでは――」
「まあ、すごいって言っても所詮は個人の力だからな。軍隊とか、そんな大勢が出張ってきたら勝ち目なんてないぞ?」
「そうなのですか……」

 一瞬だけ、リルカの瞳。その奥に黒い影のような物が見えたが、すぐに消えていた。

「さて、これで窪みも削れたし表皮も削った! あとは組み立てるだけだ!」

 俺は痛む膝を庇うようにして立ち上がる。
 そして、彼女らを指揮して丸太を並べていき、重ねていき――。

「できました!」
「できたでしゅ!」
「完成したな……」

 日が落ちる前にはログハウスを完成させることが出来た。

「それじゃ荷物を家の中に運ぼう」

 二人は頷くと、冒険者ギルドが持ってきた物資と、俺が用意した背負い袋を取りにいった。
 そして、俺と言えば――。
 ログハウスの中に作った囲炉裏で火をおこしていた。
 何故、俺が荷物を運ばないかと言うと……膝が痛くて、これ以上動けないから。

  



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