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リアフィス

15 始まりの街防衛戦

ゴブリン達と戦っているプレイヤー達を後ろから見守っていると、街の方から武装集団が近づいてきました。
先頭にいるのはガタイの良い男性ですね。

「冒険者組合の支部長オズウェルだ。責任者は……君か?」
「総隊長をしていますので、そうなりますね。アナスタシアと申します」
「そうか、俺らも参加しようと思うのだが?」
「いえ、街と住人を守れと言われましたので、我々に任せてほしいのですが」
「そうか……。神々からか?」
「はい。我々が死ぬことはありませんから、先にぶつかりますよ。もし我々が全滅した場合、街をよろしくお願いしますね」

これはワールドクエストです。
このクエストで住人が死んだら恐らくそのままでしょう。よって、死ぬことがない私達が先に対処すると言えば引くはずです。
ただ、彼らも戦うことを生業にしている人達で、彼らからすれば故郷の可能性が高く、知り合いも家族もいる可能性もある。
街に引っ込んでいろと言ってもまず聞かないでしょう。ですので、離れたところで私達が全滅した場合の最終防衛を頼みます。
責任者である支部長なら尚更、そういう判断をせざるを得ないでしょうからね。少々卑怯な気もしますが。

「…………分かった。すまねぇな」
「いえ、お気になさらず」
「野郎共! 最終防衛ラインを南門の前とする! 並べ!」
「『おう!』」

我々から離れ、南門ギリギリに並ぶ住人の冒険者達です。
さて、前線に集中しましょうか。

「……で、本音は?」
「第一、冒険者とは言えあの人達は住人です。絶対死んだら評価下がるでしょう。是非引っ込んでいてください」
「「「「ですよねー」」」」

私達からすればゲームです。喜んで敵に向かっていくでしょう。
でも、住人から見れば『笑顔で敵に突っ込んでいくヤベー奴ら』ですからね。神々の加護(と言う事になっている)で死ぬことはないとは言え、痛みは一応あるのです。ぶっちゃけドン引きですよ?
気にしたら負けです冒険者の皆さん。後ろめたい気持ちは投げ捨てましょう。逆にこちらが気を使うので。

いや、本当に。



「よーし、準備はいいかなー? 行くよー……【大音楽家マエストロ】からの【軍歌アーミーソング】」

私達……総隊長と部隊長のいる少し横に集まっている、ノルベールさん率いるプレイヤー達。そのプレイヤー達には共通点があって、楽器を持っています。
その中で少しだけ楽器を持っていない人もいますが、その人達も含めての……所謂音楽隊ですね。
《呪歌》と《呪奏》スキルを持った人達が集まり、一斉に演奏をすると相乗効果を発揮するようです。
プレイヤー達の奏でる壮大な音楽をBGMに、前方では絶賛戦争中……と言う。
音楽隊から光の波紋が定期的に広がり、波紋に当たったプレイヤー達にエフェクトが現れます。
今の効果は……与ダメージ上昇ですか。

演奏が終わるとすぐに次の曲に移ります。同じ【アーツ】はリキャストが入りますから、同じ曲連続はできません。

「よし次! 【聖譚曲オラトリオ】」

今度は……回復量上昇効果と、HPMP自動回復ですか。
効果はすごいけど、それ以外には結構な制限のかかる音楽隊ですが、こういう場合は非常に優秀ですね。

「これ聞きながら優雅にティータイムといきたいですね……」
「いやいや、思いっきり戦闘中だからね。……暇なのは分かるけど」
「いやー、確かに暇だよね」
「でも俺ら隊長がやられた場合のペナルティは絶対あるだろうからなぁ……」
「今まで1だった統率系スキルが結構な速度で上がるのは美味しいのですが……暇ですよね」
「お、ほんとだ。上がってら」

隊長達が暇している間にも、目に見えてゴブリン達は減っていきます。
強くなってるとは言え、ゴブリンですからね……。
プレイヤーも何人か死に戻っているようですが、すぐ後ろが復活地点ですからね。



ちょいちょい指示を出しつつゴブリンから防衛することしばらく、地面が見えないぐらい敷き詰まっていたゴブリン達が減り、割と余裕が出てきました。
夕焼け……という事は、リアルで15時過ぎましたか。13時過ぎから始まったので2時間ぐらいでしょうか。

「だいぶ減ったな?」
「減りましたねぇ……」
「このままジェネラル出てきて終わりなんて無いよな?」
「それだと俺ら何もしてないんだが……」

森から咆哮と共に、3メートル近い鎧を着たゴブリン? が取り巻きを連れて出てきました。
取り巻きはホブでは無く、普通のゴブリンと同じぐらいですが、姿勢や顔つきが少々違い凛々しくなっています。

「あー……どう見てもボスと取り巻きです。本当にありがとうございました」
「フラグ立てるから……」
「ゴブリンジェネラルとゴブリンエリートだってさ」
「なるほど、エリートですか。数匹いるならユニークでは無いでしょうし、20レベ進化ですかね。となるとジェネラルは30でしょうか」
「それ以上高くなられても困るから、それぐらいにして欲しいな」
「でも数の暴力で終わりそうだなぁ。このまま何事もなく終わってしまうのか」
「街的には良いことですね。我々隊長組からすると不完全燃焼ですけど……」

物悲しく隊長達が前線を眺めていると、ジェネラルの後ろ……森から何かが飛び立つのが見えました。

「……なあ」
「……プランBでござるなぁ」
「お願いしますね」

何か丸いものに乗っているゴブリンが結構なスピードでこちらに飛んできます。いえ、乗ってるのはエリートな気がしますね……。
一応考えておいて正解でしたか?
NINJAなムササビさんが自分の部隊へと指示を出し、ちゃんと対空を開始してくれたようです。
前方では一角から魔法と矢が上に飛び、その中でも何個か緑色の光が飛んで行ったと思いきや、空中で爆発してバランスを崩しています。

「もう範囲魔法使える人がいるんですね? 緑だし風でしょうか」
「ああ、あれは違うよ。弓だよ弓。30で覚える【エアロフラック】だね。貴重な地対空攻撃」
「なるほど……しかしこれは……」
「これ、抜けるな。思ったよりも飛行速度が速い」
「街に行かれたらヤバ…………なんか真っ直ぐこっち来てるでござるなぁ?」
「来てますねぇ……。エリートシーフにライドバグですか」
「空からの強襲で頭叩こうって事? なめられたもんだね!」
「流石にこのまま街はゲーム的にないか。少なくともこの序盤じゃ辛すぎる。ま、俺らからしたら丁度いいね?」
「よっしゃ! こいこい!」
「姫様と音楽隊守らないとね?」

エリートシーフさん……こちら慌てふためくこともなく、やる気満々です。かく言う私もそうなのですが。
せっかくのお祭り、見てるだけでは寂しかったですからね。
殺ってやりましょう?
レイピアを抜き放ち、【ダークランス】の詠唱を開始します。

「さあ、何体抜けてくる?」
「えーっと……12体でござるなー。6体1分隊として、2分隊は落ちた」
「半分は落ちたってことか。降りてバラバラに動き出すと面倒だが……」

ライドバグが死んで、プレイヤーど真ん中にシーフが落ちたようですね。
当然落下ダメージ後に袋叩きです。

「来たぞー」
「では先制を」

早くしないと不発になってしまいますからね。
正面から突っ込んでくる集団にできるだけ引きつけてから【ダークランス】を撃ち込みます。避けられて散らばられると困りますからね。
エリートの……しかもシーフだけあって反応が早い。ですが、下のライドバグは別です。【ダークランス】はバグを飲み込み一撃で持っていき、上のシーフがワタワタしながらこちらへ飛んできます。

「コントかな?」
「うははは! コントだな! ふんっ!」

ワタワタ飛んできたシーフに真正面から熊さんパンチが炸裂し、首が逝ったのかクリティカルで一撃でした。
本格的に戦闘開始です。

「ちぃ! やっぱ降りるか!」

ゴブリンエリートシーフは26レベ6体と27レベ5体。
ライドバグは全員8レベのようです。
シーフはバグから降り短剣で地上戦に。バグは飛び回り体当たりしてきます。

「虫がうざいでござる!」
「あぁくそう! この虫剣が滑る! 耐性め……」
「弱点の打撃めっちゃ通るぞ。シーフが普通に強い」

双剣のセシルさんは虫との相性が悪いですね。打撃が弱点、耐性が斬撃です。
私? 私の剣は魔法依存なので、すれ違いざまに刃を滑らすだけですっぱすっぱ行きますよ。ガードして止まったところをポンメルと言う、柄のお尻部分で殴ってみましたが、筋力依存なのかさっぱりでした。

シーフは速いですが、十分反応できるのでなんとかなっています。問題は短剣と言うのがカウンターしづらい事でしょうか。
リーチは圧倒的にこちらの方が長いので、最初から剣先を向けて牽制した方が楽ですね。元々刺突武器なので、使い方的にも正しいでしょう。

シーフに剣先を向けて牽制しつつ、飛んでくるバグは剣のお腹で受け流さず、刃で受け流します。そうすれば勝手に自滅するので。
刃で受け流すってなんだ……ってなりそうですが、受け流しじゃないと判定が器用にならず、バランスを崩しかねないんですよね。筋力無いですから、下手したら武器落としかねません。それは非常に困ります。

流石に高レベルだけあって微妙にしぶといシーフですが、光と闇の魔法を交互に撃ち込みつつ、近づいてきたら突き刺すを繰り返すだけで倒せますね。
バグと同時に来るならバグは放置です。
私は自動回復に耐性がありますから、割りとどうでも良いんですよ。バランスさえ崩されなければ問題ありませんし、来るのわかってるならどうにでもなります。

「姫様普通に強いな」
「戦ってるところは初めて見るからねぇ」
「必死になって守る必要が無くなったんだから、良いんじゃない?」
「今のところ余裕はあります。1対多が初めてなのでやり甲斐ありますね」
「運動神経も悪く無さそうだし、問題無いでござるなー」


1PT6人までなので、それに敵も当てはめ4分隊で24匹。
来るまでにムササビさん部隊に削られ残り2分隊。
開幕【ダークランス】とパンチにより1匹減って残り11ペア。
シーフがバグから降りて22体。
それから弱いバグがどんどん減っていき、残りがシーフ10のバグ3です。

「シーフもう1体っと!」

そしてこたつさんによりシーフが倒された瞬間、シーフ達の動きが一瞬止まり武器を持ち替え、一斉に私の方へと向かって来ました。

「ちょぉい! AI変わったでござるな!?」
「なにぃ!?」
「ちょぉ!」
「……武器を変えた? 色的に毒か!?」

相対していた人達をガン無視して、私の方に突っ込んできますね。
【パリィスタンス】はデメリットが防御低下……ならこの場合は……。

「守りに専念するので、お願いしますね。【ガードスタンス】」
「倒すまで姫様耐えてよー」

バグはこの際無視ですね。ダメージ無いようなもんですから。
【ガード】と【パリィ】を駆使してシーフの攻撃を防ぎましょう。
ああ、忘れてた。《闇のオーラ》もオンにしましょう。
そうすれば私に【ガード】や【パリィ】されるだけで状態異常にかかりますからね。後はセット効果……《反応速度強化》の恩恵で防ぎまくるだけです。
流し辛いのは無理せず防ぎます。無理にやって隙きを与えては意味がありません。

なるべくシーフが正面に来るように移動しつつ、正面からの攻撃は全て受け流し防ぎます。楽しくなってきましたよ!

「ふははは、無駄無駄無駄無駄ァ!」
「総隊長が頼りになりすぎてヤバイでござるな」
「と言うかテンションよ。キャラどうした」
「いやぁ、一度は言ってみたいセリフではないですか?」
「あー……まあ……うん。分からなくもない」

流石に全て防ぎ切るのは無理ですが、短剣の攻撃力なら対して問題にはならなそうです。不死者の私にクリティカルはほぼ出ませんし、短剣に塗られてるっぽい毒も無効ですからね。
服の防御力はそれなりに高いでしょうし、日も沈み始め《HP自動回復》による回復速度も上がっていきます。

「そう言えば、姫様ゾンビ種だったね?」
「いやそれより、あのウェポンパリィとウェポンガードの方が問題だろ? 普通あんなできねぇぞ?」
「姫様実はタンク説でござるな」
「突然出てきたあのもやもやも気になるね」
「いや、と言うかですね、ヘルプ。防御スキル的には美味しいですけど、この数は結構集中力必要なのですが……」
「ああうん、やるか」
「予想以上に余裕そうだったからつい」

全員が私に首ったけだったので、それからのシーフはさっくり死んでいきました。
ライドバグ? 速攻で消えましたよ。
死に戻りから帰ってきた人達もこちらの増援になりましたからね。また前線に走って行きましたけど。


〈《刀剣》がレベル25になりました〉
〈《刀剣》のアーツ【ラッシュ】を取得しました〉


そして、こっちの司令部を襲っていたゴブリンエリートシーフ達が全員倒されると、ゴブリンジェネラルと取り巻きのエリート達が動き始めたようです。

「シーフ達の最初は24体。残り10体を下回り不利と悟ったか、一気に総隊長を殺りに動いたからなぁ。油断ならん」
「そして司令部強襲が失敗して、ボス達が動いたでござるな」

ゴブリンジェネラル レベル36。
ゴブリンエリートファイターx60 レベル26~28。
ゴブリンエリートアーチャーx48 レベル24~26。
ゴブリンエリートメイジx36 レベル23~24。
ゴブリンエリートプリーストx24 レベル25。

が、ボスと取り巻きだそうで。
本隊にはゴブリンエリートシーフがいないようですね。全てこちらを狙いに来たのでしょう。

「取り巻きのエリートが多いな。結構死に戻りがでそうだ」
「シーフは姫様との相性が悪すぎただけで、普通に格上だからなぁ……」
「ファイター9体とかだったら危なかったでしょうね。敵の火力的に」
「取り巻きは多いけど……大体150体ぐらい? こっち万いるんだから、すぐ終わるよね」
「168体とボス。死に戻りした人はドンマイですね。運が無い」

と思ったら、自軍の方で爆発がおきました。

「……【エクスプロージョン】か!? メイジやべぇな!」
「……不幸な人、結構いたでござるなぁ……」
「確かに、レベル的にあっても不思議じゃないのか……」
「『総隊長より各隊長へ。メイジが【エクスプロージョン】を使用しました。優先的に排除してください』」
「装備的に魔法はいってぇぞー……」
「魔法防御はまだ無いからねー……」
「敵にプリーストがいるせいで結構耐えてんなぁ……」

人数にしては耐えている……と言うだけなので、結局取り巻きは数の暴力で消えていきました。
ゴブリンジェネラルはボス補正があるのか、HPゲージが全部で3本ありますね。
まあ、私達は見てるだけなのですが……。

ゴブリンジェネラルはグレートソード的な両手剣を片手で振り回しており、金属鎧も装備しています。完全武装ですね。
どっから調達したその剣と鎧? と聞くのは無粋ですかね。ゲームのMobですし。そこはリアリティよりゲーム要素を優先したのでしょう。
流石にゴブリンジェネラル(素手・裸)はこう……可哀想ですし、見た目も……ね。
強奪したバックボーンとかあるのかもしれませんが、それだとかなりの数やられている事になりますからねぇ……。

「タンクがかなり苦戦してるでござるなぁ」
「《防御》を《大盾》にしてからがタンクの本番だからねぇ……。現状じゃ最初からタンクやるつもりの人しかなってないだろうし……」
「何よりジェネラルの攻撃力がヤバイなあれ」
「直撃するとワンパンかー。まあ、盾持ちより前に出るのが悪いんだけど」
「ダイブ型だけあって一人称しか無いからねぇ……。従来のゲームと違って位置取りが難しいよね」
「そこはもう、慣れでござるな……」
「プレイヤーの数も数ですからね。さぞかし動きづらそうです」
「だねぇ……お、ゲージ1本目逝った。あ、怒った?」
「定番だねー」

赤い湯気みたいなオーラに包まれたゴブリンジェネラルは、怒りの咆哮からの大ジャンプで、剣を地面へと叩きつけました。

「うわー……あれは避けるの辛いぞ」
「辛いってか……無理じゃね? 集団にジャンプ斬りとか容赦無さすぎて笑えるわ。間違いなく有効だな……。ストンプ効果ありか?」
「あるっぽいね。お、ジャイアントのタンクが頑張ってる。やっぱ迫力あるなー」
「正しく戦争でござるなぁ……」

セシルさんやルゼバラムさん、こたつさんが実況してくれます。私とムササビさんはのほほんと見学中。
ジェネラルもジャイアントもお互い3メートル近いわけですからね。迫力満点です。
ジャイアントタンクの難点は、でかいので後方支援がし辛い事ですね。
逆に安心感は凄いらしいですけど。

時間かHPか分かりませんが、怒り状態も解除され比較的大人しくなりました。
そしてHPゲージが2本目の半分に来た時、再び怒りの咆哮。
今度はジャンプ斬りではなく、ショルダータックルのような体勢で走り回り出し、一定距離走ったら一回転し剣を振り抜きます。

「いや、うん……」
「確かに、それも効果抜群だなぁ……」
「同じサイズならすぐ止まるだろうけどねぇ……」

こっちは集団です。つまり範囲攻撃になる振り回しが非常に効果的。
あの巨体で走り回られるだけでも、案外馬鹿にならないダメージが入るようで。

「タンク必死だなありゃ……」
「あれ特殊行動でヘイト無視してるよね?」
「してるなぁ。普段はちゃんとタンク攻撃してるっぽいからねぇ」
「数が多い分、犠牲が結構出てるでござるが……削るのも速いでござるな」
「攻撃範囲が広いのも問題かなぁ」

2本目のHPゲージが逝ったようです。これがラストゲージになりますね。
再び怒りの咆哮からのジャンプ斬り……からの回転斬り。
着地狙いしようとした人達がぶっ飛びます。
これは酷い。
ジェネラルのジャンプ斬りは剣の叩きつけにストンプ効果がありますから、それを避けるためにもジャンプする必要があります。
つまり、着地狙いしようとした人達もジェネラルへのジャンプ攻撃状態になるので、避ける事は不可能ですね。空中ですから。

「見事な釣られクマ……」
「うっわぁ……楽しそうだな……」

羨ましそうですね、セシルさん。

「Wクエストの難易度かなり高いなー。これほぼ最弱でしょう?」
「だろうな。レベル差無かったらジャイアントのタンクで止められそうだし」
「正直ボスだけならレイドレベルでござらんか?」
「まあ指揮官が戦う事になる時点で、戦争じゃ負けですから?」
「確かにね。あのゴブリン軍団が全滅した時点で、戦争じゃほぼ勝ち確か」

そしてジェネラルのゲージが半分になった時、再び怒りの咆哮。
回転斬りからの……突進しながら両手剣をぶん回しています。
それはそうと、ジェネラルがバッチリこっちをガン見しているんですが?

「おや? こっち来てるでござらんか?」
「ガン見されてんな」
「……我々隊長組に、タンクはいません」
「……ムササビ、回避盾はよ」
「はよ」
「正気でござるか!?」

とか言っている間にも、突進が止まる事は無さそうで。
あれ、一回発動したら止まらないタイプですかね? タンクが正面押さえている間に、周囲から滅多打ちされてるのですが……。

「頑張れタンクー」
「ふむ……両端のプレイヤーが暇そうですね」
「密度多すぎてやること無いか」
「今のうちにこちらに来て貰いましょうか?」
「そうしようか? こっちガン見してるもんね」
「つーと……俺とこたつの部隊だな」
「お願いしますね。真っ直ぐこっちに来るでしょうから、挟むように道作れば良いのではないでしょうか」
「うん、そうしよっか」
「了解した」

外側にいたプレイヤー達が部隊長の指示によって、ワラワラこちらにやって来ます。現状じゃやること無いでしょうからね。
盾持ちを一番前に、近接アタッカーを次にして、その後ろに遠距離組が並びます。

「こっちにこさせなければ、あのまま終わるんじゃね?」
「流石にそこまでバカなAIじゃ…………なかったね」
「なかったですね」

遠心力もバッチリ乗った回転斬りでタンクがぶっ飛び、数人だけのタンクじゃ止められずに突破されました。ノックバック耐性欲しいですね。
ジェネラルはそのまま真っ直ぐこちらへ走ってきます。
両側にプレイヤー達が並び、私の前に部隊長達が横並びになり袋小路状態へ。
両側のプレイヤー達から、通る際に攻撃されてもガン無視ですね。

せっかく真正面から走ってくるのですから、遠距離攻撃と行きましょうか。
とっておきです。【ガードスタンス】から【アタックスタンス】に切り替え。
正面にいるセシルさんとルゼバラムさんに道を開けてもらい、レイピアを抜き半分ほどの魔力を流します。
これで【螺旋魔導増幅炉スパイラルマギアンプ】が起動。レイピアの周囲を螺旋状に光が取り巻きます。
そして……。

「【魔力解放リベルタ】」
「おぉ!?」
「かっけぇ!」

パキィンとオーブの割れる音が武器から響き、螺旋の光が爆発的に増幅します。

「【ディスタンスソード】」

【ディスタンスソード】は飛剣と呼ばれるアーツで、ロマンを感じるがエフェクト的には非常に地味。なぜなら何かモヤのような物が三日月型で飛ぶだけ。
しかし【螺旋魔導増幅炉スパイラルマギアンプ】と【魔力解放リベルタ】が乗り、エフェクトが豪華な飛剣が突っ込んでくるジェネラルに直撃です。
少々悲痛な叫びを上げつつも、ジェネラルの突進は止まらず。やっぱり一度発動すると止まらないタイプですね?
セシルさんとルゼバラムさんに場所を譲りましょう。

「おぉ……目に見えて減ったでござるな……」
「どんな火力してんだ?」
「姫様の戦闘スタイルがなんとなく分かった気がする」
「来るよー!」

今のうちにポーチからオーブを取り出し、武器に補充しておきます。

「すごい迫力だな!」
「はっはー! 此処から先は我々四天王が通さんでござ……おっふぅ」
「ぬわっ」
「おわっ」
「やっぱダメだー!」

呆気なくふっ飛ばされた四天王隊長4人(笑)であった。
そして笑えない事に、アレの狙いは私の訳でして。【ガード】なんてしたら死にそうですね。【パリィ】で対応しましょう。
スタンスは【ガードスタンス】に切り替えましょう。

思いっきり両手持ちして斬りかかってきたジェネラルの両手剣を受け流します。
そしてこの流れは……回転斬りをしゃがんで回避する際、上に跳ね上げます。
そしたら今度は再び回って斜めに切り上げが来ました。
容赦無さすぎて笑えますね。殺意高すぎですよ。

「うん、姫様パリィ型サブタンクできるな。それはそうと、姫様を殺らせるなー! 確実に評価下がる気がしてならん!」
「『おぉー!』」
「背中ボコれ背中!」

遠距離やら何やらと背中を殴られてるにも関わらず、一向にヘイトは私のまま。
私と変わるために来たタンク達もしばらく防いではふっ飛ばされ、また私に。
それを繰り返すこと数回、漸くジェネラルが地に倒れ、粒子になりました。
Wクエストは死体が残らないらしいですね。

あ、またセリフがある。

「『我々の勝利です!』」


〈〈ワールドクエスト:始まりの街防衛戦、完了〉〉
〈〈クエスト評価を確認中…………〉〉


「『うおおおお!』」


〈〈総隊長死亡回数…………0回〉〉
〈〈部隊長死亡回数…………0回〉〉
〈〈異人兵死亡回数…………7157回〉〉
〈〈防衛対象の被害…………0%〉〉
〈〈住人の死亡人数…………0人〉〉
〈〈冒険者死亡人数…………0人〉〉


やはり項目がある以上、私達が死んでたら下がったのでしょうね。
そして分隊長含む他のプレイヤー達はそれなりに死に戻りしたようで。
防衛対象の被害は恐らく街の被害率でしょう。
住人の死亡人数はそのままで、冒険者死亡人数は住人の……でしょうね。
下がって貰ってて正解でした。

デスペナは普段全ステータスが一定時間低下、取得経験値減少、所持金半減、装備品耐久減少です。
しかしイベント中は変更があり、通常より多く装備品耐久減少、イベントエリア復帰制限で他は無しになっているらしいですね。
PKされた時と、PKが返り討ちにあった場合などはまた少し違うようですけど。


〈〈クリア評価…………Sクリア!〉〉
〈〈更にパーフェクトクリアとして、報酬にボーナスが追加されます〉〉
〈〈無傷で守りきったため、住人からの異人に対する評価が上昇しました〉〉

〈種族レベルが上がりました〉
〈《闇のオーラ》がレベル20になりました。効果が上昇します〉


再び空からホーホー聞こえ、天を覆う程の大量のフクロウから、プレイヤーそれぞれに報酬を落として行きました。

「流石にこのフクロウの数はちょっと怖いね……」
「猛禽類でござるからなぁ……」
「プレイヤーの数とイコールだったんでしょうね……」

フクロウの数に引き気味なこたつさんと、しみじみ呟くムササビさん。今回のは神の(運営の)使いでしょうから猛禽類? って感じですけど。そもそも生物か怪しい。

さて、報酬を確認しますか。
まずお金が……15万丁度ですか。
後は……なんかゴブリン系のドロップが大量にありますね……。

「…………嬉しくねぇ」
「まあ、相手はゴブリン軍団だったもんね……」
「意味は分かるでござるよ? でも納得はしたくないでござる……」
「当たりはエリートとジェネラル素材って思って良いね……」
「これ、もしかして一番の報酬は住人からの評価上昇ですかね?」
「そうかもしれないな。評価ってつまり好感度だろ?」
「だろうね。好感度が高いにこしたことはないよ。結構会話で情報くれるからね」
「普段交流無い住人からの好感度も多少上がったと考えると、悪くないですね」

隊長組5人で話してると後ろからリーナがやって来ました。

「お姉ちゃん良いの出たー?」
「うーん……特にこれと言って当たりは……ゴブリンジェネラルの魔石ぐらい?」
「魔石って言うと……現状換金アイテムだね……」

さて、戻って《料理》の続きでもしましょうか。
皆は少し休憩して狩りに行くそうですよ、元気ですね。

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