虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
侵雪纏い
「さすがにここまでやれば……よし、変化は無しっと」
《総討伐数百二十五体。このフィールドにおける、遭遇戦闘型の魔物の存在がすべて消失しました》
「つまり、野生で現れる魔物を全部倒せたんだと……経験値、凄いな」
結局、魔力と器用さしか上がらないわけだが、それでも今の俺はかなり強化された。
器用さに限れば、そう言い切れる……魔力は新技術を開発するたび、コスパが悪い物を試すと一度は魔力切れになるんだよな。
一度に籠められる魔力量が増えたお蔭で、作業能率などは高まったんだが。
「おー、日射しが出てきたな……けど、中途半端だな」
《このフィールドの王が、まだ残っておりますので。勝利することで、ここに太陽を取り戻すことができます》
「物凄く主人公っぽいイベントだ……」
なんかこう、『○○を取り戻す』というパワーワードがあれば主人公な気がする。
実際には、特殊な兵器のスイッチを押しただけなので全然主人公じゃないんだが、それでも興奮はしたくなった。
「このテンションなら、ボスを狩ろうという気になれるな」
《ですが、旦那様の姿が世間に露見してしまうのでは?》
「そうだな……『SEBAS』は分かってくれていると思うが、どれだけ隠そうと対策はしていても、必ずバレるだろうし……隠さない方が隠せるか?」
《少々お待ちください…………………………その可能性が高いかと。簡易演算の結果、今の状態で放置した場合よりも、ボスを討伐した方が旦那様の身の安全が確保できるという結果が出ました》
かなり長考してくれたので、おそらく間違いないだろう。
木を隠すなら森の中、と俺は考えていたんだが……『SEBAS』はどんな作戦を閃いてくれたのだろうか?
◆ □ ◆ □ ◆
どうやら『侵雪』が降る範囲内では、例のキューブに触れる必要は無いようだ。
環境を奪われた結果、脈にも何らかの影響が起きて封印が解けてしまっている。
そして、こちらの人々も侵入ができないようにボスが現れ道を塞ぐ。
本来は、どこかに潜み『侵雪』の維持を行うボス……だが、配下となる魔物すべてが殲滅された結果、動かざるを得なくなった。
それがこの世界の理であり、従わなければならない絶対遵守のシステムだからだ。
「おいでなすった」
《侵雪獅子──魔物そのものが『侵雪』であり、生きているだけでそこに魔物が生みだされます》
「つまり、幹部の一人ってことか」
《『侵雪』をより広範囲に降らせるため、向こうが用意した使徒のようなものでしょう》
吹雪を身に纏う真っ白なライオン。
そこから漏れた雪が地上に着くと、そこからボコボコと魔物が生みだされている。
「晴れた、というよりあっちに吸収されたって感じだな。完全に、アレを倒せば解放される感があるし」
だがそれだけに、濃密な殺意がある。
ここら一帯の支配領域を奪い取った張本人とも呼べるからな、今の俺は。
「とりあえず、解放しちゃいますか!」
『GAOOOOOOOOOOOOOO!』
挑発に乗ったのか、怒り狂うライオン。
さてさて、どれを試そうかな?
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