虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

滞在一日目



 それからは……まあ、モフモフの虜となった家族一同暴れ回った。
 マナーはそれでも守ったが、ダウンする魔物たちが続出する事態に。

 ……全員満足そうな顔を浮かべ、夢の世界へ旅立って逝ったよ。

『どうするのであるか』

「おお、生きていたのか。ルリのあれを受けて立っていられたのは、たぶん初めての快挙だと思うぞ」

『……つい先ほどまでダウンしていた』

 最初の方に倒れていた風兎が、数時間経過した今ようやく復活した。
 世界樹の根元で何をやっているんだと怒られそうな気もするが、ゆるふわな日常が過ぎていく方が樹も嬉しいだろう。

『それよりもだ、あれがお前の家族……なんというか、独特の空気を持っているな』

「そうだろう、そうだろう。俺と違って、かなりの有名人だからな」

『そうなのか?』

「おう! 自慢の家族だぞ」

 チラリと様子を窺えば、ダウンしたモフモフたちを撫で続けている……寝たまま。
 執念が成す技なのだろう、顔はとても満足気だが正直少し怖くなってきた。

「……自慢の家族、だぞ?」

『諦めるな』

「いや、この光景を見るとな。ああ、それより風兎、世界樹が成層圏に届くのはいつ頃になると思う?」

『前に挙げていた星海への旅行か。それならば、あと数千年はかかるだろう。だが、貴様の技術があればどうとでもなるだろう。つまり、私に分かることはない』

 魔物の装甲を使って、宇宙船モドキの開発には成功しているんだ。
 あとは無人での実験を繰り返して、俺を乗せて数回試せば実用可能だしな。

「そっか、まあもし完成したらいっしょに星の海でも見に行こうか。美味しいものを持っていって、そこで飲食してな」

『ほぉ、それは面白そうだな』

「ああ、楽しみにしておけ」

 それから数分後、家族は起きた。
 決してもふもふから手を放そうとしなかったのだが、そろそろ嫌がると忠告したら渋々手を放す……うん、嫌われたくはないんだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 アイプスルの街へ移動した。
 ほとんどの住民が魔物なこの星だが、産業の推進のために人間が生活するような環境も整えてある。

「──と、いうわけでこちらが俺の家族一同だ。全員、挨拶を」

『よろしくお願いしま(~)す』

「セバヌス、カエン。二人がこの街に居る間は、三人のサポートをする。まあ、言うなれば万能執事だな」

『万能執事?』

 首を傾げるルリ、ショウ、マイ。
 だが肯定するように、コクリと頷きセバヌスは三人に執事の使命を伝える。

「どのようなことであれ、注文させていただければ叶えましょう。こちらの魔道具のここへ魔力を流していただければ、お求めの品を持ってすぐに向かいますので」

 綺麗にお辞儀をし、優秀な老執事感を醸し出している。
 ……そして、滞在一日目が始まった。


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