虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

天の戦い その07



 いい場面での登場を要求したい。
 現状を把握した者であれば、いかに聖人であろうともそんなことを思うかもしれない。

「……なぜだ、どうしてこんなことに……」

『アナタ~、今助けるわ~』

「お、おーう。な、なるべく早くなー」

『ええ~。分かってるわ~!』

 揺れ動く密室の中で、薄い壁を越えて聞こえる声にそう返しておく。
 心配されているんだな、そうホロリと流した涙はジュッと音を立てて消えていく。

 おまけにここは少し臭い。
 それは場所が原因なのか、それとも場所に影響された自分が原因なのか……。

 すぐに終わる回想をすれば、理解してもらえるだろうか。

  □   ◆   □   ◆   □

「ルリー! 助けに来た……あっ……」

「アナタ~!」

  □   ◆   □   ◆   □

 悲しい息漏れが表すように、突然の出来事で俺はルリと引き離された。
 そして臭い豚箱に収容され、直接会うことも許されずに閉じ込められている。

「いったい、俺が何を間違えたというんだ。夫が妻を助けようとするこの行為に、どんな問題点があったというんだ」

 無い頭脳を絞りだして考えてみれば、答えは一つしか出てこない。

「……必要とされてなかったからか」

 加えて言えば、求められていたのかもしれない──魔物に捕まるロールが。
 望まぬ展開を起こさないルリの運ならば、自分や周りに悪影響が及ばないようにできるかもしれない。

 さぁ、そんなときに突然現れた一人の男。
 ルリの運の干渉も無く、都合がいいのか虚弱すぎて戦闘には向かない者……うん、悪役でなくても使える雑魚だと思わないか?

「ええい、ままよ! ルリが居るんだ、失敗なんか絶対しない!」

 こういうときの賭けに失敗したことはないからな、信頼はグンバツである。
 狭い豚箱で体を動かし、どうにか取りだしたのは一本の短い杖。
 先端からは、バチバチと火花が出ている。

「『殺傷モード』──オン!」

 瞬間、世界は白に包まれる。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 殺傷モードは電撃が尋常では無いほどに消費され、相手を確実に殺せるように設定してあるのだが、その際は強すぎて自分自身をも殺すというデメリットがある。

 だがこれ、実は何も感じる間もなく死ねるので一種の救済とも言えた。
 実際、白くなってからの意識は完全に遮断されていたからな。

「よいしょっと……ふー、ようやく出れ──ゴブッ!」

「なんだ、アナタがやったのね。てっきりこの魔物が、二段階進化をしようとしているのかと思ったじゃない」

「…………」

「あら、どうかしたの?」

 そのせいか、ぼやけていた視界。
 耳に響くその声は、ノイズ越しに訊いていたものよりもはるかに強く印象を残す。

 ──女神、なんだかそんな単語が頭を過ぎる我が妻であった。


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