虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

裏五天談 その03



『ハックは女だったか! てっきりガタイのいい男かと思ってたぜ!』

『そう見えるように振る舞ってたからな! オフ会に出てなかったのも性別変えてたからだし、そもそも遠かったんだよな。まあ、それはともかくまさか、『渡り船』の知り合いに会えるとはなんてな。何でも情報屋は見つけてたし、聖女……いや、聖母も把握はしてたけどよぉ!』

 旧交を温めるように、彼らのトークは続いていく。
 何でも情報屋とはタクマのことで、聖女改め聖母はルリのことだ……結婚したからな。

 だがまあ、全員がそういった呼び方をしていたわけじゃない。
 普通に設定した名前で呼ばれていたこともあったし、むしろそっちの方が多かった。

 ……裏でだが、一番は『神運』だったな。

『やっぱり、暗殺者と言えばビックな男がやるべきだろ? ラノベみたいに女が暗殺者をやってもアレなわけだし、どうせなら隠れる気が無い暗殺者をやってみてぇだろ!』

『話が矛盾してるぞ』

『あーん、どこがだ? 暗殺者、仕事がデカい、夢がデカい……合ってんじゃねぇか!』

『いや、合ってないから』

 ある意味旧友だからか、軽い口調で話すことができる。
 一つのオンゲーだけでなく、複数の場所で同じ名を名乗ってきた『渡り船』。

 意外とメンバー数は絞っていたが、やはり少しずつ数は増えてたんだよな。

『そういえば、あのムキムキがキーシなのは分かったけど……お前は誰なんだよ?』

『オフ会は行ったか? 俺はハックと違って行ったはずだぞ』

『行った』

 俺がキーシをキーシだと気づいたのはそちらで見た姿と、こっちでの姿がかなり酷似していたからで……逆もまたしかりか。

 だが、どうにも思いだせないご様子。
 仕方ないと言えば、仕方ないんだが。

『あるときはロームとタメを張る色物特化魔法使い。あるときはキーシと同じくらい攻撃しかできない物理特化。またあるときはハック以下、というか目立ちまくる暗殺者……さて、心当たりはあるだろうか』

『……『ドラジー』以外の話か』

『心当たりがあるのか?』

『ハックはドラジーだけだったか。居たんだよな、『渡り船』に。適当なキャラメイクなはずなのに、一番上だったヤツ』

 なんだか確信めいた発言をするキーシ。
 最後の発言で、ハックもまた答えに近づいたようだ。

『ってことは、まさかお前は……!』

『ふっ、やはりバレてしまった──』


『『…………誰だっけ?』』

『おいっ!』


 ちなみにだが、先ほど挙げた例は実際に経験したことだ。
 ランダムは本当にランダムで、だいたいのオンゲーではずれだと笑われていたな。

 まあ、俺はそれに満足してたからいいんだけど……問題は、コロコロと変えているせいか強い印象が残らないってことだな。
 やっていることは分かる、けど誰がやっているかを気にしなくなっていった。

 ──忘れ去られるべくして、忘れられたわけである。


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