虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
野生王 その18
そして、あれから数日が経過した。
内政に関わらずに済んだわけだが、何か面白いことがないかと【獣王】の様子を窺いに行って──捕縛される。
いや、その表現は正しくないか。
行ってみたら【獣王】が誰の了承も得ずにお出かけしていて、その尻拭いをやらされたとでも表現しよう。
もちろん、そのあとは『おいかけっこ』をしたわけだが。
みんなで捕縛した【獣王】を監視し、逃げださないように頼まれてしまい、半ば働いていたんじゃないかと正直思う。
ある意味『超越者』すら手玉に取る内政官の皆さま、恐ろしいです。
「──けど、それも今日で終わりですか」
「も、もう少し居ませんか? なんでしたらそう、いっそのこと国王に!」
「【獣王】様を目指すには、少しばかり非力ですので……ただの友人として、次も足を運ぶことにします」
そうですか、と残念がる外交官の犬耳獣人の男だが、この言葉がほぼ本気であることをまじまじと知っているのでどう反応していいか分からない。
いちおう普人族でも【獣王】に成れるらしいのだが、すでにデータは完全に取らせてもらったので必要ないし(本人協力)。
……暇潰しだと言って逃げる度に戦闘を繰り返せば、そうもなるよな。
「せーじゃ!」
「ああ、ヤー君ですか。短い間でしたが、楽しかったですよ」
「そうか!」
ヤーについて【獣王】に訊いても、拾ったの一点張りなのでよく分からなかった。
ゲームでいえば、まだフラグの回収が済んでいなかったのかもしれない。
いずれ真実を聞いてみたいものだ。
ヤーにも【野生王】の戦闘データの解析に協力してもらったので、そちらの方も必要に応じて使用可能となった。
お礼は美味しいお菓子と綺麗な武器、喜んでいたので俺も嬉しくなったよ。
「なあ、もう帰るのか? お前みたいな便利な奴が居ると、仕事が捗るんだが」
「捗る、というより減るんでしょう? 私もかなり手伝いましたしね。約束事を盾にされたので行いましたが、むしろ書類を出す側として関わってみせましょう」
「……止めてくれよ。俺はそういうことがしたくて、【獣王】になったんじゃない」
王の責務とは軽くはないのだ。
日本だって、上司は部下の責任を取らなけれなばならない。
それができていないから失敗するところもあるし、できていると思い込んでいるから失敗する例もある。
「私たちとの貿易は、きっとこの国を豊かにするでしょう。周りとの調整を気にする必要がありますが……まあ、そこは追々。大変お世話になりました、次はもっと楽しいことができることを望んでいます」
「せーじゃー!」
「ええ、また会いましょう」
歩を進め、王城を出て街を去る……さて、アイプスルに帰りますか。
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