虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

野生児 その09



 S5W5

 ちょうどスタート地点から十区画離れた場所に、それは存在していた。

「……街、ですね」

「そうだ!」

 正確に言えば都、なんだろうが……。
 巨大な壁で覆われた街が、区画に入ってきた俺たちの視界に入る。

「ヤー君はあそこに住んでいたんですね?」

「うん!」

「それはいつからのことですか?」

「生まれた頃、からだぞ」

 つまり、野生で生きてきたわけではない?
 じゃあ、なんで【野生王】なんだろうか。

 生まれつき、そういう職業に就いているというのもあるのか? こればかりは必要性を感じなかったから訊いてないんだよな。

「せーじゃ、早く行こう!」

「ええ、分かりました」

 しかし、入場とか大丈夫だよな?
 いちおうエウスト(布の町)にもちゃんとは入れたし……イケるよな?

 逸る思いでいっぱいのヤーは、俺を押しだしてどんどん街に向けて進んでいく。
 死んで死んで死に続けて……それが収まるのは、入場門に近づいてからのことだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「おおう……」

「どうかなされましたか?」

「いえ、なんでもありません──はい、ギルドカードです」

「確認させてもらいます」

 俺は今、複雑な心境でいる。
 渦巻く感情のままに動きたいが、ヤーも見ているため苛烈な行為はできないという、理性によって維持された複雑な想いだ。

「ねえ、ヤー君。街にはああいう人がいっぱいいるのかな?」

「そうだ! トー様もそうだぞ!」

「そうなんですか! 凄いですね!」

 会話も『エクスクラメーションマーク』でいっぱいだ。
 それぐらい嬉しいというか、盛り上がるというか……うん、喜びの感情である。

「お待たせしました。入国に問題はございませんでしたので、入国を許可します。ギルドカードは返却しますね」

「はい、ありがとうございます」

「そちらのお子さんは……お連れですか?」

「ええ、そうです」

 ヤー君曰く、こっそり抜け出したからバレたくないとのことで……千苦にも使わせた魔道具で偽装を施している。

「お子さんが街の中で問題を起こしたら、責任は保護者である貴方に向かいます。それを充分承知してくださいね」

「はい、分かっています」

 俺の返事に納得すると、入門官は笑顔を浮かべて告げる──


「ようこそ、獣人の国『アニスト』へ!」


 そう、ヤーの住んでいた場所とは獣人たちの楽園アニスト。
 モフモフとモフモフ、それにモフモフに溢れた真のエデンだったのだ。

 うん、モフモフがいっぱいと言われてなんとなく動物系をイメージしていたが……まさか獣人の国だったとは。

 ──ヤー、いったい何者なんだろうか。


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