虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

信賞必罰



 未だに魔物は襲ってこない。
 なんだか中立地帯説が、かなり高まってきている今日この頃。

「平和だねー」

 結界を張っているので、日射しや涼風程度で死ぬことは無い。
 というか、わざわざこの場に死を持ち込みたくないので今回は絶対に張っておく。

「『SEBAS』、このフィールドにボスはいないよな?」

《はい。そういった存在は……ですが、ある条件を満たすと出現します》

「へえ、条件か」

 ゲームでもそういう隠しイベントみたいなのは存在する。
 何をどれだけ倒す、とかある特定のアイテムを所持して、とかだな。

「それで、どういう条件なんだ?」

《この森の中で溜めたヘイト値が、一定以上に至った場合です》

「……うん、絶対に気をつけよう」

 殺したりすることは論外で、この場所の住民たちへ危害を加えることもご法度だな。
 普通の感性を持ち主であれば、この自然の美しさに戦闘意欲など消えるはずだが……いつの世も、例外というものは存在する。

「ここをアイプスルに持っていくわけにはいかないしな。憩いの場所を独占するなんて、俺はいつまでも変われていないと言われそうだし……」

 あくまで、森を守護する存在のお手伝い程度に留めておかないとな。

「けど、俺がやれることなんて……無いな」

 森は自然界にある時点で、とっくに自浄作用を有している。
 人間という生物が暴れ回ったとしてもボスが出てくるように、ちゃんと仕組みが成立しているのだ。

「なんでもかんでも、介入していればいいってわけじゃない。必要な時に、必要な分だけ手を伸ばせばいいわけだ」

《では、どうされますか?》

「監視ドローンを置いておこう。対破壊工作用として、一台だけ」

《畏まりました》

 だからこそ、森が支えきれない程に人間が暴れた時だけ俺がこっそり力を貸そう。
 荒れ果てた大地に豊穣を、禁忌に触れし者に裁きを……信賞必罰だな。

「では──発射!」

《監視ドローン、待機状態で配置します》

 ここの住民たちの迷惑にならない場所へ、ドローンを配置しておく。
 エネルギーのチャージは満タンだし、大気中の魔力だけですぐにチャージ可能だ。

「よし、これでバッチリだな。あとはやることもなくなったし……そろそろ行くか」

《旦那様、どちらに向かわれますか?》

「そうだなー。とりあえずは北の果てまで向かってみるか? 『超越者』探しも、できるなら進めておきたいし」

 つまりはそういうことだ。
 いちおう住処を決めている『超越者』が、北のどこかに居るらしい。

 ……見つからないとは思うが、どんな場所なのかは見ておきたいし。


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