虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

木漏れ日



 N4

 現『錬金王』であるユリルと出会った湿地帯を抜け、次のエリアに足を延ばしてみた。
 ヌメッとした湿気は薄れ、木漏れ日が差し込むなんだかヒーリングスポットのような場所が出現する。

 ちなみに今は『錬金王』との話し合いを終え、そのついでとばかりの冒険中だ。
 冒険がついでなのか、と訊かれると悩むところだがな。

「『SEBAS』、これって……」

《光景としては美しいものですが、魔法的なシステムは存在しておりません》

「まあ、そりゃそうか」

 星脈のような場所はたしかに存在する。
 その近くでは急速な回復を見込めるし、もし水があればその力を溜めこんだ『超神水』みたいな代物になるだろう。

 関係ないが、どうやらそういうスポットを占領するとボーナスが入るらしい。
 その一つとして、メリットしかない爆発的な回復量が挙げられる。

 ……俺には魔力回復の恩恵しか齎さないそれだが、一秒毎の回復量が上がるのは魔法を使う者であれば誰でも歓喜することだ。
 そのため、もし占有に関する情報が休人に知られれば戦争ものだが……幸いにして、まだそういったことは無いらしい。

「さらに言えば、俺は『アイプスル』に限り無限の回復力だ……全部保持してるし」

 星一つ、占有しているのだからその回復量は計り知れない。
 魔力の枯渇なんてありえないし、なったとしてもすぐに回復する。

 ──俺の魔力量が、星一個でまかり切れないなら話は別だけど。


 閑話休題それこそチートだ


 さて、散策を続けよう。
 自ら雑魚を屠りに来るような強い魔物は現れず、なんだか中立地帯のように思えてきたこのフィールド。

 ただただ鳥のさえずりを聴いたり、体を吹き抜ける風を浴びたり……湿地帯というストレススポットを抜けたご褒美だろうか?

「ここは良いな……みんなを見つけられた暁には、ぜひピクニックに行きたい」

《左様でございますか》

「もちろん、『SEBAS』やカエンにも来てもらうぞ。お前たちは、こっちの世界でできた家族なんだから」

《…………お心遣い、感謝いたします》

 感銘を受けたように、なんだか間をあけて話した『SEBAS』。
 俺としても、この台詞は少しばかり恥ずかしいものであった。

(別の機会があれば、風兎とかも連れてワイワイやりたいけどな)

 最初は家族といっしょに、二度目があればアイプスルの住民といっしょに、である。
 妖界にも子供たちが居るし、うちの世界の子供たちとこういう場所でのんびりできたらと思えてしょうがない。

「アイプスルでも再現できれば……本当に、よかったんだけどな」

 太陽が輝かないあの世界で、木漏れ日を再現するのは難しい。
 偽物で満足もできるが、できるだけ子供たちには本物を満喫してほしい。

「さて、もう少し進みますか」

 考え事は歩きながらにしよう。
 そう思い、再び歩を進めた。


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