虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
革命 その20
「そうかい……ここを去るんだね」
「ええ、するべきことを終えましたので。一度、地上に帰還します」
「地上ですか。何年戻ってないんでしょう」
「変わっていますよ、今の世界は」
まあ、すでに知っているだろうが。
休人がのさばっていることは、『超越者』同士の話し合いで話題の種の一つとして挙げられているだろうし……。
「そうですか? 伝聞でしか把握しておりませんので、実感がないのですが」
「この街で苦しむ者がいなくなったら、ぜひ行ってみましょう。変革もされていますよ」
「新しい技術が、生を尊ぶために生まれていればいいのですが……」
「ええ、そうしたものもありますよ。──私も、それを『薬毒』さんに渡そうと思っていたところですし」
そう、会いにいったのは『薬毒』の元。
善人である彼の行いに協力するため、ある物を届けようとやってきた所存だ。
「……これは?」
バッグを渡されても、理解できないか。
地球人であれば、すぐに分かるんだがな。
「この紋様は、教会のシンボルですが……それと関係が?」
「『救急箱』、という魔道具です。少し説明が必要となりますが──間違いなく、貴方の活動を助ける物となりましょう」
「救急、箱。響きはいいですね」
「とりあえず、簡単な説明を行いましょう」
説明自体は本当にシンプルなものだ。
そのバッグには神代魔道具の効果を劣化して組み込んであり、英雄に渡した魔道具よりも限定した複製能力を有する。
生みだせるのは医療に関する物、または栄養補給に必要な食品のみ。
また、複製もそれに関する物だけだ。
限定した分効率も良くなっており、魔石がなくとも自然から徴収した魔力だけで理論上はやっていける。
「──と、いった感じです。医療道具に関する説明をすると長くなってしまうため、そのうち説明書を見て確認してください。何か、ここまでの話に質問はありますか?」
「どうしてそのような品を、私に与えようとするのかというところでしょうか? 説明を聞く限り、善からぬことを考えているわけでもないでしょうし」
「──恩を、売ろうとしているだけですよ」
「恩、ですか? それであれば、すでに感じているのですが……」
食料を渡したからだろうか?
それだけで恩人となれるなら、いったいどれだけの人間が感謝されているのだろう。
「生を求める者に救済を。どうか、私の魔道具を役立ててください」
「はいっ! ありがとうございます。これを用いて、これまでよりも人々を救います!」
「そういってもらえると、頼もしいです」
さて、やるべきことは終わった。
やっと自由に休める……癒されたい。
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