虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

革命 その06



(まあ、俺は外されるわけだが)

 目の前で熱い論争が繰り広げられる。
 二人の代表者はお互いの意志をぶつけ、納得を促そうと語っていた。

(うーん、好い曲だなー。『SEBAS』は作曲もできるのか)

《お褒めいただき、光栄でございます。旦那様の望む曲を作ったつもりです。そういっていただけれるのであれば、似た曲調でこれからも作りましょう》

 二人の会話は俺の耳には届かず、代わりに聞こえてくるのは軽快な曲調の音楽。
 視界には字幕として、彼女たちの発言が浮かんでは消えていく……そのすべてがログに表示されるようにしてあるので、まあ後で確認できる。

(二人の要求は簡単──【暗殺王】は現状の維持、英雄は食料の譲渡。譲れない事情があるから、ここまで激しく話し合える……プレゼンが精一杯の現代社会人には、ここまで篤い話し合いは無理だな)

 商談でもこうしたことは起きるのだが、ここまで(英雄だけだが)感情を露わにして、言葉をぶつけ合うことはない。
 あくまで冷静沈着に、自分の主張に意義があるかどうかを伝えることが大切だからだ。

《旦那様、そろそろでございます》

(ああ、もうなのか。えっと、ログは……なら、こう言えばいいのか)

 仕方ないので音楽を止め、再び耳に入り始めた外界の声を確認する。
 そして、絶妙なタイミングで口を開く。

「──お二方、そろそろ結構ですか?」

「……今さら口を開くのか」

『やっぱり、普通の方法じゃ無理みたい』

「本来であれば、英雄様がご自身の主張のみで解決できることを望んでいましたが……やはりダメでしたか。【暗殺王】さん、例の件についてご検討してください」

 そもそものアイデアを行う前に、英雄との会談をしてもらえるように交渉していた。
 だが、それは上手くいかなったようで……革命は第二フェイズに移行する。

「神代魔道具は、その構造故に解析すらできない代物……複製など不可能と言われています。だからこそ英雄様は、このような場を設けました」

「……そうだ」

「そして【暗殺王】さんは、ただ現状のままであればいい。今のバランスを維持することこそが、最善の選択と考えています」

『そうだよ』

 とまあ、妥協はできないわけだ。
 一見できそうでもあるが、それには暗躍街すべてと交渉する必要がある……複雑な力のバランスで成り立ってるんだよ。

「そして、私の出番です──足りないというのであれば、作って見せましょう。誰もが不可能だと語る、神代魔道具の複製品を」

 数を重ねれば、経験もできる。
 直接見ることさえできれば……ああ、やってみせようじゃないか。


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