虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

情報ギルド その11



「……不法侵入とは、愚かだな『生者』」

「不法侵入、なんのことでしょう? 私は情報を求めにここへ来ただけですよ」

「チッ、考えたものだ。いったいどのように潜り込んだのやら」

 やれやれ、それを知ることこそが情報ギルドのやるべき仕事だろうに。
 俺が何をしようと、それが分からないのは仕方がないことだ。

 叡智を極めた『SEBAS』の行いは、たとえ秀才であろうと見抜くことは難しい。
 そう、人のみでそれを暴くことは難しいことだ……この世界を管理するAIレベルであれば、真理を識るだろう。

「本当に、好いギルドですね。お陰で知りたかった情報が分かりましたよ」

「ギブ&テイクは済んだ。友好的な関係は結べそうだな」

「そうですね……」

 わざとらしくため息を吐いておく。
 求めるものを得るには、自分から要求するのではなく他者から促すものだ。
 さすがに何も反応しないというのも、自分のプライドに反したのだろう……【情報王】は口を開く。

「求めるものはなんだ。先も告げたが、友好的な関係を繋ぐためにも本音は語っておいた方が良いぞ」

「そうですか? では、言いましょう」

 そっちが言えといったのだから、こちらもそれに応えるのが常だろう。

「私が求めるのは、あらゆる強者の情報ですよ。『超越者』だけではなく、王を冠する者たちの情報もです」

「……情報ギルドの長であるこの私から、その情報を買おうとするか」

「ええ、【情報王】さん。もちろん、これがどれだけ大きな取引かは分かっています。対価はしっかりと用意してありますよ」

 そう言って俺は、一枚の紙をポケットの中から取りだして提供する。

「──これは、地図か」

「ええ、お気に召すかと」

「ふむ……なるほどな。これは、それなりに価値はありそうだ」

「そのための地図ですからね」

 場に広げた地図を見て、【情報王】は何やら頷いている。
 いくらか仕込みを入れた、魔道具としての性能を持つ地図である。

「しかし、私でも見通せない隠蔽機能まで施してあるのか。これを作った者は、さぞ腕が良いのだろう」

「ある伝手から頼み込みまして、一つだけ用意させました。これの価値、【情報王】さんであれば理解できますよね?」

「…………やりづらい相手だ。この隠蔽は、あとで解除できるのだろうな?」

「ええ、もちろんです。情報をお教えいただけたのち、その術を提供しましょう」

 ったく、やりづらいのはどっちだよ。
 自分から譲歩してやりました、みたいな感じまで作りやがって。

「少し待て、今纏める」

 これから【情報王】が用意するのは、前に貰った『超越者』リストの上位版──この世界の要注意人物全員が記された、生き残るために必要な物。
 ──場所だけは、知っておかないとな。


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