虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

カジノ その22



 どれだけの時間が経ったのだろう。
 決着はつくことなく、『賭博』の権能は完全に解析を終えることができた。

 えっ、初耳だって? ……ああ、言い忘れてたな。

 すでに【魔王】の細胞を解析して得た、権能コピーは第二フェイズに移行している。
 細胞の摂取はもちろんのこと、こうして長時間権能の影響下に居ることで解析をできるようになった。

《一部コードを流用し、透視や表情偽装などはできるようになりました。カジノ内でのみ働く権能──カード書き換えや確率操作は支配領域内の賭博場でないと使えないため、現在使用不可能です》

 なんともまあ、ビジネスマンに必須の能力盛り沢山なんだか……。
 接待などで使えば、さぞ便利だろう。
 相手を喜ばせ、必要に応じて状況を自在に変化させる。
 欲しい人には欲しい力だ。

 だがまあ、そこまで欲しくはない。
 まだコピーは完全でないし、デメリットがいくつも存在している。
 それを支払ってまで使用したいものかどうか、そう訊かれると……うん、要らない。

「では、私の番ですね」

 権能を調べ終えてもゲームは終わらない。
 憔悴しきっている『賭博』の手から、再びJOKERを引き抜こうと……ん?

「いえ、こっちですね」

「っ……」

「……ああ、ババでしたか。裏を掻けば引けると思ったのですが、やはり『賭博』さんは最強のギャンブラー。そう簡単には勝たせてくれませんね」

 あらあら、本当に動揺してしまって。
 権能を使い、引く寸前にカードを入れ替えたようだが……『SEBAS』がそれを察知して教えてくれた。

 ついに矜持にまで手を出して、なんだか罪悪感が出てきたな。
 勝てば官軍、勝利が正義ジャスティスだからとあの手この手を使ってきたけど……俺のせいでここまでしてしまうとは。

「しかし『賭博』さん、そろそろ終わらせたいとは思いませんか?」

「…………あら、降参するの?」

 小さく微笑む……だが、その作られた笑顔の下には期待の眼差しが宿っている。
 まあ、そろそろ落としどころか。

「もともと私は、口止めを求めてこのゲームに応じました。これに加え、ささやかな願いさえ叶えてくれれば……私は充分です。このままやっては『賭博』さんにいつか負けてしまいそうですし、ここで手打ちとして引き分けにしてはどうでしょう?」

「引き、わけ?」

「敗北ではありません。続きはまた今度、ということにしましょう。今は私たちに新たな秘密を作るだけのお話をしていた……会談は終了ということで」

「…………」

 しばらくして、『賭博』はこの取引に応じることになった。
 引き継がれた『賭博』の条件的にも、敗北は認められなかったのだろう。
 ──なら、思考を狂わせた状態でここまで追い詰めれば、こうなるわけだ。


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