虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第一権限 その07



「──そっか。何も覚えてないんだね」

「うん、分からない」

 あれからいくつかの質問をしてみたが、残念なことに情報は集められなかった。
 名前以外にノイズがかかるようなこともなく、ただ分からないという答えだけが帰ってきた。

 名前の部分に何か秘密があると思ったのだが、特別な言語でもなくただ、ある種のNGワードとして登録されていたのが実情であると『SEBAS』から報告を受けた。

 そう、『SEBAS』を介して名を知ることでNGワードを知ることに成功したのだ。
 現実において生の声に編集が加えられないように、このゲームではそれとは逆に機械を通すことで、ノイズ付きの音を解読したというわけ。

 レムリア、地球では実在しない……というか仮想の大陸を意味するんだが。
 それと同じ名前を持つ少女、フラグが存在するなら間違いなく立っているだろう。

「えっと、レムリアちゃんはこれからどうしたいんだい?」

「……探したい」

「何をかな?」

「もやもや、ふわふわしているものを」

 質問のときに、そうした答えがあった。
 一部の記憶にロックがかかっているみたいで、その感覚が『もやもや、ふわふわ』なんだそうで。

「どうやってするのかな?」

「…………、…………?」

「何も決めてないんだね」

「うん」

 このままだと、ずっとここでどうするか考えていそうだな。
 人間種を『アイプスル』へ招くことは、できるだけ控えたい。

《どうされますか?》

「完全な縛りじゃないし、招き入れることは構わないんだが……記憶が戻ったとき、どういった選択をするかが分からないからな」

 いちおう、契約という形で縛るという方法もあるにはあるが──あとでそれを知った家族に何を言われるかを考えれば、その選択肢はあり得なくなる。

「……まあ、いっか」

「?」

「レムリアちゃん、よければうちの世界に住まないか? 君が嫌なら断っても良い。住む場所と食べる物と着る物……それに友達になれそうな子たちしか用意できないけど」

「とも、だち?」

「みんないい子なんだよ。ただ、少し見た目が普通の人と違っててね。それが気にならないなら、きっとレムリアちゃんとも仲良くなれる子が居ると思うんだ」

 確約はできないが、うちの星の住民たちは基本善人(魔物)ばっかりだからね。
 純粋というか、無垢というか……ある種一つの欲望(食欲)に忠実というか。

「分かった」

「他にも勧められることは……えっ?」

「行く」

 少し驚いてしまったが、即決したことに違いはない。
 何か思うところがあるのか、それは分からないが今はそれだけ充分だ。


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