虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

布の品質



「ありがとうございました!」

 この店で二番目に高級そうな店の布を買い終え、ようやく一息吐く。

 えっ、一番高い所は?
 いきなりなんの伝手もないのに、行けると思ってんのか!

 アポなし突撃で行けるのは、なんやかんや名声値が高いような奴らだけ。
 善性がこっちの人たちにも知られているわけだし、何よりギルドがその身分を保証してくれるさ。


 露店の品を買い漁った後、それが現在の状況である。
 できるだけ良い品をと考え、店の布を漁り始めたのだ。

「……ただし、生産ギルドはいろいろと複雑なんだ」

 布という素材を生みだせるし、それを加工することもできる生産という活動。
 それは一種の越権行為でもあるので、冒険者ギルドや商人ギルドよりも規制が多い。

 いちおう生産ギルドと商人ギルドの二つの会員である俺だが、生産ギルドはそういったわけで特権が使えないし、商人ギルドは適当な登録しかしていないので意味がない。

「なので今回、そこは諦めました」

 まあ、その気になって服に使った素材の布でも見せればイチコロなんだろうけど……。
 厄介事トラブルの種でしかなさそうなので、わざわざこの町で見せる必要はない。

「布に関する『超越者』は……いないな。機械はいるけど、そもそも生産関係自体そう多くは無いからな」

 ドワーフの隠れ里の族長や、名も知らない『機械皇』など……まあ、いるにはいる。

 もちろん、:DIY:という生産特化スキルに権能が敵うわけでもないが、それ以外のことであれば──少なくとも族長の権能は──それ以外にも効果があったので、甲乙つけがたいのだ。

 むしろ:DIY:にはないその特殊な力を解析し、再現できるように工夫する方が俺としては面白い。

「さて、布の品質チェックだな」

《すでに最後の店以外は済ませてあります》

「そうか、仕事が早いな」

 送られてきたデータを確認すると、どれも最高級とまでは言い難い代物だった。
 だが、さすが布の町なだけあって、露店で売られている布はともかく、店を構えた場所にあった布はだいたいが求めていた水準を超えていた。

「付与には使えるけど、多重刻印は難しそうだな。……そろそろできたか?」

《はい、たった今。付与、刻印共に可能。多重は二重まで可能です》

「それでも二重か……せめて四重ぐらいは刻みたかったな」

 刻める術式はいくつかあるが、最低限四つは刻みたいものがある。
 それらを簡単に纏めれば──『自然回復速度上昇』、『状態異常軽減』、『環境効果軽減』、『攻撃身代わり』といったところか。

 外せるものがあるとは思うが、星の住民たちを守るための安全装置は用意しておくのがベストだ。



 しかしある日、ギルドマスターにバレたのか呼びだしを受けてしまった。
 市販の物を作ろうと考えているのだが……やっぱり、一度は行かなきゃ駄目なのか?


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