虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

VSスタンプホース



 W7

 一つ前の『W6』は、川の流れが突然変化したため俺の進路も変更した。
 今回は川を跨ぎ、再び西へ向かう冒険を続行することにしてみる。

「そういえば、守護獣が何も出てこないのが不思議だ」

《プレイヤーが接触した、との情報もいくつか存在しております。一番多いのはお嬢様ですが、他の者も出会っているそうです》

 ……そういえば、音爆弾で怒ったっぽい守護獣も居たんだよな。
 アレもプレイヤーと接触したらしいし、たぶん解決しているんじゃないか?

「まあ、それはいっか。『超越者』の反応、何かあるか?」

《いえ、現在は確認されておりません》

 とある騎士の王様のように、街に居ると高確率でエンカウントする方がレアだがな。

 それでも疑い続けないと、どこかしらで厄介なイベントに巻き込まれてしまう。
 ……いやまあ、本当に必要なイベントなら俺に来ないはずだけどな。

「おっ、久々に普通の魔物だ」

 最近は物ノ怪と会うことが多かったので、住民を除けば敵対する魔物など久しぶりだ。

《スタンプホース、強烈な踏み付けが特徴的な魔物です》

「乗りこなせたら、便利そうだな」

《実際、そういった用途で用いられる場合もあるそうです》

 一頭の馬が、遠くから走ってきている。
 ひどくパカラパカラと軽快な音ではなく、ズシンズシンと響く重低音が地面を鳴らす。
 ……脚力が異常に強化された馬が、俺を殺すために現れた。

「野生の馬……なのか? 地球だともう、全滅してるはずだろ」

《暴れ馬ですので、飼育するだけの価値が無かったのでしょう。長い年月を経ても、未だに居ることも納得です》

 地球の現存する馬は、家畜化された馬が逃げだしたものが祖先である。
 DNAでもそれが証明されているが……まあ、特に関係ないか。

「大切なのは、この状況をどうやって乗り切るかだよな」

 言葉で語りかける……それで通用するのはマイだけだろう。
 暴れ狂う馬を捻じ伏せ、自身の言うことを無理矢理聞かせる──これまで人間には、こうした方法を取る者も居た。

「ま、一番はこれだよな──電気ショック」

 いつもお馴染みスタンガンを取りだし、馬に向けて構える。

「さぁ、いつでもかかってこ──ブゥ!」

 猛烈な勢いで進んでいた馬だが、俺が構えたスタンガンに気づくと──姿を消す。
 慌てて場所を探ろうとしたが、それよりも先に視界が暗くなる。

 不思議に思って上を向けば──そこには、3Dに飛びだしてくる馬の足があった。

「スタンプされたな……圧死か」

 死亡後、即座にスタンガンを撃ち込んで馬は気絶させた。

 馬肉、馬肉か……ジュルリ。
 屋台に持ち込むのがなんだか楽しみだ。


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