虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

陰陽師 その06



 連れてこられた先は、広い中庭のような場所だった。
 一見すれば誰もいないようだが、なんらかの方法で姿を隠しているのが死亡レーダーによって観測される。

「ここで始めるのですか?」

「そやな。ウチがやってみるから、『生者』はんは続けてやっておくれやす」

 そう言って取りだしたのは、なんだか不思議な術式と五芒星の紋様が記されたお札。

「式札、ウチらはそう呼んどります。これに自分の血を一滴垂らし、魔力を籠めると……こんな風に、式神が現れるんや」

「なるほど……」

 するとポンッと現れる、球体に角が生えたような式神。

 うん、説明を省きやがったな。
 札に術式が刻まれ、紋様の部分に血を介した座標を指定して魔力で召喚──ここまでは理解できた。

 なら、術式と紋様はどうやって決める?
 そもそも、式神との契約はどのようにして行うのか……バッチリカットしやがった。

「何か、質問でも?」

「札の術式と紋様の書き方は?」

「魔力を籠めた筆で、良質な札に書くんよ。やり方はスクロールとおんなじ、業者さんに頼むからよう分からんわ」

「そうでしたか……すみませんね、そこまで教えていただいて」

「構へんよ」

 たしかに一般人にとってはそうだろう。

 だが、スキルとして(式札作成)があれば作れるはずだ。
 能力は──レベルごとに設定された式札を魔力消費で制限付きで作成。

 紋様は詳細不明だが、たぶん個人を表すのかもな。

「なら、式神との契約はどうやって?」

「方法は二つ──召喚陣で呼びだした物ノ怪と契約する方法と、たまたま出会った物ノ怪と契約する方法や」

「具体的には?」

「どちらも、相手が納得すれば契約してくれるで。式札に二人で魔力を籠めれば、勝手に術式が刻まれるで」

 ……ここは、たぶん合っている。
 取り繕っても誤魔化せない、それぐらいに単純だからだ。

 というか、別の場所で式神について尋ねれば知れそうな情報だからか。
 これまでの部分は地域によって違うとでも言えるが、式神との契約に関してはほぼ共通の術だろうし。

「ただ、相手の格が強すぎると、式札が耐えられない……なんてこともあるさかい、気ぃつけておくれやす」

「なるほど、参考になります」

 容量のデカすぎるソフトが入らない、みたいなことだろう。
 渡された式札は粗悪品なので、たぶん最弱レベルの物ノ怪しか契約できない。

 ──『陰陽師』は知らないのだ、俺が生産スキルの極みとも呼べるものを所持していることを。

「では、これで私は失礼します」

「……へっ?」

「お世話になりました。今度式神と契約できたなら、ぜひお話を聞かせてください」

「は、はぁ……分かりました」

 たぶん、ここからもう数回ほどクレームが付けられると予想していたのだろう。
 これまでの質問で、ただの愚者でないと錯覚していただろうし。

 だが『SEBAS』から、帰還指示が来たので俺は帰る。
 何か効果的な作戦があるのだろう。

「一火さん、もう一度お願いします」

「……主、宜しいか?」

「え、ええ。頼むで、一火」

 可視化状態になった彼女に頼み、俺は元の街に帰還するのだった。


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