虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

闘仙 その01



 さて、舞台は再び【仙王】の住まう街に戻ることになる。
 一度はあっさりと登ってしまった山に、隠された秘宝があると『闘仙』さんに聞いた。
 ここが地球で秘宝が埋蔵金に置き換わろうと……まあ、普通無視するよな。
 だがここはゲームの世界で夢とロマンが溢れるファンタジーの世界だ。
 人の夢と書いて儚いと読む悲しい世界とは違い、努力が実る世界である。

 ――ダンジョンに秘宝がある!
 その言葉に心を踊らされない者はそう多くはないだろう。
 特にゲーム内でそう強くない者、強くとも大成できない者は深く思うであろう。


「――と、いうわけで独りでアタックしてみようと思う」

「急だな、『生者』」

「『闘仙』さんが言ったんじゃないですか、他にも秘宝を狙って侵入してくる輩がいるって。私はそうした輩に秘宝が奪われないように貢献しようと思っているだけです」

「……なら、独りでなくとも構わないのではないか? 秘宝の山分けは考えていない、ただ心配でな。これまで【仙王】や俺のような『超越者』が挑んできたが、誰一人として秘宝に辿り着いた者はいない」

「ご安心を、私は『生者』ですので」

 ニコッと笑顔でそう答える。
 俺が欲しいのはダンジョンに隠された秘宝でも、名誉でも無い。
 ――ダンジョンコアが溜め込んだこの場所の情報である。

 俺が攻略したダンジョン――『幼子の揺り籠』と名付けた――にはいくつかの縛りが存在していた。
 自動的に出現する魔物が全て『ベビー』系の魔物なのだ。いっさい変更はできず、何やら条件を満たさなければできないらしい。
 その条件も魔物の一部をダンジョンコアに吸収させるなど面倒なのが多い。

 だが、もう完成しているダンジョンコアを解析してその情報をコピペすることで、面倒な段階を踏まずにダンジョンを強化できる。
 故に、ダンジョンコアを破壊されることも奪われることもない、一番乗りで行くことを望むのだ。
 絶対に確保できるよう、もっとも速く。


「『闘仙』さん、そう言えば紹介状を書いてくれるという話……結局どうなりました?」

「ああ、用意してある。幸い暇な時間はいくらでもあったからな」

 ログアウトしている間に、この世界の時間は地球よりも早く進んでいた。
 そのため、昨日ログアウトしたつもりでいてもこちらでは数日が経過している。

「これが――その書状だ。店で出せば大抵の店は『生者』に商品を売るだろう。せっかくだ、ダンジョンに潜る前の準備にでも使ってみればどうだ?」

「……そうですね。もし必要になったら、使わせてもらいます」

 ――これが、ダンジョンに潜る前に行ったやり取りである。


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