虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

仙王 その12



 俺と【仙王】の戦い?
 いやいや、戦いなんて呼べるものは、いっさい繰り広げられておりませんから。

「なんで、なんで効かないの!?」

「いやー、あはは」

 何度も何度も死に続け、それでも笑って優勢を偽る。
 相手にして、最も嫌なのはどんな奴だ?
 圧倒的な力を持つ奴? 悪魔的な頭脳の持ち主? 何度でも諦めない主人公?
 そうじゃない、未知な奴だ。

 どうしてか分からない、なぜ、何? 一体全体どういうことか……。
 それが判明しない正体不明の謎だらけ、それこそが最も嫌な敵だろう。

「これは俺の個人的な意見であり、実際の大衆が出す答えとは異なる場合があります」

「きゅ、急にどうしたの!?」

「ほらほら、落ち着いて落ち着いて。しっかりと深呼吸でもしなさいな」

 そう教えると、本当に深呼吸を【仙王】は行う。
 仙人は深呼吸一つとっても何か特別なようで、仙丹とやらが一気に彼女の中に取り込まれていくのが分かった。

「……うん、落ち着いた。それでもツクルの秘密は分からない」

「それは良かったです」

「でも、今は分からなくても構わない。封じられればアタシの勝ち」

「あ、これはアカンヤツや」

 思わずエセ関西弁が漏れ出る。
 今までは、攻撃的な仙術を行ってきた。
 爆発したり雷を起こしたり、身体強化で高めた肉体で潰したりとかな。

「まずは――縛ってみようか」

 放たれる雲の縄――いや、鎖は何十何百と俺の元へ飛んでくる。
 避ける間もなく俺の体を雁字搦めにしていく鎖だが、その束縛力は凄まじく……圧死して死に戻る。

「やっぱり駄目か、なら今度は――」

 空間が揺らぎ、歪みが生まれる。
 俺の周囲にできたそれは、俺を呑み込もうと全身を引っ張ってくる。

 まあ、これは抗いようがないよな。
 勢いに委ねてその中へ入っていき……死に戻りの座標を変えて戻ってくる。

「…………ちょっと、ショックかな。アタシのこれは、かなり自信あったんだけど」

「無駄ですよ、無駄無駄。私に勝ちたいのなら、全力でぶつかる必要がありますから」

「つまり、搦め手の方が効くのか」

 はい、その通りです。
 俺を一度取り込んだことで、空間の切れ目は消滅していた。
 何もない空っぽな空間、【仙王】が繋いだ先にあるのはそんな場所だ。
 入った者は絶対に死ぬ、一撃必殺とはあの技のことだろう。

 だからこそ、それを封じた俺は【仙王】にとって異物として扱われるようになる。

「さて、今から私はゆっくりとそちらに向かうとしましょう」

「……どういうこと?」

「簡単な話です。逃げても構いませんし、好きなだけ抗ってください。ただし私に触れられたそのとき、罰を受けてもらいます。今まで『闘仙』さんに迷惑を掛けて私が呼ばれる破目になったこと……償いましょうか」

「そ、それ、アタシじゃなくてローの方がやるべきじゃん!」

 ああ、それは後でやる予定だから。


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