虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

仙王 その05



 街の中に入る際に、入国審査をされた。
 嘘を見抜く魔道具に手を当てて、門兵の尋ねた質問に「はい」か「いいえ」で応えるだけだ。
 とはいえ、俺の知らない国の名前を問われたり、この国をどう思うかなどを訊かれるだけであったが。

「では、ついてきてくださいね」

「お願いします」

「この街の特徴は、分かっていますよね?」

「まあ、なんとなくは」

 最初に見た中央通りを、ウサ耳少女は真っ直ぐ歩いている。
 ウサ耳少女と似た服を着ている者や、中華風な衣装を着た者をよく見る。
 ありふれた日常を、活気溢れるやり取りを見る限り、この街に問題はないのだろう。

「この街は中央街と仙道街の二つで主に分けられます。外と関わる者は中央街に、逆に拒む者は仙道街に住む場合が多いです」

「拒む、と言うと修業ですか?」

「ほとんどの場合はそうですね。たまに生粋の引き籠りが、そちらに引っ越します。中央街は、修業を終えた者しか住むことができません。なのでみんな、この街に住むことへ憧れを抱くんですよ」

「なるほど、それは末恐ろしいことで……」

 中央街、この場所には仙人が住む。
 つまり街に訪れた者は、がっちり見張られた状態で観光しなければならないのだ。
 まあ、高レベル高能力値だろうから、器用値の高い料理人の料理が食べられるんじゃないのかな?

 それはともかく、仙道街には中央街を通じてでないと入ることができない。
 霧の発生スポットも仙道街の方が近いし、中央街には霧が一切ない。
 そういうことも、考えているんだろうな。

「そういえば、私たちはあの巨大な建物に向かっているのですか? やはり王と言うだけあって、相応しい場所に――」

「あ、いえいえ。王は……仙道街の方にお住まいです。その、先ほど挙げた引き籠もりでして……」

「え? では、あの建物は」

「これまでの王が住んだ、由緒正しき仙王殿です。襲名制である【仙王】を継いだあのお方は、あそこに住むことを頑なに拒んでおります」

 引き籠りの王様。
 急にそんなイメージが浮かんだ。
 それってただの警備員じゃないか、とも思うが、それは置いておこう。

「幸い、あの場所に王が住む必要があるような出来事は起きていませんが、いずれそうした時が来るでしょう。それまでに、どうにか王をあの場所に行かせないといけないんですよね」

「……が、頑張ってください」

 グータラなオジさんが、部屋でポテチを齧るシーンしか浮かばない。
 おまけに母親が説得をしているのに、いっさいスルーしている気もする。
 いったい、今の【仙王】とやらはどんな人なんだろうか。


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