虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

貿易準備



 それからも、いくつかの種族の隠れ里へと向かって交渉を行っていった。

 ピクシーやケットシー、ブラウニーなどがそれを承諾し、俺の渡した書類にサインをしてくれる。
 そのことに満足しながらも、俺は一つ一つの里を渡っていった。

 元々このイベントエリアは、妖精種が集いやすい何かがあり、そこにとある場所から逃げてきた普人族が住み着いたという設定があるらしい。

 なので、あくまでこの場所は妖精種の楽園であった。

「それで、全部の里を巡れたのかい?」

「エルフと関係を持つ里、あとはその里とも関係を持った場所は、ですけどね」

 ようやく知りうる限り全ての場所を巡り終えた俺は、一度エルフの隠れ里に戻った。
 そして現在、エルフの里長に経過報告をしているのだ(行った里の場所を教えてくれた人の場所に行っている。別にエルフにだけ伝えているわけじゃないぞ)。

 俺が向かえたのは、そこだけである。
 妖精種でも全部が全部共栄しているわけでもないし、一部離れた場所に住む種族も存在する。

 いつかはそこにも行く予定だが、少なくともイベント中に向かうことはできなかった。
 ま、今度行ってみることにしよう。

「ところで、貿易はいつ頃から始める予定を立てているんだい?」

「そうですね……とりあえず、品の目途はついていますし……」

 準備の期間も必要だから――

「一月後、そうします」

「分かった。そう伝えておこう」

 そう言ってから、俺はこの場所を出て『アイプスル』へと帰還する。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 最初に向かったのは、風兎の居る森だ。
 いつでも『SEBAS』とは会話を繋ぐことができるので、先に貿易について伝えておきたい風兎の場所に来たのである。

『……何? 貿易だと?』

「そう、貿易だ。妖精種族の幾つかと契約書で誓ってな。種族ごとに求める物を用意することになったんだ」

『そう、か……それで、お前はこの世界から何を渡すつもりなのだ』

「ああ、それに関してはこれを見てくれ」

 そう言って、一枚の紙を渡す。
 中には貿易に使う素材の数々が記されており、それを風兎が確認すると――

『なるほど、つまり話せるようになった森の民を派遣したいと』

「そうなるな。俺だけだと正直無理そうで。だから、アイツらの力を借りたいんだ。前に言ってた大きさを変化させるヤツ、あれを使える奴に頼もうと思うんだが……何か問題はあるか?」

『いや、問題ない。空いている者の中に、条件に当て嵌まるものがいるか確かめておく』

「頼んだ」


 貿易が始まるまで、そう遅くは無い。
 時間はすぐに過ぎていき、貿易開始当日に何も用意できてないなんてのは御免だ。

 今度は『アイプスル』中を巡り、俺は貿易の準備を整えていくのだった。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品