虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

貢献イベント その20



 森の中で、魔物たちは蠢いていた。
 目的はエルフの匂いがする里へ向かい、里のモノ全てを破壊すること。
 そのことは末端の魔物でも知っており、自分たちが自由に遊ぶ『おもちゃ』が手に入ることを期待し、腰蓑を膨らませていた。

(……しかし、あそこには『超越者』の兄弟が居る。少なくとも雑魚は殲滅されるな)

 エルフの里へと侵攻する軍を、後ろから眺める存在はそう考える。

 剣としても弓矢としても使える神器を振るう兄『剣矢』と、幻覚と変質を操り万物を木に変えることのできる弟『剥意』。

 エルフの里を攻めるのならば、彼らとの戦いは必至だ。
 彼らは自分の住処を護るため、魔物を屠り続けるであろう。

(だが……おかしい。奴らが動けば、間違いなく何か掴めるはずだ。それに、奴らの里が何もしてこない。わざといることを気付かせたはずなのに、何故戦支度や避難をしない)

 五感の優れたソレはそのことを気付いた。
 エルフの里は、まるで彼らの存在を知らないかのように、平和な日常を過ごしている。

(何か、何か嫌な予感がする。私の知らない枠外の存在が、裏で暗躍している気がしてならない)

『超越者』、それは理から外れた者を指す言葉であるが、それは即ち定められた運命から脱して者であることをも意味していた。

 かつて、数百万の軍勢を率いて某国を攻め滅ぼそうとした国があった。
 しかし、その国向かう際に通った村、そこに一人の『超越者』が居た。
 その者は邪魔、という理由だけでその国へ向かい――全てを滅ぼした。

『超越者』、それは神より生まれた生命の中に発生した異常個体イレギュラーであり、やることなすことが世界を揺るがす災害カタストロフである。



 ソレがその存在に気付いたのは、つい先程のことだ。

(……なんだ、アレは)

 茶色の髪をした普人族の男が、無防備な姿で魔物の方へと歩いてくるのだ。

(隠蔽や偽装の気配も無し、周囲にその他の存在も見受けられない……ただの雑魚か)

 自身の五感を駆使することで、ソレは一瞬の内にその存在を把握する。

 力も感じられず、武器も持たない愚か者。
 それが存在を称した評価であった。

(あれぐらいならば、先頭にいる瀬踏みの雑魚でも倒せるだろう)

 近くにいる者にそう指示すると、魔物の一体がその存在に近付いて――頭を木の棍棒で殴りつけた。
 抗うことも無くその存在は頭を打たれ、地面に叩き付けられる。

 ――そしてその瞬間、周囲の魔物がもがき苦しんで死んで逝った。

(……ふむ、自爆兵か。体に呪術を仕込んでおき、死を代償に毒となる術式を散布した、というところだろ――)

 考えを纏めようとしたところ、ソレは突然思考を遮断する。
 ソレは見てしまったのだ――。

(な、何故生きているのだ!!)

 何事も無かったかのように、再び起き上がるその存在の姿を。


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