虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

貢献イベント その11



 結局、このエリア全てを散策してみよう、ということになった。
 誰もいない場所にいる魔物を狙えば、俺でも安心して道具や装置が使える。

 そもそも、現在イピリアの所から帰って来た道にプレイヤーはいなかった。
 まあ、レーダー的にもかなり強い魔物が多かったし、本気で倒そうと思ったプレイヤーじゃないと倒せなかったのだろう。
 一度見つけたパーティーも、魔物の強さを確認したら逃げてたしな。

 効率良くポイントを稼ごうとする輩なら、そうした強い魔物には挑まないと思われる。
 しっかりとした攻略法を決めない限り、ポイントを無為に減らすだけだしな。

「ふんふんふ~ん♪」

 闘うことはまだ目的では無い。
 常時『光学迷彩』で姿を隠し、先程完成した地図を元にエリアを巡っていく。

 イベントエリアは広大で、普通のエリア四つ分ぐらいの広さを有しているらしい。
 海は無いが山はあり、豊かな自然や凶悪な魔物が散らばっている。

 そんな山々が何個か存在するのが、このイベントエリアであった。
 うん、かなりデカい山もあって、普通ではその広すぎるエリア全てを巡ることなど、膨大な時間を掛けねばならないだろう。

「ま、世捨て人にでもなればゆっくりと巡る時間があるけどな」 

 ……ああ、説明を忘れていたな。
 このイベント、実は結構長時間続くらしいのだ。

 ゲーム時間内で約一月、現実だと一週間。
 運営側が体感時間を調整することで、いつもよりも長い間EHOを楽しめるのだ。
 イベントを捨てて旅行を楽しむ……そうした選択を取れば、確かにエリア全てを巡ることは可能なのである。

 俺の場合は便利な道具があるので、さすがにそこまではいかないものの、多少の時間を使えば巡り切れるだろう。

「まずは……よし、ここだな」

  ◆   □   ◆   □   ◆

 目的地までは、ゆっくりと歩いていった。
 山だって、いきなりゴールするよりは、景観を眺めながら向かう方が楽しいだろ?

「おお! これは凄いな!」

 現在地は、山頂に湖のある山だ。
 周囲は秋の植物が生い茂、大量の紅色と僅かな緑色がコンストラストを生み出す。
 そして、それが湖という鏡によって投影される姿が……なんともまあ美しい!

「鏡写しの世界、水面に揺れるのがなんとも風流な気がするな……多分!」

 どこからか吹く風によって、鏡のように美しい湖は時に揺れ動く。
 すると、中に映っていた周囲の景色も同様に動くのだが、マーブル模様のように歪むそれにまた、俺の心を動かされる。

 ……うん、俺に詩的な才能が無いことは、俺自身がよく分かっている。
 そっとしておいてくれ、直ぐ戻るからさ。

『キィアアアアアアアアア!!』

 ――だけど、この世界はそんな暇をくれないみたいだ。
 声の聞こえた方を向くと……俺の体に、ドスッという感触と共に角のような物が突き刺さっていた。


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