虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

VS鳩



 E2

 今度こそ、そんな思いでこの場所に来た俺だが……物凄い達成感を感じているよ。
 エリアを跨ぐだけなのに、徹底的な調査をしてから踏み入った。
 するとどうだろうか、景色は一変して別の物に……というわけでも無いが、マップに表示されるエリアはE2になったのだ。

「そうだよな、いきなり景色がチェンジするなんてこと、普通ありえないよな。なのにどうしてそうなったんだか……ハァ」

 ルリと違って運がないLUCが0なのが原因なのだろうか、それとも『超越者』には巻き込まれ体質になる効果でも備わっているのだろうか。
 前者ならば宗教に入り、後者ならば再びクレーマーになることにしよう。

「さて、魔物の姿は……見えないな」

 E2は、E1の草原が半分程と、もう半分が木々に覆われた領域で構成されている。
 魔物も少しだけ変わり、新しく鳥系の魔物が現れるとのことだったが……遠くを見るスキルが無いからか、エリアの端で立つ俺からは何も見ることはできない。

「でも、索敵ならできるんだよなー」

 索敵、それが敵を捜索するという意味ならば、俺はそれを誰よりもできると思う。
 だって、俺以外のもの全て敵に成り得るんだからな、全世界が敵に回るという言葉が比喩じゃないって……泣きたくなってくるよ。

 危険察知を行うと、やはり視認できる場所よりも遠くに、いくつかの反応があった。
 今までに遭遇した魔物の反応は覚えているので、恐らく少しだけ感じられる知らない気配――危険なオーラというか――が鳥系の魔物なのだろう。
 ……反応があるの、上空だし。

「よし、じゃあ早速討伐だー!」

 今までと違って、今回の魔物なら戦いになるのかもしれない。
 そうしたワクワク感を胸に抱いて、草原を進んでいった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 足元には、上空を飛んでいた魔物――クルクックが落ちている。
 この時点で鳩じゃねぇか! とツッコんだ奴はまだまだだな。
 話はこれで終わりじゃない。

「確かに、俺を見つけたら襲ってきた。これは魔物の習性だし、なんにも悪いことはしていない。うん、普通だ」

 ついでに言えば、結界生成の魔道具によって攻撃が来なかったのも普通だ。
 しかし……

「攻撃が全く当てられなかったんだよな~」

 鳩の動きが速いのか、……それとも俺の動きが遅いのか、とにかく攻撃が当たらなかったのだ。
 仕方なく抜いたスタンガンはあっさりと躱され、MPを弾とした魔法擬きも届くことはない。

 ――なので、いつも通りの展開となった。

 餌に毒(非致死性な物)を混ぜて地面に落とし、鳩がそれを食べるのを待つ。
 鳩は俺に攻撃の意志が無いことを察し、それをゆっくりと啄んでいった。

「そして、こうなるわけだ……ハァ」

 いつも通りな展開に鬱になりかけるが、次があると思って前へと進んでいく。
 普通の冒険よ、一体いずこに。


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