虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

騎士王 その03



 再び転位したのだろうか。
 あれから説明を受けてしばらくして、魔術師っぽい格好をした奴が現れて、俺とガウェインさんの足元に術式を展開してこの場所に送った。
 ……ローブに特別な効果があったのか、声や顔を全く覚えていない。
 ぜひ、帰りに技術を教わりたいものだ。

「ここはヴェルギリ、彼の地から北東に位置する場所です」

「へー、これはビックリですよ。こんなに自然豊かな場所があるとは……」

 例えるなら、ジフ◯リの作品でよくある森の光景だ(腐ったのは別)。
 深緑の香りが胸いっぱいに入ってくる程の植物の多さに、大量に感知できる動物たちの動き(小動物すら殺せるに値するってレベルに含まれる貧弱さって……)。
 そして燦々と降り注ぐ暖かな太陽が、この場所の居心地の良さを醸し出していた。

「ええ、最近までは子供達も遊びに来る素晴らしい場所でした。ですが王が貴方に依頼した通り、ここに凶悪な魔物が住み着いてしまい……今では誰も立ち入れない場所と化しています」

「そう、ですね。来てよく分かりました」

 今回の依頼は魔物退治、この森の中に潜む凶悪な奴を見つけて倒すだけの仕事だ。
 現在『騎士王』は、こことはまた別の地域で現れた魔物の対処に追われているらしく、殆どの円卓の騎士を連れてそちらに当たっているらしい。
 俺がここに呼ばれたのは、『騎士王』が重要視していない場所に現れた魔物をどうにかするためだ。
 色々と面倒な能力を有しているらしいからか、『騎士王』自身が手を出すと面倒なことになるらしい。
 確かに、森の中から感知できる反応の一つに、普通とは異なる物が確認できた。
 恐らくそれこそが、今回倒すべき魔物なのだろう。

「申し訳ありませんが、円卓の騎士が動いては大惨事になりますので、私はここから先に入ることはできません。どうかこの先は単独での移動をお願いいたします」

「分かってますよ。それもさっき説明されましたしね」

「……宜しくお頼み申します」

「任せてください、直ぐに終わらせますよ」

 ペコリと頭を下げて頼んできたガウェインさんにそう告げて、深緑の森の中へと入っていった。



 そしてその数分後、俺は森から出て来た。

「……まさか、もう倒されたのですか?」

「え、えぇ。倒したというか、倒されたというか……とにかく回収してありますよ」

 あ、クエスト見れば簡単だな――

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クエスト:『騎士王の依頼 その01』

ここから北東にある森に、魔物が現れた
森に入った者の中で、最も強い者の能力値をコピーするらしい
どうか、代わりに倒してもらいたい
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 要するに、簡単に死ぬ奴が単独で行った場合、会う前に勝手に死んでいるんだよ。
 もしかしたら、という期待を胸に奥に進んだのだが……結局その魔物とやらは死んでいた(そもそも森に入った瞬間にその反応が消えて居たので、幸薄だったが)。
 俺はただそこまで歩いていって、魔物を回収して戻って来ただけだ。

 ……嗚呼、これがクエストというものなのだろうか。
 ――思っていたのと全然違うや。


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