虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
再遭遇
しばらくの間、安寧の時が過ぎていた。
あの男が出現していることは掲示板でも話題になっており、今では『超越者』についての考察スレができているようだ(タクマ談)。
そうした盛り上がりを見せていたからか、ある日突然男が現れているという情報が途絶えた。
あまり知られたくなかったのか、それとも用事ができたのか――とにかく、いなくなったことに変わりは無い。
「つまり、自由ってことだよな」
スタンガンで角兎を麻痺させ、即座に回収していく。
生き物を“インベントリ”に収納することはできない……のだが、意識が無い物ならば仕舞うことができる。
さすがに気絶させただけでは人間は入れられないのだが、世の中にはいくつもの裏技というものがあるからな。
けど、それはいずれ必要に応じて。
今日も今日とでレベル上げを行っていく。
本当に制限が掛かっており、レベルアップで上がる能力値はMPとDEXのみである。
それでも一定以上のLvが条件のクエストもあるし、俺自身がレベル上げが好きということもあって続けている。
角兎を地面に刺し、スライムを固め、犬を悪臭で倒す……なんでだろう、経験値は貰えているのに、全然冒険した気がしないこの虚しさは。
ま、理由はそれだけじゃないんだけどな。
とある出店で兎肉を焼いている人から、兎肉を渡してくれたらただで加工してくれると言ってくれた。
クエストでは無いが、それでも街の人と繋がれるのは嬉しいので引き受けている。
そのため毎日欠かさず、角兎を渡すのが日課となっていた。
新鮮だからと言う理由なのか、そのままの状態で渡しても問題ない。
……一応:DIY:は動物の解体にも補正が入るので、やっても構わないんだけどな。
「それじゃあ、報酬の焼き兎だよ」
「本当、これのために依頼を受けているようなものですよ」
「ハハッ! 嬉しいことを言ってくれるな」
クエストの報酬が金では無く現物支給なためか、プレイヤーの中に受けてくれる者はいなかったらしい。
今の俺は金に困っていないので、むしろ食べ物が貰える方が嬉しかったんだよ。
◆ □ ◆ □ ◆
明けない夜はない――要するに、いつか時間は過ぎていくということだ。
安寧の時もまたそれに該当してしまい、いつかは終わってしまうことは自明なのだ。
まあ、何が言いたいのかと言うと――。
「……見つけたぞ、新たな『超越者』よ」
「お主が始めから気付いておれば、儂がこうして出ることも無かったのじゃがな」
「……面目ない」
イベントからは逃れられないってわけだ。
前回のローブの男と共に、同じくローブを被った老人が俺の元へ現れた。
既に彼らの言動で分かると思うが、どうやら完全にバレているようだな……粘ってみるけど。
「え、えっと……その……やはり人違いをしているのではないんですか?」
「ほっほっほ。こやつは誤魔化せても、儂の目は誤魔化せんぞ。――さて、一度こやつを騙した所為で時間が足りないのじゃ。少し強引じゃが、直ぐに来てもらうぞ」
「えっちょ、まっ――!」
そして、老人の手が俺に触れ――俺の姿はその場から消え失せた。
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