虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

帰還



 ……俺の居ない間に、世界は大きく変動していた。
 レイドボスをショウが率いるギルドが討伐したり、とあるイベントでマイが最強の一角に存在する聖獣と呼ばれるモンスターのテイムに成功したり、ルリがもう一つの宗教を確立していたり……気が付けば、俺は同時期に始めたプレイヤーより遥かに遅れた負け組となっていたのだ。
 ああ、イベントだけで手に入る限定品に関しては、家族に頼んで複数所持しておける物だけは確保してもらっていたぞ。
 やっぱりそういうのって、持っておきたいしな。

 気付けば、プレイヤーにも第一陣や第二陣と言った呼び方の違いが生まれ、最新の者では第四陣となっているそうだ。
 俺、多分ソイツらにも勝てないだろうな。

 ま、何はともあれだ。虚弱体質な俺は、ただ自分にできる精一杯をやっていくだけだ。

◆□◆□◆

「嗚呼、太陽が目に染みるよ」

 眩し過ぎて死んでしまいそうだ……うん、かなりの頻度で死んでいるな。
 今までは死んでいなかったはずなんだが、ずっと暗い空間に居たせいなのか?
 暗い場所に引き籠っていると、陽光を浴びた際にダメージを受ける……的な。


「とりあえず、安全な場所に行こうか」

 一度E1に移動してから、転送陣を用いてアイスプルに転位する。
 ここならば、俺が死ぬことは無い。

《お帰りなさいませ、旦那様》

「ただいま、『SEBAS』。てっきり長い時間待たせていたから、とっくに自分で使う用の人形でも作成したかと思っていたよ」

《物作りに関して言えば、旦那様の右に並び立てる者は神しかおりません。私のような者が作った人形など、所詮子供が作った泥人形と同等でしかありませんから》

「……いや、それ以前にどうやって作るかをツッコんで欲しかったんだが」

《旦那様が留守にしている間に、アイプスルはより進化しました。外に出ればすぐに分かるのですが、生命に溢れておりますよ》

「え、いつの間に?」

《時間だけはたっぷりありましたので、人間以外の生命が過ごしやすい環境を整えておきました》

「そうか、なら良かった。これからも人間だけは自然発生しないように気を付けてくれ」

《承知しております》

 人間という生き物は、俺も含めて殆どが利己的な生き物である。
 魔法が無い地球でも、科学の力を以って地球上の生物の中で覇を成したのだ。
 折角できた俺の……いや、俺の家族のための楽園を壊させるわけにはいかない。

《ところで旦那様は、何故ここまで戻って来られるのが、遅くなられたのですか?》

「ああ、そこら辺も混ぜて色々と説明しなければいけないことばかりだな」

 今日という日は、これまでにあった出来事全てを『SEBAS』に話し、対策を新たに練ることに費やした。
 ……クリアしたクエストの報酬や、それまでに手に入れた称号とか、結構問題を招きそうなものばかりなんだよ。


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