虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

悩み



 冒険らしい冒険もせず、唯一それらしいと思えなくもない商談も、商談であって冒険でないことに気付いてしまった。
 ショウもマイもルリも、みんなそれぞれが有名なプレイヤーとして噂されるようになっている。
 ギルドにポーションを納品しに行くと、必ず一度は、うちの家族の誰かを話す声が聞こえてくるのだ――俺を除いて。

 ……いや、分かってはいるんだがさ。
 俺は一人でSLGをやっていただけなんだし、そもそも俺のやったことなんて大したことでも無いしな。
 それに、称賛されるべきは『SEBAS』であり、俺ではない。
 基本的に俺は指示に従って動いていただけであって、それ自体は誰でも可能なことだ。
 さて、俺の功績って……一体どういったことなんだろうな。

「ま、今はゾンビアタックを繰り返してでも外に出ないとな」

 街の本来ならばありがたいシステムのお蔭で死に続ける体を引き摺り、まずは外出することになる。
 人の吐息で死ぬような貧弱さだからな、早く安全なフィールドに向かいたいよ。
 魔道具が無かったら、全身が発光する怪しい奴だしな。

◆□◆□◆

 外に出れば、とりあえず先程よりは死ぬ確率が下がる。
 だがそれでも、魔物と接触すれば呆気無く亡くなる貧弱さに変わりは無い。

 近寄って来る魔物は障壁で弾いてから麻痺させて回収し、遠目にこちらの様子を窺ってくる魔物を警戒しながらも避けて進む。

「しかし、プレイヤーは凄いな。ゲームらしい超人じみた動きをしているよ」

 踏み込んだ足が地面を割り、振り下ろした武器は魔物を悲惨な状態にする。
 唱えた魔法や発動したスキルが起こす奇跡もまた、人ならざる者だけが扱えるはずの力であろう。

 なのに、どうして俺はスタンガンを振りかざしているんだろうな。
 威力は一応ファンタジー級に上げてはあるものの、それでも使っている物は現実でも使われる(かも知れない)護身用の道具である。
 剣や杖型のスタンガンも一応はあるが、結局それはスタンガンでしかないし……冒険というより、作業ゲーな気がするな。

「……まあ、倒しているのはファンタジーな魔物なんだがな、一応。でも、いつまでもこれをやってるわけにもいかないし――そろそろ別の行動に移行した方が良いのかな?」

 このゲームには、クエストと呼ばれるシステムがある。
 このゲームをより刺激的に行うための、通常とは異なる冒険を求める者たちへ用意された、こちらの世界の者からの依頼である。
 タクマと現実で話した際、一つのクエストの存在を知ることになった。
 それなら……俺も冒険したって思えるのだろうか?

 そんな期待を胸に、今日もまた地味過ぎる戦いを行い続けた。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品