虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

開始前



 ガタンゴトン ガタンゴトン

「Every Holiday Online?」

「何だ、知らないのかよ。結構CMもやってるじゃねぇか。EHOってな」

「……ああ、そういえば翔が一緒にやろうと言ってたな」

「おいおい、せめて子供が知ってることぐらい知っておこうぜ。元ゲーマーの名が草葉の陰で泣いてるぞ」

 仕事終わりの電車の中で、会社の同僚である新木あらき拓真たくまがそう言ってくる。

「のんびりスローライフや白熱バトル、商談や政治まで何でもござれ。まるで祝日のように、色々なことをするための時間が用意された電脳世界――それがそのゲームだ」

 ……後半の二つ、言う必要があったのか?
 何だか世知辛い世の中みたいじゃないか。

「ま、とにかく俺もやってみたいとは思ってるんだ。一緒にどうだ――つくる?」

「……でもお高いんでしょ?」

「あぁ、本体とセットで大体――――円だ」

 うん、そりゃあ無理だな。
 翔と舞の分――二台分なら今までの貯蓄で何とかなるんだが……俺の分は、無いな。
 翔と舞がやってたら、絶対に瑠璃もやりたいと言い出すし……どうするかな。

「そうだな-、とりあえず有り金叩いて子供の分は買っておくから、お前の方で子供たちに色々と手を貸してやってくれ」

「ちぇ~、折角お前と久しぶりにゲームできると思ったのに……ま、二人ともやりたいと思ってたから良いんだけどな」

「……舞はやらんぞ」

「俺にロリコンの気はねぇよ」

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 いくつかの店を巡ったら後、本体とEHOを購入することに成功した……まあ、昔の伝手ってのは大切だと思ったよ。

 正式サービス開始日の前日に届けてくれるサービス付きだったから、子供たちもサプライズに喜んでくれるだろう。

「ただいま~」

「あらあら、遅いお帰りですね」

「……実はEHOを二人のために探していてな、少し探し回ってたんだ」

「――え゛? EHOを、ですか?」

 あ、やっぱり通じたか。
 俺と瑠璃はネトゲのオフ会が切っ掛けで結婚した夫婦なので、ゲームのことは大体把握しているのだ(俺は最近の仕事のせいで、気付けなかったがな)。

「え、でもショウたちは……」

「良いんだよ、今までに溜めてた俺の貯金を使っただけだから」

「いえ、そういうことでは無くて――」

「う~ん、今日も疲れたー。瑠璃、すまないが今は風呂に入りたいんだ」

「……(まぁ良いですか。そっちの方が都合も良さそうですし)。ええ、直ぐ追い焚きをしますので、今の間に服を脱いじゃいましょう」

「ん? そ、そうだな」

 この後、ゆっくりと風呂に浸かった俺は、夜食を食べることも無く、瑠璃と一緒に寝室でぐっすりと眠った。

 ――二人共、喜んでくれるよな。


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