邪神と一緒にVRMMO 〜邪神と自由に生きていく〜

クロシヲ

第三百五十五話 逸脱

第8章 復活儀式


シグレが精神交換機の発動起句パスワードを唱えると、自らの体の感覚が消失し、肉体と他のものの境界が曖昧になり、全ての母なる大いなる宇宙、永劫の狂気と不遜なる叡智に満ちた暗黒の奥底へと自分が溶けて消えていってしまいそうな、ついには消滅していくような奇妙な感覚に囚われてしまった。
何も見えず、何も感じぬ中で、自分の中の大切な何かが抜け出ていくような虚脱感を感じつつ、精神体となったシグレは視覚を封じられた状態の真なる暗黒の中で飛翔する。
何も聞こえぬ、何も感じぬ暗闇の中で、飛翔するシグレは、それでもはっきりと自己の存在を認識していた。
精神交換機を起動した直後に襲われた自分が溶けていきそうな感覚は既になく、今は『自分』というものをしっかりと認識することができている。

暗闇の中、記憶の海に漂うわずかな欠片が流星のようにフラッシュバックし、今までの自分、「シグレ」という人間の思想、過去、価値観、ありとあらゆるものが流れ落ち、深淵の底へと落ちて行く。

そして、一筋の光が走った。
ないはずの視界には一条の閃光が走り、あるはずのない温感には確かなる熱を感じる。

『これは記録だ。あらゆる世界における不文律、破ってはいけない暗黙の了解にして絶対の禁忌。
本能レベルで忌避しうるはずのそれを成し得た。故に……

濁流のように流れて落ちる記憶の大瀑布に、小さな、ほんの小さな小石ふじゅんぶつが紛れ込む。
しかし、紛れ込んだ謎の声は、天翔ける流星のように儚く、そして消え去った。
闇に揺蕩う閃光は徐々に厚みを増し、静寂を吞み干した金属音のような何かがだんだんと聞こえてくる。
焼け付くような熱波が身を焼き、体表を伝う液体を忌まわしげに拭い去る。
胸に手をあてなくとも、五体に響く暖かな肉の鼓動が、吐き出す息の質感が、瞳の奥に飛び込んできた色とりどりの陽光に照らされた部屋の影が、今やシグレとなった誰かの肉体が美しきリズムを奏で、それらは調和して生命のオーケストラを形作っていた。

ドクン、ドクンと鼓動する心臓。
何故か蠕動する肉体を抑え込みつつ、陰鬱にして執拗なる影の束縛から解放されるべく、ゆっくりと、静かに、それでいて美しく流麗な、一切の無駄を感じさせない姿で立ち上がった。

「感謝いたします」

静かにそう呟くと、それはゆっくりと歩き出した。
ステンドグラス越しの陽光は既に紅く染まり、落陽が終わりを告げていた。



第8章 fin


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コメント

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