邪神と一緒にVRMMO 〜邪神と自由に生きていく〜

クロシヲ

第百十三話 〝神獣〟

6章 玩具は盤上で踊る


「ハァ!?突入するなって、なんでだい!理由によっちゃただじゃおかないよ!」

「しっかり理由があるんです。説明を聞いてください」

「な…に…………あ…」
「あ……あれ、が…」

(ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル)

そう言って目と鼻の先で全身の毛や声を荒げる神話の怪物フェンリルに対し邪神(仮)シグレは子供を諭すように理由を説明する。
そんな一人と一体ふたりを地面にへたり込んで呆然と見つめるセフィロとアリス。
ほとんどが気絶し、なんとか耐えているものも恐ろしさに耐えかねて犬のように尻尾を下げる哀れな狼。

今この瞬間、集落には幾億もの恨みと、幾億もの復讐心からなる濃密な殺意を煮詰めて限界まで凝縮し、たった一滴にまで濃縮した底の見えないドス黒い殺意で満たされていた。
それが向けられる対象はただ1人であり、ここにその人物はいない。
だとしても感じるその神をも殺さんとするであろうそれ、触れるだけで貪欲に、強欲に、全てを食らいつくそうかという暴虐を体現したその殺意にシグレを除く全ての生物が恐れ慄いていた。
何せ実際に森が枯れた。いや、消滅した・・・・のだから、自分たちを長年支えてくれた大樹が、生命の源たる清らかな水を生む泉が、命を育む大いなる大地が、一瞬にして黒く染まる。

そして、世界は無へと帰す。

比喩ではない、ただ単純に、集落を含む森周辺の土地全てが黒いオーラに侵され、植物は枯れ落ちて消滅し、泉は枯れ、大地は命無き砂へと変わる。

狼やセフィロたちが死んでいないのは、シグレの結界のおかげである。

それでも深刻なダメージを受けているのは、それだけフェンリルという存在自体が強力であり、またそれ以上に殺意を向ける何者かロキへの冥府の深淵よりも深い恨みや殺意がフェンリルの内に介在し、もはや自制心などで抑えきれる領域など等に超えていることの表れである。

その場にいる全ての生物は改めて理解した。

(これが、神獣…!)

狼にとっては優しい長、セフィロとアリスにとっては珍しい生物、普段の態度がおとぎ話からかけ離れていることや、もともとおとぎ話自体が荒唐無稽に思えるものだったことでどこかフェンリルを、神獣を舐めていたものたちは再認識する。

神獣、神を守り、もしくは神を喰らう獣、その気になれば破壊と暴虐を尽くし、世界を無に帰す事すら容易な圧倒的な力の権化。
自分と神獣の間にある隔絶したナニカの差を理解したセフィロたちは、恐怖を覚えた。

(なぜ…立っていられる…なぜ…平然とそこに要られるんじゃ…お主は…)

心底惚けた顔で地面にへたり込む師匠じぶんや、既に気絶しているアリス、その原因たる恐怖の象徴フェンリルに動じてすらいない弟子シグレ、なんと愚かしいことか、なんと傲慢なのだろうか!こんなことになっていて、なぜ師などと名乗れようか!

そこまで考えて力尽きたのか、セフィロの意識は闇へと沈む。

恐無者オソレナキモノを取得しましたー


はい、フェンリルが発狂しました。

因みに結界は状態異常対策の結界と領域内への干渉を無効化する結界です。

最上位に近いものですがフェンリルには意味を成しませんでした

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