かつての最強ゲーマーコンビはVRMMOでも最強になるようです

ノベルバユーザー203449

第31話 とある誘い

《2025年10月4日 18:00 エクシードマウンテン レストラントライビート》

「よっしゃあ無事予選通過!」

 今日はオンライン予選の結果発表。全戦全勝で終了したので予選通過は間違い無かったがそれでもこの瞬間は緊張した。まあ結果は順当に予選通過だったのだが。

 そして今ここに集まっている連中も皆予選は通っていたのでちょっとしたお祭り騒ぎだ。
 面子は俺、莉央、クイーン、ハノさん、ストリバの5名。クイーンとハノさんはストリバと面識は無かったが

「まあ正直余裕だったわ。流石に全勝とはいかなかったけどね」
「私が最後の最後で1対1の勝負で負けてしまったがために……」
「別に気にしてないわよ。先に負けたのは私だし」

 そう言うのはクイーンとハノのコンビだ。二人はこうは言うが29勝1敗の超高成績でニッシュ。流石に関西以上の激戦区と呼ばれる関東では全勝フィニッシュも難しいらしく、最後の一戦で優勝候補のペアに負けてしまったらしい。

 ただこの後に続くオフライン予選で勝てば良いからと本人達は必要以上に気にしてはいない。

「私は無事に全勝突破だ。もっとも他の地区と比べれば抜けやすいという事実は否定しないがな」

 そういって紅茶をすするのはストリバだ。ちゃっかりこの男も全勝で勝ち上がっておりオフライン予選への切符を手に入れている。ちなみにそのパートナーだが、今日は仕事があるということで来られなかったようだ。

「師匠もお前には会いたがっていたのだがな。都合がつかなかったことを残念に思っておられた」
「師匠?」
「ああ。このゲームが始まった頃から世話になっている偉大なお方だ。この大会にも共に出場させて貰っている」
「へー」

 ストリバの表情から察するに本当に凄い人なのだろうとは思う。だってこれ以上無く誇らしげな顔をしてるし。

「そういやあのカナってやつも全戦全勝なんでしょ? しかもLIOの話だとアンタの友達とペア組んでたんだっけ? いやあこんなに面白いことって世の中には存在してたのね」

 これ以上無くムカつく笑みを浮かべての言葉だった。けれどこんなの他人事だったら俺だって冷やかしている。それほどまでに事態は無茶苦茶だ。

「私は何となく感じてたけどねあの人はどこかで邪魔してくるって」
「なんだよそれ」
「プロゲーマーと女の勘の相乗効果によって生み出された超直感。これが結構当たるってね」
「訳分からん」

 まあ一番訳が分からないのは生徒会長だ。あの人次の日に学校で会ったら何事も無かったかのように平然と話しかけてきたし。しかもいつもと全く調子が同じなのだから余計に気味が悪い。

「こう言っては何ですが……ミツルさんの人間関係は複雑というか特殊すぎるというか」
「もうこう言っちゃって良いんじゃない? わざとやってんの?」
「違うわ! いや、確かにできすぎだとは思うけど現にこうなっている訳だしさあてかいっそのこと何がどうなってるのか教えて欲しいのは俺の方だっての」

 当たり前だがこんな事態に頭が着いていく筈も無い。もう1週間が経って可能な限り思い出さないようにしているのだが、周囲は情け容赦無く話題に出してくるので無かったことにもできないのだ。

「だがお前の人間関係はこの際どうでも良いとして」
「良くはねえよ。いや流して欲しいけど」
「ABVRを始めて間もないというのにその実力は果てしなく厄介だな」
「そりゃ基本スペックがぶっ壊れてるからなアイツは」

 冗談抜きで出来ないことが存在しないと思えるような女だ。勉強も運動もゲームでさえも初見で完璧にこなせるという噂は本当だったらしい。

「でもいくらなんでも全戦全勝はキツくない? どれだけ完璧に準備しても負けるときは負けるゲームなのに」
「まあアイツはその完璧な準備を普通の人間の20倍くらいの効率でできるからな」
「何それ?」
「サヴァン脳ってやつ。クイーンのゾーン以上のリアルチートだよ」

 サヴァン脳とは、何もゲームの専門用語では無く、現実の一種の病気である。正確には精神障害や記憶障害を持っている人間がある特定の分野において突出した能力を発揮することを指す。

 生徒会長、御影優里亜に限って言えば、あの女は一度見たものの特徴、性質などを瞬時に記憶することが出来る。そしてそれらを記号として脳に蓄積しているらしくそれに関連するキーワードなんかを聞いた時に呼び起こされるのだという。

「そんな方が現実に居るなんて……ゾーンと違って訓練などで身につけられるものでは無いのでしょう?」
「物覚えが良いんじゃなくて、スキャナーみたいに頭にズバッと入るわけだからな。どうせABVRの対人戦動画全部見て覚えてるんだろうよ」
「だがそんなことをしても自信が動けなければ――」
「それが出来るからヤバいんだよアイツは」
「気分は超能力バトルね。それか伝奇ものかしら?」

 かなりざっくりと莉央が生徒会長を評価した。ただまあ間違っていないのがなんとも言えない。

 そして他の面々も大なり小なり面倒くささを隠そうともせず、全員が関西のなかで潰しておいてくれという視線を送ってくる。もちろんそうしたいのは山々だ。そもそもがそのために大会出場を決めたような物なのだから。

「まあやっとカナの研究材料も出来たし、本選出場者の傾向は出たし、やれることやるだけだな」
「関西はオフラインいつだっけ?」
「11月3日。祝日の月曜日だな」

 オフライン予選は13会場、合計13日かけて行われる。そしてそれは10月の最終日曜日と11月の土日祝日をフルに使うという超過密スケジュールで行われる。そしてそこでの勝者が全国大会本戦に駒を進められるという仕組みだ。

「ってことは他のブロックよりは準備期間は短いんだ」
「全員条件は一緒だから気にはならないけどね」

 準備期間はおよそ丸一月。長いとは言えないがこれまでの詰め込みに比べれば長い方に入るだろう。何せプロ相手に復帰1週間せ勝負を挑んだときさえあったんだし。

「分かってると思うけどカナにばかり気を取られて負けるなんてよしてよ」
「そうはならねえよ。俺一人ならともかく莉央に悪いしな」
「そうそう。昔のバスケ漫画みたいに2回線でカナを全力で倒して『続く三回戦ウソのように完敗した』とかなったら絶縁だから」
「それは困る」

 それ以前にもう絶対負けないみたいなことを言ってしまっている以上むざむざと惨敗する気は無い。ただどうせ当たるなら一回戦とかでさっさと済ませたいという気持ちはある。

「それはそうとこの後どうする? ここは順当に予選通過者の試合でも見ていく?」
「そうだな……。時間は多くは無いし出来ることから順番にさっさとやるか」

 ちなみに今リアルの体は莉央の家にある。ここ最近ずっと当然のように通ってしまっているが莉央はむしろウェルカムだし、正直設備の都合で莉央の家の方が心地は良い。俺の家と違ってエアコンも空気清浄機もあるし。あと最近知ったけどコーヒーメーカーも置いてあるし。

 そういうわけで一回ログアウトして莉央の家で動画鑑賞会をと思ったのだがその前に意外な人がストップをかけてきた。

「あ、ミツルくんとLIOさんちょっと待って!」
「カオルさん」

 声をかけてきたのはこの店のマスターであるカオルさんだ。エプロンをした仕事モードのカオルさんが小走り気味で近寄ってきた。

「二人は再来週の日曜日は空いてるかい?」
「再来週? ええ、大丈夫ですけど」
「実はその日に仕事で大阪に行くことになってね。夜は空いてるからご飯でもどうかなって」
「私も空いてるし良いですよ。それに久しぶりにリアルのカオルさんに会ってみたいし」
「俺も莉央と同じです。せっかくのお誘いだし」

 時間が無いとは言ったばかりだがこんな機会は滅多に巡ってこない。なので割と軽い気持ちでOKした。

「じゃあ場所とか時間はまた今度言うね。引き留めてごめん」
「そんな気にしなくても良いですって」

 カオルさんは用が済んだのかまた仕事に戻っていった。

 それを見届けると俺も莉央も動画を見るためにログアウトさせて貰った。

 その再来週に俺は今日、とんでもないポカをやらかしたことを激しく後悔することなど知るよしも無く。

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