かつての最強ゲーマーコンビはVRMMOでも最強になるようです

ノベルバユーザー203449

第27話 まだ見ぬ強敵達 ~verWEST~

《2025年9月7日 18:09 エクシードマウンテン第5アリーナ》

「とまあそんなことがあって俺の学校での立場は激変したわけよ」
「良いじゃないか。何も無いスクールライフよりかはずっと」
「そうは言うがなあ……」

 嫌味っぽさが無いせいでかえってバカにされている気がするマントを羽織った槍使い、ストリバの反応には参ってしまいそうだった。

 あれから一週間以上が経過していた。学校での俺の立場は『可愛いプロゲーマー高校生と実は付き合ってやがった隠れリア充』で固定してしまい莉央と並んで話題の中心に。幸いなことにいじめとかは無いがそれでも注目度は異常に高まって温度差が半端ではない。生徒会長にも散々いじられるし、委員長にも距離を置かれるし、男子からは変なことばかり聞かれるしで気が参りそうだった。

 だが地区オンライン予選も着実に近づいており、そちらの方も手は抜けないので学校から帰ってからは俺がABから離れている間に流行していた戦術の研究や練習に時間を費やしていた。

 そして今日は雑誌のインタビューの仕事が入ったという莉央からいただいた『ランクマッチ10連勝するまで帰れません』という課題をこなすべく、エクシードマウンテンに来ていたのだが、その10連勝をかけた試合でばったりストリバとマッチング。全力でぶっ倒したあとにこうして雑談に及んでいるのである。

「しかし大した物だ。クイーンとの戦いは見せて貰ったが、あの頃よりも更にレベルアップしている。最初から大した男だとは思っていたが、まさかここまでとはな」
「先生が良いんだよ。それよりもお前も最近は第6アリーナにもちょいちょい顔を出してるんだって? そっちでも結構良いところまで行けてるって話だけど」
「私などまだまだだ。この第5アリーナも骨のあるやつは多いが第6ともなると怪物が多い。全国に向けた調整には丁度良いがな」

 そう言ったストリバの顔には確かな自信と隠し切れていない僅かな不安と疲れが存在している。この表情を俺は知っている。大勝負を前に身を削っている勝負師の顔だ。

「そういえばお前も全国には参加するんだよな。地区はどこなんだ?」
「四国だ。住んでいるのが香川だからな」
「あれま、意外と近所」

 俺が住む関西からすれば四国は隣のようなモノだ。電車で行くなら一度中国地方を経由しなければならないが車なら淡路島を通って直接行ける。何故かストリバは関東住みのイメージが有ったので西日本在住というのは割とカルチャーショック。

「そう言うお前は関西ブロックなのだろう? あそこには歴戦の猛者どもが多く存在している。いくらお前とプロゲーマーでコンビを組んだとしても一筋縄では――」
「分かってる」

 俺はそう言って、一つのアイテムを取り出した。それは一枚の紙切れ。
 実は莉央から課された課題はランクマッチだけでは無い。ストリバを捕まえてこの紙切れと俺にとって今一番必要なモノを交換することだ。

「だからお前を引き留めた。関西の情報を手に入れるために。第7アリーナ入場券と交換なら釣り合うだろ?」
「フッ、面白いことをしてくれる」

 ストリバは俺から入場券を受け取ると、付いて来いと言って歩き始める。行き先はもちろんレストラントライビート。取引は成立したということだ。
 そして店に入ると空席を見つけるなり、紅茶を2人分注文してから席についた。

「さて。お望みの関西の注目選手だが、今回はかなりの激戦区になることが予想されている」
「まあそりゃ莉央がこっちに来ちまったし、カナだって居るし平穏無事とは行かないだろうよ」
「真に面白いのは彼女らだけでは無いという点だ。関西はそもそもがプレイヤー人口が関東に次いで多い激戦区。そして関東以上の変態プレイヤーが集う魔の巣窟だ。故に関西ブロックは『伏魔殿』とも呼ばれる」
「そりゃたいそうな……」

 とはいえ、史上最年少優勝なんて真似をしでかした俺が関西出身な辺り関西=伏魔殿というのはあながち間違いでは無い。そしてその混沌具合は7年という月日が新たなステージに押し上げていてもおかしく無い。

「まずは昨年度の全国大会本選進出者。一組目は『絶対無敵将軍』の異名を取る《キンカク》と《ギンカク》のコンビだ」

 ストリバが見せてきたのは金髪と銀髪のゴツい男の2人組。その筋肉質のアバターはまるでプロレスラーだ。それらが武士のような鎧に身を包んでいる。

「その異名のとおり鉄壁の守りを売りにしている。有名な逸話だと昨年度の地区予選ではHPを半分以下にできたプレイヤーさえいなかった。私も全ての動画を確認したが彼等はその鉄壁の防御力で全ての攻撃を受けきっていたのだ」
「マジかよ……」

 理屈の上では可能だ。タンク系のクラスにして耐久に補正が乗るようにして、更に装備やステータスも全て防御に寄せる。そうすることで鉄壁の防御は実現する。だが、その防御を貫通する手段もこのゲームには存在しているのだ。だとすれば、そうやってそこまでに相手の攻撃を凌いだのだ?
 それを考える間もなく、ストリバの話は続く。

「そしてもう一組の全国大会出場者だが、こちらは正反対のプレイスタイルで高火力で全てを破壊する魔法使いとその後方支援を務めるプロ女プレイヤー2人組、《ヒビキ》と《コトネ》。異名は『浪速の人間宇宙戦艦』」
「超火力魔法の使い手かよめんどくせえ……」

 俺はため息を吐くのを我慢できなかった。というのも火力でゴリ押してくるタイプの魔法使いは超高速ガンブレードにとってもっとも苦手とする相手だからだ。細かい理由はいくつかあるがここでは割愛。話せば話すだけ俺の気が重くなるからだ。

「この二組はお前と同じ旧作プレイ組。だがサービス開始からゲームをプレイしている人間でもある」
「つまりVRに関するノウハウはしっかりあるってことか」
「そして他にはこういうやつも居る」

 ストリバが俺に見せてきたのは紫色のローブを羽織った巨大な鎌を持った人物。見た目の第1印象だけを言えば、まるで死神のような風貌をしている。仮面で顔を隠しているのが余計にその不気味さを助長している。

「コイツは?」
「エクシードマウンテンには来たことは無いが、それ以外の対人勢の拠点を騒がせているプレイヤーだ。何せ各アリーナのトッププレイヤーを全て蹴散らしているのだからな」
「でもエクシードマウンテンには来たこと無いんだろ? 他の町とエクシードマウンテンだとまるでレベルが違うってよく聞くけど……」
「それはその通りだがトッププレイヤーとなれば事情は違う。彼等はエクシードマウンテン、それも第6以上のアリーナでも充分に戦えるだけの実力を持っているが対人戦の更なる発展のために自ら野に下り、アリーナを開設する者達だ。ある意味最も風変わりな者達と言えるだろう」
「そういうのも居るのか……」

 多岐に渡りすぎだろ対人勢。とはいえ、このローブの人物が何故恐れられているかは分かった。ようはプロ級のプレイヤーに勝てるほどの実力者なのだ。

「予選に参加しているプレイヤーの名前は全て公開されるからな。その中にはコイツの名前もあった。お前と同じ関西地区にな」
「それで? 名前はなんて言うんだこの死神は」
「《K》。アルファベット一文字だ」
「こりゃまた珍妙なのが来たな」

 名前こそ変わっているがストリバがわざわざここで名前を出してくるのだ。実力者には違いない。それに鎌使いというのが少し厄介で、この武器はあまり人気の無い武器であるために俺には対戦経験が皆無に等しい。対戦しても使いこなせないプレイヤーが何となくで使っている場合が殆どだ。

 けれども強者達を葬ってきたコイツがその鎌を使いこなせないとは思えない。即ち――

「初見殺しじゃ無いですかヤダー」
「初見殺しで言えば《カナ》についても同じモノだ。一度話題に出て以来、その姿を見たプレイヤーさえいないのだから」
「そっちもそっちで新情報無しか。出てこないっていうのは無いだろうな」
「一応エントリーはしているようだ。それに試合を見ていた限りだと敵前逃亡するようなやつには見えなかった」
「それは分かってるんだけどな」

 カナとの対戦からもうすぐ一月が経つがアイツの情報は大きな権力でも働いているのかという位に入ってこない。基本的に目立つようなプレイヤーの情報はSNSやネット掲示板などで拾えるのだが、カナに限っては一切名前があがらない。正確には『あのカナってやつどこに行った』みたいな感じで話題にはなるのだが、その動向を知るものは居ない。
 おかげで学校の休み時間のエゴサは全て成果無しだ。

「カナとはやっぱり力勝負になりそうだな。しかもこっちは研究され尽くしてるっていう条件付き。キツいなやっぱり」
「しかし大会となればどうあがいてもそのプレイヤーの戦略は公開される。もしもカナとの戦いが決勝戦なら充分準備期間はあるだろう。そう悲観的になることは無い」
「まあそうやってプラス思考で行くしか無いな」
「それに関西ブロックには他にも注目選手はいる。そのデータは当然要るだろう?」
「何から何までサンキューな」
「例には及ばない。私とて貴様には全国まで進んで貰う必要があるからな」
「何?」

 言葉の意味を図りかねて俺はストリバの顔を見る。そこにはこれまで見たことの無い表情をした――いや、始めて会ったあの日にのみ見た表情だった。それは真剣勝負の場において必ず倒すと決意した相手に対してのみ見せる表情。

「あの日のリベンジは必ず成す」
「――やってみろ!」

 俺達は互いに握手を交わした。ありったけの力を込めて。

 そして俺は改めて思い出す。全国大会は関西だけでは終わらない。ここはまだ通過点に過ぎないのだ。であるならば、こんなところで負けるわけには行かない。どうせ大会に出るのなら、もう一度あの日莉央とみた景色を見ずに終わりたくは無い。

 そんな決意を抱いたまま迎えた2週間後、9月21日。関西大決戦の幕がついに上がる。

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