突然不死身という最強の能力に目覚めちゃいました

カナブン

学園トーナメント初日5

「じゃあなゲームオーバーだ」

赤城の手に持つナイフが段々と近づいてくる。
日野はどうにか避けようとするが手も足も全く力が入らない。

クソッ!こんなところで終わりかよ。

ただ降りてくる刃を受け入れることしかできない自分に激しい怒りが込み上げてくる。

動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!!

どんなに強く願ってもやはり体は言うことを聞いてくれない。もう動くのは目と口くらいだ。それでも日野は諦めがつかない。日野は今出る精一杯の声で叫んだ。

「こんなところで終われねーんだよ!!!」

見苦しいのは分かってる、自分が赤城に負けたことも、それでも最後まで諦めたくはなかった。

「・・・・そうだよな、こんなところで終われねーよな」

声と共に砂煙の中から突如玲が現れ赤城を蹴り飛ばした。

「神谷、お前なんで・・・・」

「ん?なんでって、友達助けんのに理由なんていらないだろ、それより一旦引くぞ、俺の攻撃避けられたみたいだからな」

玲は日野を担ぐと赤城の吹っ飛んで行った方とは反対に走り出し、暫く行ったところの建物の中へと姿を隠した。

「おい、お前大丈夫か?もう一歩も動けないみたいだけど」

玲は日野を下ろし壁に寄りかからせ体の状態を確認する。

「ああ、別に攻撃食らったわけじゃねぇ、ただの能力の使い過ぎだ、暫く休めばまた動ける。・・・それより助かった・・・その、ありがとな」

日野はかなり恥ずかしそうに玲に感謝を伝えるが玲はそんな事全く気するそぶりなど見せず赤城の事に付いて尋ねる。

「ああ、そんなことよりあいつ一体どんな能力だ?あの距離での攻撃避けられるはずがねぇのにさ、全く当たった感触がしなかったんだよな、まるで空振りしたみたいにさ」

「お前の攻撃は外れたんだよ、あいつは移動する力を吸収して他の物に与える能力らしい、多分お前の蹴りを受ける直前に自分を背後に吹き飛ばしたんだ」

「そういうことか、そりゃあ厄介な能力だな・・・・よし!お前はここで待ってろ後は俺がやる」

正直見たことも無い能力相手に策なんか立てても失敗するのがオチだ、玲は考えるのをやめ行動に移った。

「おい!神谷お前何かいい策でもあんのか?」

「いや別に、まぁなんとかなんだろ」
 
玲は日野を置いて建物の外へ飛び出して行った。

「神谷のやつ「なんとなかる」って甘く見過ぎだろ」

残された日野はポツリと呟いた。


*     *     *     *


玲は建物を出た後もと来た道を引き返し赤城の姿を探す。日野が起こした爆破のせいでまだ視界ははっきりせず中々見つからない。
そんな中砂煙の中から「スーッ」と何かが飛んで来る様な音が聞こえてくる。
玲は音のする方へと体を向け目を凝らす、すると砂煙の中から巨大な影が姿をあらわす。その影は真っ直ぐと玲に向かい飛んでいる。

「チッ!見つかったか」

その影がなんなのかは分からないがもう避けられる距離では無い。玲はその影に向かい拳を突き立てた。
バキバキッ!と音を立てその影はペチャンコに潰れていく。

「何だこれ?コンテナ?赤城の能力?こんなもんまで飛ばせんのかよ」

玲の潰した影は大型トラック程もある巨大なコンテナだった。しかし一つ潰したくらいで油断は出来ないまたさっきと同じ音が何処らかともなく聞こえてくる。

「おいおいまだ来んのかよ」

玲はそれをひたすら叩き潰した。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

もうどれだけ潰したのかも分からないその場はまるでスクラップ場の様な光景になってしまった。流石の玲も息が乱れ始め、あたりを包んでいた砂埃もすっかりやんだ。しかし今度は大量の鉄くずで赤城の場所が分からない。
だが砂埃が舞う無くなった今、次に攻撃が来たら赤城の居場所を突き止められる。玲は精神を研ぎ澄まし次の攻撃に備える。

「・    ・     ・    ・    ・」

しかし一向に攻撃が来る気配はない。ましてや赤城がまだこの場所にいるかも分からない。玲に勝てないと判断して逃げた可能性だって十分考えられる。
玲はつぶした鉄くずの上に乗って辺りを見回してみるが、辺りに人影は見られず物音一つしない。

まだ居たとしてももうあいつに戦闘の意思はないな。日野んとこ戻ってやるか。

玲は赤城の探索を諦め日野を置いて来た建物へと引き返した。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・あいつ一体、なんなんだよッ、何が、無能力者だよ、こっちはいままで溜めて来た力全部、つかったんだぞ」

玲の過ぎ去った場所で壁に寄りかかった赤城が息を切らし呟いていた。


*     *     *     *

一方の玲は動けない日野をあまり1人にしておくことも出来ず日野の元へ急ぎ向かっていた。

「おーい大丈夫か?」

ボロボロの扉を勢いよく開ける。
ようやく動ける様になったのか立とうとしていた日野が勢いよく尻餅をついた。

「お前赤城は!まさか、倒したのか」

日野はひっくり返った自分の間抜けな格好も気にせずに尋ねて来る。
プライドの高い普段の日野なら絶対にしないだろう行動だ。

「それより先にその格好なんとかしろよ」

玲は手を差し伸べ日野を起こす。

「それで、どうだっなったんだよ赤城は」

「逃げられた、いやー無事闘えたんだけどさ、しばらくしたらどっか行っちまったみたいでさ、急に攻撃して来なくなったんだよな。姿も見当たらなかったし戻ってきたってわけ」

嘘だろ!コイツあの化け物相手にどうやって戦ったんだよ!あの時だってそうだしコイツやっぱり何か隠してるんじゃ・・・・。

ふと昔のことを思い出しながら日野は玲の異常なまでの強さが能力なのでわないかと疑問を抱き始めた。

「お前は大丈夫か?今やっとの思いで立とうとしてたみたいだけど」

「ん?ああ、もうだいぶ良くなった、後5分も休めば普通に歩けるくらいにはなるからな」

「そ、じゃあそれまでは一緒にいてやるよ闘えないやつ1人置いてくなんて出来ねぇからな」

玲はそう言い日野と少し距離を置いて腰を下ろした。

「いらねぇよ別にお前に面倒になる筋合いはねぇよ!」

他人の手を借りることに慣れていないのか日野は声を荒立てて拒否した。

「親切は素直に受け取っといたほうがいいぞ、こんなところで終われないんだろw」

玲は少し小馬鹿にした様に言う。昔ならキレるところだが今の日野はそれがバカにしてるのではなく冗談だとなんとなく理解できる。

「わかったよ!その、なんだ・・・・ありがとな」

「いいよ別に俺が好きでいるだけだし、それに昔お前には悪いことしたしな、まぁせめてもの償いってやつだ」

「でもあれは!・・・元を辿れば俺が悪かった訳だし」

入学式の日とは違い日野は自分の非を認め玲に対しての怒りはもう完全に無くなっていた。
謹慎中何を思い何を考えたのか日野の心は完全に変わり、玲への怒りはむしろ玲への負い目に変わっていた。

「そうか、じゃあもし今後俺が困ってたら助けてくれよこれはその前払いってことでいいだろ」

「お前が困ることなんてないだろ、まあもしもそんな日が来たらその時は手貸すよ」

「おう、期待してる」

玲は笑顔で日野の言葉に応えた。

「なぁ、話は変わるんだけどよ、お前この後どうすんだ?まだ1時間もあるけど」

「一応天堂って奴に会いに行くつもり、聞きたいこともあるしな」

その応えに日野は驚きそれを止めようとする。

「は!?お前まじで言ってんの?あいつはやめとけよ知ってんだろ午前中だけで50人以上も殺ってんだぞ流石のお前でも無理があるだろやめとけって」

しかし玲ももう決めたことだ今更やめるきはない。

「優勝目指してんならいつか倒さなきゃいけない相手だ、早いか遅いかだけだろ」

「そうだけどよ・・・・」

そう言われてしまうと日野は何も言い返せない。

「お前もうそろそろ動けんだろ」

玲に言われ腰を上げてみると普通に立ち上がることが出来た。

「じゃあ俺行くわ、あんま無理すんなよ」 

そう言い玲は扉へと向かい歩き出した。  

「お前も気をつけろよ」

日野の放った言葉に玲は背を向けたまま軽く手を挙げて応え振り返ることなくその場を去っていった。



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