「お前ごときが魔王に勝てると思うな」とガチ勢に勇者パーティを追放されたので、王都で気ままに暮らしたい

kiki

051 愚者

 




 日付が変わってから二時間が過ぎた。
 まだ今日の手紙は届いていない。
 フラムは送り主の正体を暴くために、ずっと玄関前で待機していた。
 戦いの疲れもあってか、自然とあくびをしてしまう。
 全身を包むけだるい眠気に、瞼の上から目を揉んで耐えようとする。
 そんなとき、二階から誰かが降りてきた。
 ミルキットあたりが水でも飲みにきたのだろうか。

「おつかれさま」

 意外なことに、それはエターナだった。
 確かに途中で交代するとは言っていたが、約束まではまだ二時間あったはず。
 
「エターナさん、まだ早いですよ」
「フラムは消耗してる、わたしは余裕。だからここで交代」

 本来、エターナはその役割を全て自分が引き受けるつもりだった。
 だが、フラムがそれを許してくれなかったのだ。
 つまりこの二時間は、エターナなりの最大の譲歩。
 ここから先は、どんなにフラムが拒んでも強引に交代するのだと、心に決めていた。

「そんなわけには……ガディオさんも巡回するって言ってましたし」
「あれは体力オバケ、比べるものじゃない。というか、休むのも立派な役目だと思う」
「……まあ、そうなんですけど」

 実際、フラム自身も疲れは感じていた。
 今から朝までぐっすり寝たところで、完全にそれが取れることはないだろう。

「眠れない?」
「沢山の死に顔を見たあとですから。慣れてきたとはいえ、辛いものは辛いです」

 眠れないことはないだろうが、おそらく夢見は悪い。
 できれば慣れたくもなかった。
 血も、内蔵も、生臭い人の中身も、普通に生活をしていれば滅多に見ることはないものだ。
 グロテスクで気持ち悪い光景は、鮮明に記憶に焼き付いている。

「気分転換が足りてないのかもしれない」
「そうもいきませんよ、こんな状況じゃ。いつどこで襲ってくるかわからないんですから」
「じゃあ時間あたりの密度を求めるしかない」
「どうやったらいいんです?」

 フラムがそう聞き返すと、自分から言い出したくせにエターナは悩む仕草を見せる。
 何も考えていなかったらしい。

「むー……ミルキットともっと仲良くなる、とか」

 そしてひねり出した答えがそれだった。
 フラムはガクッと肩を落とす。
 そして苦笑いしながら、自信満々に言った。

「そんなの、放っておいてもそのうちなってますよ」

 今度はエターナが呆れる番である。

「はぁ……言い切れるあたりはさすが。でもよくわからない」
「何がですか?」
「二人は恋人同士というわけでもなさそう」
「あはは、なに言ってるんですか」

 フラムはあっさりと笑い飛ばす。

「そりゃそうですよ、女同士なんですから。確かに仲良しだし、ずっと一緒にいたいとは思いますけど」
「……ふむ」
「その納得したような反応は何なんです?」
「まあ、気にしないで放っておいてもいいのかなと思った」

 首を突っ込むと面倒なことになりそうだ。
 二人の関係は遠巻きに見守るぐらいでちょうどいい、改めてそう認識するエターナ。
 
「気分転換に関してはそのうち考えるとして、休んだ方がいいのは事実。変わるから早く寝て」
「そう……ですね。わかりました、それじゃあお願いします」
「任された」

 ぐっと親指を立てるエターナ。
 フラムは彼女に見張り役をバトンタッチして、二階に上がった。
 寝室に入って、大きく息を吐く。
 何だかんだ言って、“やって寝れる”と喜んでいる自分がいた。
 ベッドに近づいたフラムは、先に寝ていたミルキットの顔を覗き込む。
 可愛らしい寝顔に表情が緩む。
 隣に並ぶのが忍びなくなるほど、人形のように整った目鼻立ちだ。
 こうやって観察していると改めて思う、彼女はもっと幸せになるべき人間なのだ、と。

「私にはもったいないぐらい」

 言いながら、頬にかかった髪の毛を優しく払う。
 指に当たる肌の感触は絹のようになめらかで、ずっと触っていたいぐらいだ。

「……ん」

 すると、ミルキットの目が薄っすらと開いた。
 首を曲げると、視線がフラムの姿を捉える。

「あ、ごめん起こしちゃったかな」
「いえ……眠りが浅くて、何度も起きてましたから。やっぱり、ご主人様がいないとだめみたいです」

 彼女は寝ぼけ眼で、フラムの服の裾に手を伸ばし、ふにゃりと笑って言った。
 いつもとは違うだらしない笑顔も、これはこれで可愛らしい。
 フラムの胸はときめく。
 うちの相棒はこんなに可愛いぞー! と街中を叫んで回りたい気分である。

「んじゃ、隣にお邪魔しまーす」

 フラムが彼女の隣に潜り込む。
 ベッドの中は、すでにミルキットの体温で温まっていた。
 主が隣に来ると、彼女はすぐにその腕にしがみついて、足を絡める。

「ご主人様ぁ……」

 甘える猫のように肩に頬を当てると、そのまますぐに眠りに落ちた。
 起きたというより、夢でも見ている状態だったのかもしれない。

「明日の朝には忘れてそうな気がする、覚えてて恥ずかしがってるのも見てみたいけど」

 しかし、エターナの言うとおりだ。
 たったこれだけのやり取りで、嫌な記憶なんてどこかに飛んでいってしまった。
 思い出すより先に寝てしまおう、とフラムはすぐに目を閉じる。
 やはり肉体の方も相当疲れていたのだろう、五分もしないうちに彼女は意識を手放し、熟睡していた。



 ◇◇◇



 陽がのぼり、王都が明るく照らされる。
 未だ手紙は届かず、そのまま夜が明けてしまった。
 見張られているのを察知して避けているのかもしれない――と考えはじめたとき、エターナは玄関に近づいてくる足音を聞いた。
 地面を叩く足音は軽い、体格はそう大きくないようである。
 そいつはポストを開くと、中に何かを入れてすぐさま立ち去ろうとする。
 エターナは玄関から飛び出す。
 すると――少年・・はまさか出てくると思っていなかったのだろう、驚いた様子で足を止め、振り返った。

「……聞きたいことがある」

 少年の肩を掴み、威圧するエターナ。
 彼は明らかに怯えた表情で彼女を見上げた。

「な、なに?」
「ポストに入れた手紙、あれは君が書いたもの?」
「違うよっ! 昨日、おじさんに頼まれたんだ。おこずかいくれるからって」

 彼女は少年の目をじっと見つめた。
 瞳には涙が浮かんでいる。
 ここまで怖がらせるつもりはなかったが、真偽を見極めるためには必要なことだったのだ。
 試しにスキャンもかけてみたが、ステータスに異常が生じている様子もない。
 本当に、ただの通りすがりの男の子のようだ。

「わかった、信じる。もう帰っていい」

 解放されると、少年は全速力で駆けていった。

「おじさんって言ってたけど……あてにならない」

 教会関係者のおじさんなど腐るほど存在する。
 まさかサトゥーキ本人がわざわざ頼みにいくとも思えないし、足取りを追うのも難しいだろう。
 しかし、子供に頼んで投函するとは、見張っているのを読まれていたようで不愉快だ。
 エターナは苛立たしげにポストを開き、取り出した封筒の中身を広げ、読み上げる。

「残り二日。巻かれた種は三つ、彼らは綺麗な花を咲かせるだろう。だがそれに惑わされてはならない、真に望むものは未だ地中深く埋まったまま……相変わらずポエムっぽい、教会は暇人の集まり」

 そう言い捨てると、手紙を畳んで握りしめ、家の中に戻っていった。



 ◇◇◇



 起床後、フラムはガディオと合流するため、ギルドへ向かった。
 だがいつもと違うのは、ミルキットやインク、そしてエターナが同行していることである。
 確かに家とギルドで分かれて待つよりは、スロウ共々ギルドで待っていてもらった方が安心はできるだろう。
 それに、昨日のようなミルキットの不安も、いくらかは和らぐはず。
 その提案と拒む理由はフラムにはなかったのだ。

「おはよー」

 フラムは軽く手を上げて、カウンターのイーラに気だるげに挨拶をした。
 彼女の方も慣れた様子で「おはよ」と投げやりに返事をする。
 あまり面識のないミルキットたちは、軽く会釈をするぐらいだった。

「スロウは?」
「いるわよ、奥で書類整理中」

 耳を澄ますと、奥からガサガサという音が聞こえてくる。

「そっか。昨日はガディオさんちに泊まったの?」
「ええ、スロウは母親と一緒に泊まったみたいね」

 それはフラムだって知っている。
 聞きたいのはそれではなく――

「いや、イーラはどうしたのかと思って」

 彼女はフラムを恨めしそうに睨みつけ、ぶっきらぼうに言った。

「私が泊まれるわけないじゃない、なんでそんなことあんたが聞くのよ」
「昨日、いかにも泊まりたさそうな顔してたから」
「そんな顔っ……いや、してたかもしれないわね」

 珍しく素直だ。
 泊めてもらえなかったのがよほどショックだったのだろう。

「こんな朝っぱらから、やけに冒険者が多い」

 二人の会話が落ち着いた頃合いを見計らって、エターナが紹介所の方を見ながら言った。
 フラムもそちらに視線を向ける。
 酒の匂いはしないが、下は十代から上は四十代まで、しっかりと装備を整えた冒険者が十名ほど座っていた。
 朝から賑わっている光景を見ると、デインがいた頃を思い出す。

「マスターが集めたのよ、ギルドが狙われたときのための護衛にってね。もちろん報酬はギルド持ち」
「ガディオさん、ただでさえ忙しそうなのに、そんなことまで手配してくれたんだ」

 確かにあれだけの人数の冒険者がいれば、チルドレンが攻め込んできてもスロウを逃がすことぐらいはできるだろう。
 もっとも、倒すのは難しいかもしれないが。

「ところで集めた本人は?」
「出払ってるわ、また死体が見つかったとかで。すぐに帰ってくると思うわよ」
「そっか……」

 チルドレンたちは絶え間なく活動を続けている。
 この広い王都で、自由に動き回る子供を、何の手がかりもなく見つけ出すのは、非常に困難だろう。
 だが一刻も早く彼らを止めて、マザーの居場所を見つけ出さなければ。

「噂をしてたら帰ってきたみたいね」

 フラムたちの視線が一斉に入り口の方を向いた。
 するとコートではなく、黒い鎧を纏ったガディオが中に入ってくる。

「もう来ていたのか」

 声はいつもより少し低く、若干の疲れが感じられた。

「ガディオさんこそ、こんな朝早くから出てたんですね」
「ああ、貧民街の方で死体のが見つかってな」

 その言葉を聞いて、フラムは頬を引きつらせる。
 そんなことをできる子供は、一人しかいない。

「ネクトってことですか」
「その見立てで間違いないだろう。百人弱の人間が一つの塊になり、放置されていたそうだ。さっきは死体と言ったが、正確にはまだ何人かは生きていた」

 ミルキットが「う……」と気持ち悪そうに口元を抑えた。
 生きたまま他人の体と一つにされる。
 それはどんな気分なのだろう。
 傷ができるわけではない、ひょっとすると痛みは無いかもしれない。
 そう考えると、単純に傷つけられて死ぬよりはマシとも考えられるが――人間として真っ当に死ねたとは言えないだろう。

「ところでフラム、これを」
「なんですか?」

 ガディオはフラムに近づくと、手に冷たい何かを握らせる。
 広げてみると、それはペンダントだった。
 ペンダントトップには、小ぶりながらも高そうな赤い宝石があしらわれている。

「死体周辺に落ちていたものだ。正直どうかとは思ったが、背に腹は代えられんからな。今は少しでも戦力が欲しい」
「要するにこれ……呪われてる、ってことですか?」
「そういうことだ、スキャンしてみればわかる」

 おそらく死者の持ち物だったのだろう。
 しかし、事件は貧民街で起きていたはず。
 そこで死んだ人間が、なぜ宝石の付いたペンダントなどという、高価なものを所持していたのか。
 疑問はあるが、ひとまずフラムはスキャンをかける。



--------------------

 名称:虚栄心のカーミンペンダント
 品質:エピック

 [この装備はあなたの魔力を1521減少させる]
 [この装備はあなたの感覚を92増加させる]

--------------------



「エピック……事件は今朝起きたばっかりなのに、ずいぶんと呪いを溜め込んでるんですね」

 とはいえ、呪いの装備だが感覚は“増加”する。
 つまり、フラムのステータスは減少してしまうのである。
 それでもお釣りがくるほどに、魔力の上昇量が大きいのだが。

「元から呪われていたんだろう」

 貧民街の住民がそれを所持していたことも、呪いがやけに強力なことも、それで納得できる。
 呪いの装備は言うまでもなく安価だ。
 ひょっとすると、捨てられていたものを拾った可能性だってある。
 それほどまでに冒険者にとって魔力の低下は致命的なのだ。
 一方で、貧民街で暮らす人間たちは、さほど魔法に依存しない生活を送っている。
 十分な衣服もない人間にとっては、貴重な装飾品だったのだろう。

「呪いの装備を使ってまで着飾りたいものなのかな……」
「女性なら誰しも望むことじゃないのか?」
「うーん……私はほら、見ての通り見た目より動きやすさを優先するタイプなんで。おしゃれはミルキットから貰ったヘアピンぐらいで十分です」

 自慢げに前髪を留めるそれをガディオに見せつけると、彼は「ふっ」と笑みを浮かべた。
 フラムの隣に立つミルキットは、少し恥ずかしそうに目を伏せる。
 しかし、入手経緯はどうであれ、このネックレスはフラムにとってかなり大きな進歩だ。
 魔力の増幅は、それだけ反転の力を高めることに繋がる。
 ガディオの言うとおり、少しでも戦力を高めるために、装備の選り好みをしている場合ではない。
 強くならなくてはならないのだ。
 守るためにも、得るためにも。
 幸い――と言っていいのかはともかく、最近は相手にする敵の数も増えてきたおかげか、装備の呪いもさらに高まってきている。



--------------------

 名称:魂喰いのツヴァイハンダー
 品質:エピック

 [この装備はあなたの筋力を508減少させる]
 [この装備はあなたの魔力を223減少させる]
 [この装備はあなたの体力を441減少させる]
 [この装備はあなたの敏捷を379減少させる]
 [この装備はあなたの感覚を255減少させる]
 [この装備はあなたの肉体を溶かす]

--------------------



 これが今日の夜明け前、見張りの間に暇だったフラムが確認した魂喰いの状態である。
 つまりステータスの合計値は――



--------------------

 筋力:2077
 魔力:2879
 体力:1689
 敏捷:1322
 感覚:1745

--------------------



 9712。
 まだギリギリAクラスのままだ。
 だがこの調子で魂喰いを振るっていれば、一万を越えるのも時間の問題だろう。
 だからといって、すぐにSランクになれるわけではないのだが。
 フラムの実際の冒険者ランクは、まだDのままである。

「よくそんなもん付けられるわね」

 イーラは冷ややかな目で、ペンダントを首にかけるフラムを見た。

「そんなこと言ってたら、このブーツなんて死体の山から引きずり出したやつだし」
「……いや、どっちにしたって気持ち悪いことに変わりは無いから」

 彼女にどう言われようが、フラムが強くなるには呪いの装備を増やすしかないのだ。
 ペンダントもエピック装備のため、試しに一旦消してみる。
 すると鎖骨のあたりに赤い印が浮かび上がった。

「奴隷の印に体のタトゥー、ますます娼婦っぽくなってるわね」
「うっさい」
「私はかっこいいと思います」
「ふふ、あんがとねミルキット」

 自分をダシにして微笑み合う二人に、「けっ」とやさぐれるイーラ。
 しかし、一見して喧嘩めいたやり取りにも見えるが、ガディオは特に諌めたりはしなかった。
 何だかんだ言いながら、イーラとフラムが彼女たちなりの良好な関係を築いていることを知っているからだ。

「おはよーございまーす!」

 そこに、元気に挨拶をしながらギルドに入ってきたのは、ウェルシーだった。
 彼女は手を上げて周囲を見渡すと、

「おーおー、朝から賑わってるねー」

 人がひしめく光景を見て、感心しながら言った。

「あれ、なんでウェルシーさんがここに?」
「俺が呼んだんだ」
「もしかして、スロウの母親について調べてもらうためですか」
「そうだ、昨日直接聞いたが、彼女の口からは何も聞けそうに無かったからな」

 スロウとその母親を屋敷に止めたのは、第一に二人を守るためだ。
 だが、スロウの父親に関する情報を聞き出すためでもあった。
 しかし、この威圧感の塊のようなガディオを前にして、スロウの母親もよく黙秘を貫き通せたものである。
 そこまでするということは、よっぽど何か大きな秘密があるらしい。

「ほうほう、スロウの母親。そのスロウってのは、誰なんですか?」
「俺だよ、俺!」

 彼は受付の奥からひょっこり顔を出すと、手を振ってアピールをした。
 その顔をじっと見てから、ウェルシーは首を傾げてガディオに尋ねる。

「はあ、彼はギルドの新人さんかなにかですか?」
「まさにその通りだ」
「何でまた、そんな一般人の父親を調べろなんて話になるんでしょーか。身辺調査なら別の人に頼んだほうがいいと思いますよ」

 ウェルシーはあくまで新聞記者である。
 探偵というわけではない。

「実は、どうやらあいつは、王都を騒がせている殺人鬼に狙われているらしいんだ」
「ああ、あの……」

 ウェルシーもさすがに凄惨な事件に心を痛めているらしく、表情を曇らせた。
 東区でも犠牲者が出たのだ、ひょっとするとあの中には彼女の知り合いだっていたかもしれない。

「でも狙われてるって、あいつら無差別にやってるみたいですし、偶然じゃないかなー……」
「それがどうも違うみたいなんですよ、私は直接やりあったんで」
「フラムちゃんがそういうならそうなのかな。で、そのスロウくんの出生に謎があるかもしれないと」

 暗い顔をして考え込むウェルシー。
 すると彼女は急に元の表情に戻ると、「そういえば」と手を叩く。

「殺人鬼で思い出しましたけど、みなさんは王城前広場にはいかないんですねー」
「王都前広場?」
「そこになにかある?」

 エターナが尋ねると、ウェルシーは怪訝そうな顔をした。

「なにかって、昨日の事件の犯人とされる四人を王国が手配して、広場に似顔絵と一緒に貼り出したんですよー」
「何だと……?」

 ガディオはそれを聞いて、眉間にしわを寄せた。

「懸賞金は高額だし、昨日の今日で話題にもなってるからすごい人数が集まってて……あれ、東区と中央区のギルドにはお達しが行ってたー、って聞いたけど、ここにはまだ?」

 彼女は知ってて当然だ、とでも言うように話す。
 だが誰も、何も知らされていない。
 マスターであるガディオですら、そんなことは一言も。

「馬鹿な……この状況で、一箇所に人を集めるだと!?」
「さすがにまずいと思う」
「え? なにがです?」

 焦るガディオとエターナに、状況が全く読めないウェルシー。

「奴らに餌を与えるようなものだ!」
「ガディオさん、行きましょう!」

 フラムはすぐさま広場に向かうことを提案した。
 ガディオもそれに対し即答で頷く。

「ああ、エターナもついてこい」
「言われなくても」

 三人は険しい顔でギルドの出口へ向かう。
 冒険者のみならず、興味本位の一般人までもが集う王城前広場。
 昨日の出来事があったばかりだ、さぞ警備は厳しいだろう。
 しかし、仮にそこに一人の子供が紛れ込んだとして、それを犯人だと気づき、排除できる人間がどれほどいるだろうか。
 しかも相手は、触れただけで人を殺せるだけの力を持っているのだ。

「ご主人様、気をつけてくださいね」
「私はここで無事に帰ってくるの待ってるから」

 フラムたちが焦った理由を理解できたのは、ミルキットとインクぐらいのものだ。
 他はよくわからないままに三人を見送る。
 外に出ると、先頭を行くガディオは他の二人に配慮せずに、全力疾走を始めた。
 フラムはどうにかその背中を追いかける。
 エターナは水魔法で犬のような形をした乗り物を作り出すと、その背中に乗ってガディオと変わらぬスピードで駆け抜ける。
 その途中で、ドォン――と広場の方から爆発音が響いた。
 すでにチルドレンは動き始めているのだ。
 フラムは煙の上がる北の空を、忌々しげに睨みつけた。





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