とある学園生活は制限付き能力とともに
未来へ
アビリティアとレヴナントの戦いが終わってから数日後…僕達はミカさんの屋敷を訪れていた。
「ミカさん…大丈夫ですか?」
志穂先輩が心配そうな表情でミカさんに尋ねる。
「ええ、だいぶ落ち着きました。心配かけてしまい申し訳ありません」
「仕方ないですよ…大切な人がいなくなってしまったんですから……」
志穂先輩はそう言いながらミカさんの横に移動しミカさんの前にある棺に花を添える。志穂先輩に続いて楓先輩が花を置きそして僕達が順番に花を置いていく。
「みなさん、今日はわざわざありがとうございます。アシュリーも嬉しく思っていると思います」
僕達がアシュリーさんの入った棺に花を添えた後、棺はミカさんの一族…弥生一族の墓の横に埋められた。その際ミカさんが一滴の涙もこぼさなかったのが僕には意外だった。
「……………あの、ミカさん…」
棺を埋め終わりミカさんの屋敷に帰る途中、誰一人と話さなかった中で志穂先輩が口を開いた。
「もしよかったら私達と一緒に未来に来ていただけませんか?」
「私が…未来に?」
「はい。以前もお話ししましたがミカさんの子孫である方が私達の恩師だったんです。ですが….恩師はすでにいません。過去に来てミカさんと出会って優しい弥生先生を思い出しちゃったんです。このままミカさんと別れたくない…だから、私達と一緒に未来に来てください」
「でもそれは未来を変えるということにつながってしまうのでは……もし、未来を変えてしまうのなら…一緒に行くことはできません……」
ミカさんは志穂先輩の頼みに少し驚きながら答える。
「そのことなら大丈夫です。杏奈先生に調べてもらいましたから…ミカさん、今回の件の責任を取って死ぬ気ですよね?いえ、今はそういう考えはないかもしれませんが近い未来必ずそうなります…」
「………やはりそうなりますか…いずれは自ら命を落とすかも…と思ってましたが……」
「私はミカさんを死なせたくないんです。だから私達と未来に行きましょう。ミカさんが守ってくれた未来で一緒に生きましょう。それにアシュリーさんはミカさんが死ぬことを望んでない…」
志穂先輩とミカさんのやりとりを僕達は黙って見届けていた。
「たしかにそうかもしれません…嫌、そうなんでしょうね。アシュリーは私が死ぬことを望んでない…私と本気で戦うとか言いながらアシュリーは私を殺そうとはしなかったし…アシュリーは私に生きて欲しいって言った……だけど私は……」
「つらい…生きるのがつらいって言いたいの?」
黙って話を聞いていた楓先輩がミカさんの言葉を遮る。
「だったらふざけんな…大切な人を失っても強く生きている人はたくさんいる。たしかに大切な人が死んでつらいと思わない人はいない…だけどあなたが大切に思ってた人……アシュリーさんの思いをよく考えなさい…アシュリーさんは死にたくなかったはずよ…もっともっとミカさんと一緒にいたかったはずよ。だけどそれはできなかった…だからミカさんには自分の分までしっかりと生きて欲しいってアシュリーさんは思うはずよ」
「…………少し時間をちょうだい…考える時間を…」
ミカさんは下を向いて志穂先輩と楓先輩に言った。
「私達は明日の朝、未来に戻るわ。それまではアビリティア本部にいるから…」
楓先輩はミカさんにそう言いアビリティア本部の方向に歩き出す。楓先輩に続いて志穂先輩がそして僕達もアビリティア本部に戻る。その場に残されたミカさんは一人でその場から動かずに上を向いた。
「よかったんですか?ミカさんを一人にして…」
花実が不安そうな顔で楓先輩に尋ねる。
「大丈夫よ。あの人なら…ミカさんならアシュリーさんの思いをちゃんと受け止められる。だから私達は信じて待つだけよ」
「そうね…私達にできることはたぶんないわ…だから信じて待ちましょう」
志穂先輩の言葉を最後に僕達はアビリティア本部に戻るまで口を開かなかった。そしてあっというまに一晩が過ぎ去った。
「もう朝か…はやいな…」
屋敷に戻りずっと椅子に座ってボーっと何かを考えていた私は辺りをキョロキョロと見渡す。
「この屋敷ってこんなに広かったんだ……」
生まれてからずっとアシュリーが一緒にいてくれたから私は初めて一人でこの屋敷で一晩を過ごした。
「私どうしたらいいんだろう……アシュリー…教えてよ…私がどうしたらいいのか…」
私はずっと手にしていたナイフを見つめながら呟く。昨晩何度このナイフで自身を貫こうとしたことか….だが、ナイフを突き刺そうとした瞬間、アシュリーの声が聞こえて私の腕を止めた。アシュリーのずっと私の大好きなミカ様でいてください….と言う声に何度も邪魔をされた。正直なことを言うと私は死にたかった。死ねば楽になれるから…死ねばアシュリーと一緒にいられるから…
「わかんない…わかんないよ….…」
そう呟きながらふらふらと屋敷を後にした。そして気づいたらアビリティア本部の前に私はいた……
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