錫メッキ短編集

錫メッキ

悲諦


悪役令嬢のザマアとかスカットとかそんなのが書きたかった…
何一つ達成できなかった…
どうしてこうなった(悔)



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私、知ってるのよ?
貴方が本当に好きなのは私ではなく彼女だってこと。
花のように可憐で、陽だまりのように暖かい…私とは何もかも正反対のあの子。

ねぇ、覚えてる?私と貴方が初めてあった時の事。
確か…あの時、あなたは私に小さな花束をくれたわ。
別に、お店で買ったとか、
綺麗な紙に包まれてた…とかそんな手の混んだものではなくて。

そこら辺に咲いていそうな小さな花。
白と、黄色…それに…何色だったかしら?
うふふ、嘘よ。
ちゃんと覚えているわ。
あれは薄い紫の花だった。

貴方、茎を強く握りしめるから私が受け取ったときにはお花も萎れちゃって。
あのときは可笑しくてつい笑っちゃったわ。
悪気は無かったのに…貴方ったら勘違いしちゃって、あの日は最後まで私と目を合わせてくれなかった。

普段あの子…えぇ、妹に掛かりっきりで私に興味のない両親が、初めて私に与えてくれたのが貴方との縁談だったの。

嬉しかったわ。
初めて私を見てくれる人。
私を愛してくれる人。
私だけの婚約者。

全てが初めてのだったの。

週ごとに贈りあった手紙も、
季節によって咲き誇る様々な花束も…
たとえ貴方の目が何時も妹に向いていたとしても。

貴方は私に沢山の愛情を与えてくれた。
だから私も貴方に相応しくなれるように頑張ったわ。

身寄りのない子供達のために孤児院の設立、貧しい家庭のために職業の斡旋、特産品の開発に品質のブランド化、公衆衛生の概念の普及…

領民が飢えない、小さな子供が死なない、そんな領地を目指して沢山走り回ったわ。
だんだん街の人や孤児院の子供達と打ち解けて…それから毎日、ずっと楽しかった。

…結局、この功績は全て妹の物になってしまったけれど…

あんなに頑張ったのに…ごめんなさい、こんな形で終わらせてしまって。
こんなつもりじゃなかったのよ?

あの日…妹と両親の乗った馬車が崖から転落したって知らせが来た時、私は1人で屋敷にいたわ。
正反対の地方の農村で干ばつと洪水が同時に起こって、その被害の把握と補填の為の書類を作成していたから…。

皆言ってたわ、あの人達が死ぬくらいなら私が死ねばよかったのに。
貴方もそう思ったでしょうね。

馬車が崖から転落したのが事故じゃなくて事件だとわかってから真っ先に私が疑われたわ。
衛兵が押し寄せてきたと思ったら…気づいたら牢に繋がれてて。
知ってるわよね、貴方もあの場にいたのだから。

違うって、私は何も知らないって、ちゃんと言ったのに…
貴方は床に押さえつけられた私から目を逸らして私から距離を取った。

裁判は一応行われたけど…形だけね。
意味がなかった。
結果はとっくに決まっていたのでしょう?

私が死んだら領地はどうなるのかしら…孤児院が心配だわ、特産品の工場はもう大丈夫。でも子供達はまだ一人じゃ何もできない…
それだけが私の心残り。

あぁ、刑が執行される時間ね。
さようなら、私の愛しい人。

できれば、私のお墓にはまたあの小さな花束を添えてほしいの。


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歴史書から引用。

王国歴184年
領民の為に尽くした無実の侯爵令嬢は、当時の裁判の腐敗による冤罪だった。
彼女は誰にも知られる事は無く服毒によりひっそりとこの世を去った。
その後彼女の墓は、小さな花の咲き誇る花畑に今尚存在し続けている。






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