Copán

2.青い彼女の到来

まったくどうしてこんなことになったのだろう。まだたいして時間は経っていないはずだがもうずいぶん昔のことのようだ。

大きな仕事が終わった久々の休みでたしか起きたのは13時頃だったと思う。トイレに行き顔を洗う。髭はやや伸び気味であったが出掛ける用も無いので剃らなかった。昼食に何を食べたのかが思い出せないが、前日の帰りにコンビニで買ったコーヒーがいやに薄く不味かったことは覚えている。読み掛けのサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」を読む。あと少しのところで一週間程読む時間が取れなかったのだ。小説を読み切ってしまうと(たいして面白いとは思わなかった)僕はまた眠くなって来たのでソファーで横になった。時計は18時半をさしていた。

僕があと少しで眠りに落ちるというところで彼女はやって来た。インターフォンがゆっくりと二度鳴らされる。僕はその誰かの到来を無視することにした。休日なのだ。出なければいけない理由などない。1分程経つと今度はドアがノックされた。大きくも小さくもない適切な強さのノックだった。ただそのノックは何故か40くらいに設定されたメトロノームのように規則的に延々と続いた。まったく誰が何の為にそんなノックをしなければならないのだろう。僕は諦めて起き上がり扉を開けた。

そこには青い女性がいた。青いワンピースに、青いパンプス、青いボストンバッグ、青い麦わら帽子。そういえば青い麦わら帽子というものを見るのは初めてだった。彼女の背丈は小さかったがよくみるとどうやら大人ではあるらしい。顔立ちは人目を惹く美人というタイプではないが整っていた。少なくとも僕は好きなタイプの顔だった。

彼女は使い慣れた駅の改札でも通るみたいに何も言わず玄関を通り抜け僕の家へ入った。靴くらい脱いでくれよと言いたかったがそれを言わせない何かが彼女にはあった。まあいいさ、これくらい後で少し拭けばいいのだ。彼女はさっきまで僕が寝そべっていたソファーに座っていた。僕が何かを言おうとすると彼女はまあ座ってとでも言うように自分の隣を掌でさした。
僕と彼女は少し動けば肩がぶつかるくらいの距離で隣り合っていた。もともと大きいソファーではない上に彼女があまりにも中途半端な位置に座っていたからだ。もっとも彼女はそんなこと気にも止めていないようだが。

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