俺の妹はヤンデレでした

繭月

12話

〈柏木 楓〉
今日は初めて葵くんと買い物に行くとなって私はつい朝早くに目が覚めてしまった。
【早起きは三文の徳】ということわざごあるのだから少しでもいいことがあればなぁ。というくらいの気持ちで二度寝せずにベットから起きた。
ちなみにどれくらい早いかというと後から起きてきた母に「楓どうかしたの?」と割と本気で心配されるほどである。
その後特にすることもないので朝から軽くシャワーを浴びた。
と、そこで問題が発生した。
すなわち葵くんってどんな感じの服が好きなのかという大問題である。
私はすぐに隆盛くんに連絡を取ったが時間的に起きていないらしく全く繋がらない。
「はぁ〜。こんなことなら昨日しっかり聞いとけばよかった」
落胆するも過ぎたことは仕方ないと思いクローゼットから可愛いと思う服をいくつか取り出す。
「ん〜、どれにしよう」
ピンクの可愛いフリルのついた服・・・可愛いけど流石にこれは子供っぽいというか恥ずかしい。
少し大人っぽい感じでいこうかな。となるとえーっと、
「こんな感じかな?」
姿見の前に立つ。
淡いブルーのジーンズと
「う〜。なんか思ってたのと違う・・・」
一応全部女の子用の服で揃えたのになんでかボーイッシュになってるんだけど。
その時私は扉の方から視線を感じ振り向くと、
「うふふ」
いつのまにか母が扉を少し開けて覗いていた。
「いつからいたの!?」
「葵くんがどんな服装が好きなのか悩んでいるところからかな」
にこにこと謎の微笑みを浮かべて母は扉を開けて入ってきた。
「なんで知ってーーー」
「あれ?ほんとうにそうなんだ〜」
いつのまにかニヤニヤという顔に変わって私を眺める母親にカマかけられたことに気づき顔を真っ赤に染めると私は母親を無理やり部屋から追い出して鍵を閉めた。
「はぁ〜今度からはしっかり鍵閉めなきゃ」
そんなことを決意して私は今日の服を決めて少し、いやそうとう早いけど家にいても母親にいじられるだけなので朝も食べずに集合場所まで向かった。


「早く来すぎたかなぁ」
駅に着き集合場所の時計塔で待ちはじめて15分ほど経った時だった、住宅街の方から見知った人が歩いてくるのが見えた。
私は身だしなみがきちんと整っているか手鏡で確認していると、
「おはよう柏木さん」
「え、お、おはよう」
さっきまで道路を挟んだ向かい側にいたのにいつのまにか目の前にいることに少し驚いてしまった。
「誰かと待ち合わせ?」
その言葉に私はさらに驚いた。
「えっと隆盛くんに聞いてないかな?今日私も誘われてるんだけど・・・」
私が答えると葵くんが驚いた顔をした。
(なんで隆盛くん言ってないの〜!)
「ちょっと待って今隆盛に連絡するから」
私がそれに頷くと葵くんは少し離れてしばらく電話をかけていたが繋がらないのか耳から離しメッセージ?を送っていた。
「そういえばどれくらい前にここに着いたの?」
「え、なんで?」
「いや俺も含めて待たせることになったからさ」
「い、いや全然!むしろ今さっき来たとこだから全然大丈夫、だから」
「そう?ならよかった」
安心したように葵君が笑っていた。
「このシチュ立場は逆だけどやれて良かった」
無意識で口に出してることに気づいて葵君を見たけどどうやら気づいていないようだった。
それよりどうしよう・・・たしかに家を出るときに、もしかしたら瑞樹ちゃんよりも葵くんが早く来て少し二人でお話しする時間があればいいなぁ〜って思ってたけど!
チラッと私は時計を確認する。
(それにしても来るの早すぎるよ〜)
キョロキョロと少し周りを見回すと、くぅ〜と小さく私のお腹がなった。
聞かれては・・・ないよね。
だけど買い物中にお腹がなったらどうしよう。
そこでまたキョロキョロと周りを見回して道路の向かい側に友達の間でも話題になってたカフェを見つけた。
そして私は葵くんの腕を引こうとしてーーーー恥ずかしくなり袖を引っ張った。
私に袖を引かれて葵くんが振り返る。
「あの、星原君。私朝ごはんあまり食べてなくて。時間もまだあるしちょっとそこのカフェに行かない?」
私の誘いに葵くんは少し悩む表情を見せた。
いや、なのかな。
「ダメかな?」
少し前かがみになってしまったので見上げる形になってしまった。
少し顔を赤くして、しかし更に困った表情を見せた。
「聞きたいことがあるんだけどな」
たとえば好きな人がいるのか?とか、どんなタイプが好みなのか?とか。
直接は恥ずかしいけどそれでも知りたい。
私がもう一度お願いしようと顔を上げると、
「いいよ柏木さん!」
へ?
葵くんの顔は何かに期待するような子供っぽい表情だった。
というかこれはデートなのでは・・・
そう思うと顔が熱くなるのを感じてそれを見られないように私は目的のお店へ先に歩き出した。

お店の中は友達に聞かせれてた以上にオシャレな内装だった。
私は葵くんに一緒に来てくれたことに感謝して店員さんに案内されるままに窓際の席に着いた。
「ここのお店パンケーキが有名なんだって」
メニューを開くと数ページに渡り色とりどりでいろんなデコレーションがしてあるパンケーキの写真が載っていた。
私はその中で今日までのパンケーキを選んだ。
それは春限定の商品があまりにも人気で少しだけ延長したものらしい。
私は頼むものが決まったので葵くんをチラッと見ると、すごい真面目な顔で悩んでた。
「俺も同じのにしようかなぁ。あ、でもこっちのレモンを使ったパンケーキってのもいいなぁ。今度また来ようかな」
そう言って葵くんはメニュー表をまじまじと見ていた。
「でもそれ今日までのだよ」
私が教えると小さく声を漏らしてもう一度メニュー表を見て表情が一気に絶望に変わった。
「くっ、諦めるしかないというのか!」
そんな表情を見ていられず私の分を少しあげると提案すると、
「天使か!」
「え、えぇ!」
天使 ︎そんなに ︎それほどパンケーキ好きなら今度作ってみようかな。
私がそんなことを考えていると店員が注文したパンケーキを持ってきた。
葵くんは苦いのが苦手なのか飲み物はオレンジジュースだった。
大きいなぁ。パンケーキをみて朝から入るか考えて入らなさそうなので四分の一を切って葵くんに渡すと、
「いいのこんなに?」
「うん。朝からこんなにたくさんは食べられないかなぁて」
そういうと葵くんは嬉しそうにそれを受け取った。
「「いただきます」」
二人で言ってそれぞれのパンケーキを一口食べる。
「うま!」
「美味しい」
さすが人気のあるお店だ。
それにしても今葵くんと二人きり。
「ふふっ」
自然と笑いが溢れてしまう。
そして葵くんを見てると視線に気づいたのか葵くんも顔を上げて目が合う。
「・・・」
「・・・あっ!」
そう言って何かに気づいたのか葵くんは自分のパンケーキを切り分けてフォークで刺すと私に渡してきた。
「はい」
「え?」
「食べたかったんじゃないの?」
どうやら私が葵くんじゃなくパンケーキを見てたと思われたらしい。
「うぅー、違うんだけど・・・」
それでも興味がないわけではないので素直に受け取り食べようとした瞬間私の手が止まった。
なぜならこれは、関節キスになるんじゃないかと考えてしまったからだ。
そして意識してしまうと顔が熱くなっていくのが感じる。
葵くんはそんな私を心配そうな目で見つめる。
あ、これ無自覚なやつだ。
そう思うと顔の熱が少し下がり、しかしそこまで自分に魅力がないのかと思ってしまう。
私はボソッと言葉をこぼす。
「葵くんのバカ・・・」
そういってパンケーキを口に運んだ。
(味わかんない)

注文したパンケーキを食べ終えてもまだ集合時間まであと少しあるのでそのままカフェで時間を潰すことにした。
「そういえば柏木さん、聞きたいことって何?」
「え?あ、えっと」
たしかに聞きたいことはあるけどそれを直接聞くのはまだ恥ずかしい。
そこで私は無難に瑞樹ちゃんや翠ちゃんのことを話題に出した。
「葵くんは瑞樹ちゃんをどう思ってるの?」
あ、つい本音が出てしまった。
「どうって言われても・・・可愛い妹?あ、でも最近はわがままを言うようになってきて少し安心してる」
その答えに私は質問の意図をはっきりと読み取られていないことにホッとする。
「安心?わがままを言われてるのに?」
「うん。だって昔はあいつ自分のことは自分でできますって感じでなんでも一人でやっててさ、それで一度危ない目にあいそうになってさ、なんとかなったけどそれ以来は甘えはするけどそれも俺たち家族に迷惑にならないようにって感じで少し壁みたいなのが感じられたんだよ。でも最近わがままを言われるようになってようやく俺たちの間に壁がなくなったって感じがするんだ」
そう言って優しい微笑みを浮かべる葵くんの初めて見せるような表現に思わずドキッとしてしまう。
私はそれを隠すために更に話を変えた。
「りゅ、隆盛くんは星原くんから見てどんな人?」
その瞬間葵くんは待ってましたとばかりに目を見開いて、
「隆盛はいいやつだよ。あれで頭もいいし、イケメンだし、運動もできる。それに気配りだってできる、イケメンだし」
なんだかイケメンってところに少し恨みを感じるのは私の気のせいかな?
「まぁそれでもあいつにあまり友達がいないのはそれを全て帳消しにしてあまりあるオタ趣味性格だろうな」
たしかに普通のオタクくらいならあの見た目や性格(オタ趣味のことではない)で隆盛くんを好きな人がいてもおかしくはないんだろうけど隆盛くんは普通のオタクを逸脱してるからなあ。
そう思うと本当にあのスペックはもったいない気がする。
「それでも話せばいいやつだってわかるんだよ。だから俺は柏木さんが隆盛と仲良くしてくれて本当に嬉しいんだ」
そう言ってまた私に笑いかけてそして真面目な顔になると私の目を見て言った。
「だから隆盛を今後ともよろしく」
なにその自分の娘と付き合っている彼氏に娘は任せたって言う時のお父さんのセリフ的なの。
と思ったが口には出さずにただ頷いた。
コンコン
不意に何かが叩かれた音がしてそちらを向くと窓の外から笑顔の瑞樹ちゃん(目は殺気に溢れている)と翠ちゃん(瑞樹ちゃん同様笑っているが目が死んでいる)そしてボロボロの隆盛くんが立っていた。
そんな様子に私は若干の恐怖を覚えるが葵くんは全く気にせず、というか多分気づいていない様子で会計を済ませて合流した。


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