本物は誰だ

桜井かすみ

黒だ

しばらくすると、私の部屋に一人の教官がやってきた。
「十号、準備は整ったか」
扉の向こうで確認される。
「できてます」
そう言って、私は扉を開けた。ドアノブを握る手が、少し汗ばんでいた。
「キミだけなんだ、まだ何も知らないのは。本当に十号は不憫だなぁ」
教官はそういうと、情けをかけるように微笑した。
生まれたてなのに……どうして分かってしまえるのだろう。こんなに、こんなに切ない感情を。

「黒だ」
教官が鋭く言いすてる。
「えっと……」
「キミは黒だ。黒のクラスだ。このクラスはみな、キミと同じ十号だ。まぁ、キミだけじゃないってことさ。人間は弱い。十体目を生み出してしまうのも、そう珍しくないのさ。そして、同じ顔だから、色分けされているのさ」
そういうと、教官は制服を渡してきた。黒色の制服だった。
全ての色を混ぜて作った、唯一無二の黒。絶望のような色。不憫な存在の色。
それが黒。
なんて素晴らしい表現なのかしら。私は皮肉にもその理由すら納得出来てしまった。
「これに着替えてから、会議室一号に来るんだ。会議室は何部屋もある。いいか、一号室だぞ」
教官が念を押して去っていく。
きっと、他の会議室には、また別の人間が顔合わせをするんだね。
私はそれを感じ取り、服を着替えた。

ー私は黒の十号。


「文学」の人気作品

コメント

コメントを書く