デフォが棒読み・無表情の少年は何故旅に出るのか【凍結】

決事

33 心地よさを覚えたり

「おはよう」
まだ毛布にくるまって眠っているゴルテに小声で挨拶して部屋を出た。
食堂からは賑やかな声が聞こえてくる。
もう既にほとんどの子が起きているようだ。
いい匂いが漂う廊下を歩きながら今日の献立を予想する。
きのこと鶏肉の炒め物、コーンが入ったコンソメスープ、最後にリンゴパイといったところか。
朝日によって暖かく明るい廊下を歩きながら昨日のことを思い出していた。


「君には、負けたくなかったよ」
何度考えても思い当たる節がない。
なにをもって彼は俺に敵愾心を持っているのだろうか。
「そんな憎まれるような、覚えは、ないんだけど。腕に小さな穴を、開けられるくらい嫌われること、したっけ?」
「君は何もしていないよ。ただ、僕が一目惚れしてしまっただけさ。どうだい? 僕の気持ち、受け取ってもらえたかな?」
「フークは、そんな得体の知れないもの、受け取らない」
アニセラは俺を背中で守るように間に入った。
「得体が知れないだなんて失礼な」
大袈裟に首を振る彼はやはり道化くさい。
「……アニセラ、お疲れさま」
「フークこそ、頑張った」
「わたしも頑張ったよー!」
どんと肩に衝撃があったと思ったら、シータが俺とアニセラを両腕で抱き込んでいた。
き、きつい。
「シータも、お疲れさま」
そう顔を見て言うと嬉しそうにはにかんだ。
彼女もこんな顔をするのか。
「けっ。あそこに石がなかったら捕まえられてたのに」
毒づくツツラにシータが怒って、追いかけっこ第二ラウンドが開始された。
先程まであんなに汗をかき、顔が熱で赤かったのが嘘のように走り回っている。
「よく、体力が保つ」
口元を綻ばせて二人を見るアニセラは姉みたいだった。
「ツツラはシータに夢中で、僕に労いの言葉の一つもかけてくれないんだね」
皮肉を言う彼の目は少し、羨望と寂しさと何かが入り混じっていた。
そんな彼の頭に大きな掌が乗り、わしゃわしゃ髪を撫で上げた。
ナイケが見上げた先には先生が。
「していいのは挑発までだ。さっきのあれは良くなかったぞ。というわけで説教コース決定」
話す内容とは真逆の、呆れを含んだ、けれど優しい口調で告げた。
手を掴んで引っ張り上げて、ナイケのズボンに付いた砂を払う。
粗方キレイになってから俺たちを見て、
「うん、夕食まではまだまだ時間あるな。それまでには終わらせるから、これから暫く自由時間だって伝えといてくれ。あ、それと、エムシアに俺の部屋の前に昼食を置いてくれるよう頼んでもらえると助かる」
じゃ、よろしくな。
ナイケを引き摺り、去っていった。
恐怖。
何が恐ろしいって、先生の発言通り今は昼食前。
夕食なんて本当にまだまだ先だ。
これから先生の部屋で何を言われるのか。
思わず憐れんでしまった。

俺はその後、他の生徒にやけに手際よく腕の手当て手伝ってもらい、すぐ布団へもぐりこんだ。
今日は左腕を動かし辛いが、それ以外不調はない。
食堂に着くと、シータが手を振りながら俺を呼んだ。
「フーク、ここ! 一緒に座ろ!」
アニセラもポツリと呟く。
「わたしたちの隣。早く」

「今、いく」
うん、ここは居心地悪くない。
もう少し、留まってもいいだろう。
旅に出るのはまだ先のことになりそうだ。

〜*〜*〜*〜*〜
なんか最終回チックになりましたが、まだまだ続きますよ!
どうかこれからもお付き合いくださいませ。

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