時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

いつの間にかの降伏勧告。

 可成の戦は、酒から始まる。

「ぷは~。今日も良い酒だ。まさに私に戦をしろと言わんばかりの味だねぇ」

 そんなことを呟いてから、槍を地面に突き刺す。

「さてと、準備出来たかぁ? おまえら!」

 可成の言葉に、織田軍の兵士達は敵にバレないよう、最低限の声で返事をする。可成は頷き、河川に用意されていた小舟に乗り込む。
向こう岸にまで渡るのだが、バレてしまっては作戦がすべて失敗する為、一つ一つ慎重に行動しなければならなかった。

「……よし」

 可成の合図で、小舟はゆっくりと進み始める。木曽川の流れはさほど早くない為、ゆっくりと進む時間を稼ぐことが出来る。

「……頼んだぞ」

 成政は木曽川を渡り始めた可成隊に手を振ると、憂わし気な表情で言った。勿論、これと同時に毛利良勝率いる別動隊も北上して木曽川を渡ろうとしていた。

「さて、我々もいくか……遅れを取ってはいけないからな」

 そう言って良勝隊も木曽川を渡り始めた。

 すっかりと日が暮れ、辺りは真っ暗。バレない様に小舟には灯を積まず、最低限月明かりで前に進んでいく状況だった。もし何かあれば、引き返す余力があるのでさほど心配もいらない。可成も少しばかり余裕な気分で木曽川を渡っていた。海では無く、川であるため、波も無い。流れも遅い。困る事は何もなかった。

「さてと……あと少しで長島だな」

 ずっと座って槍を持っていた可成が立ち上がって向こう岸を見つめる。

「敵影無し、特に感じることも無し。もしかしたら、正解だったかもしれないな」

 そう言っても警戒し続けていたが、もろに口からその言葉が出た。
 そして小舟に揺られながら、可成隊は長島の岸に辿り着く。可成は急いで小舟から降りると、近くに敵影が居ないか確認しに行く。その間に、味方の兵士達は着々と長島へ辿り着いていた。

「……遠くに城、その周りには兵士……気付かれてるか? いや、違うか……戦闘に来る様子はない。となると、ただの見廻り……になるのか?」

 別に敵の僧兵が此方に向かってくる兆しも無い。バレてはいない様だ。このまま成政を此方に呼び寄せても問題は無い気がする。

「さて……どうするか」

 可成は草原に乗り上げて伏せていた。視力は良いので、遠くまで見渡せる。特に敵の動きで不審なところは無い。となれば、このまま自分の部隊を使ってしまえばなんとか攻め落とせるのではないか?と考えていた。

「やっぱり無理か……成政には来てもらうしか他にない」

 そう言って決断し、兵士を呼び寄せて成政に小舟で伝えてくるように指示する。一隻の小舟が再び木曽川を渡り始めた。

「……なに?」

 しかし、ずっと可成が見ていた長島城に不穏な動きがあった。それは、他の家の兵士が中に入って言った事である。あれは、斉藤家の旗でもなければ当の本願寺の物でもない。
何処かで見覚えのある。

龍胆紋りんどうもんか! となればあれは北畠!! おいおい、北畠が援軍に来てんのか!?」

 少し声を上げてしまったが、敵には聞こえていない。北畠家とは、伊勢国を領地とする公家の家である。現在の当主は鬼斬りの北畠具教きたばたけとものり。三章を読んでいる方なら分かるであろう、あの剣豪、塚原卜伝つかはらぼくでんの弟子の一人である。現在は北畠家の当主をしていた。そんな家の兵士が何故長島に居るのか、そこに可成は驚いていた。

「まぁ流石に本人は居ないと思うが……そっちを頼っているとはな。これは見事に的外れだ。と、いってもなんとかならない事ではねぇな。なんとかするしかない、そうだなんとかするしか!」

 森可成、少々男勝りな所もあるが、これでもれっきとした女子おなごである。とは言え、この男勝りなところが織田軍にとっても有利な所であり、実績でもあり……と素晴らしい事ではある。
 結局、このまま可成隊は成政たちの到着を待っていた。

「で、待っていたと」

「あぁ、だって進めないんだもん」

「確かに。でも北畠って事は……」

 とりあえず作戦を練る。良勝も此方に向かって来ているはずなので、あまり長く作戦会議をしている暇は無かった。

「どうするんだ一体……北畠が援軍に居るなんて気聞いてないぜ……」

 苦笑いしながら可成は言った。

「どうせなら焼いてしまうか……いや、城とは言え、あそこは仏教徒の場所。神聖な場所に火でも掛けてしまったら、末代まで呪われる……」

 青ざめた顔で成政は震えながら言う。

「いや、大将さんだったらやりかねないだろうな。あの人に神や仏やらの概念なんて存在しないだろうしな」

 その通りである。しかし、熱田神宮で戦勝祈願をしたことは事実ではある。

「……信長様を考えるのは止そう。今一番大事なのは、どう攻めるかだ。このまま降伏勧告を出してしまってもいいのではないか?」

 成政は考えるのを止めた、と言わんばかりに他の提案をしてくる。がしかし、可成は首を振って拒否した。

「それではだめだろう。最初に奇襲作戦をするといったんだから意味がないぜ? ……いや、このまま降伏勧告を出して何も考えずに一直線で攻めた方が最適か……?」

 しかし、成政の言葉に混沌としてしまった可成は、考えが揺らぐ。

「……あ、あの。すいません」

 すると、会議場に一人の兵士がやって来る。何があったのかと、成政は一言。

「じ、実は……長島側から文が届きまして」

 兵士の言葉に成政と可成は顔を見合わせて眉をひそめた。そして、お互いに頬を引っ張り合い、夢では無いと確認する。

「……バレてるのか?」

 成政は予め確認するように言った。

「……どうやらそのようでございます……」

「……これは成政の言ったように、正面突破で攻めるしかないな~」
 両腕を首の後ろに持っていくと、溜め息を吐いて可成が言った。

「まさか! 普通に攻めたらやられるだけだ。普通に攻めるなら、やっぱり燃やした方が良いだろう!」

「うぅ~ん、そうかぁ?」

 二人は話し合った。だが、決まらなかった。決まらなかったので、長島側から送られてきた文を見ていなかった。見ていなかったからずっと考えていた。どうしても、長い間、夜が明けるくらいにまで。

「長島側は以下の事を受け入れて下されば、降伏致しますわ。初めに、領地の安堵。そして願証寺の存続、そして私の立場を約束してもらう事です」

 結局、長島の戦いは無血開城で終わった。そう思った。しかし、終わらない。これは始まりなのだ。再び、この地で戦は起きる。また先の話であるが、起きるのだ。その時は良勝も、成政も……信長も。この光景を見届けることとなる。後の虐殺を。
 

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