時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

美濃攻め、始まるよ!

▼ 永禄四年(一五六一) 皐月 下旬の頃

 桶狭間の戦いにて、今川義元を討った織田家。
 危機的状況をなんとか打破し、現在勢いは上々と増していた。
 隣国の美濃国においては、斉藤義龍さいとうよしたつが母であり、当主であった斉藤道三さいとうどうさんを討ち取ったが、その場に駆け付けた信長一行と謎の少年、相良裕太さがらゆうたによって返り討ちにされ、義龍が討ち取られてしまった。
 それにより、義龍の妹である斉藤龍興さいとうたつおきが斉藤家の当主となり、姉を殺した織田に反抗の姿勢を取り続けている。
しかし、道三が一代で築き上げた斉藤家は道三が死んだことで徐々に衰え始めているのであった。

―狙うは天下よ。欲しいものがあれば力尽くで手に入れる。それが戦国のではないか。

 天下統一。約百年近く続く戦国の世の日ノ本を平定すること。決して手を伸ばせば届くような生温い道では無い。斬新な発想、勝ちを譲らぬ強い執念。
 確かに天下統一をすることは重要だ。だが、それ以上に重要な事がある。
 百姓、農民、民。これらの言葉は同じ意味に匹敵するが、民を敬う心が無ければ、いくら天下を統一したとはいえ、その体制は一代を持たず潰え、遂には再び戦乱の世を巻き起こす引き金となる。世の中には、そのような欲だけを求めて戦う者達だけではなく、義の為に戦う者、御家を守る為に戦う者、また自らの居場所を作らんが為に戦う者共も居る。

「信長様!遂に好機がやってまいりましたよ!!」

 藤吉郎が拳を振り上げて言った。
 そう、それが戦国の世。出会い、別れ。それは常に隣り合わせであり、越えなければいけない壁でもある。

「うむ、猿よ! 遂に美濃を取る時がやってきた!」

 信長が嬉しそうに微笑んで飛び跳ねた。

「私も槍を振って戦う……上総、飛び跳ねないで」

 犬千代が槍を右手に銅金の部分を握り締めたが、信長がやけにテンションが高いところに渋い顔をして注意した。
 何かを守る為に、必死に戦い、報われれば出世に繋がる。それもまた戦国の世。人によって生き方は様々。

「そうじゃ犬千代! 戦え! 命を懸けて」

 注意されたことが全く耳に入っていないのか、冷静さを取り戻さない信長。何時に無く生き生きしていた。

上総かずさ、私は上総を守るだけ。上総の取りたい天下を、私も望んでいる」

 上総と言うのは、信長の事である。織田上総介信長、その上総介の上総から来ている呼び方である。
 犬千代と言うのは、前田利家の事。幼名を犬千代なので、織田家では犬千代と呼ばれることが多い。その中でも、相良裕太は犬千代のことを利家と呼んでいる、数少ない人物である。

「も、勿論この猿めも信長様の天下を待ち遠しく思っております!!!」

 猿、後の豊臣秀吉。今はまだ小童の侍大将であり、名前も木下藤吉郎である。相良裕太とは同期で、共に大出世を目指す仲である。猿と言うのがあだ名であり、織田家家臣からはからかう呼び方で使われている。

「しかし、天下を取るとは言え、まだ信長様は一国のあるじでしかない。まずは他国へ侵略し、領土を手に入れる……信長様、落ち着きなさい」

 扇子を片手に仰いでいる長秀が、信長に冷静さを取り戻させようと試みた。そう言われた信長は我に返って赤面すると、自分の席に腰を掛けた。

「……ごほん。勘重郎、勝三郎、裕太。あやつらが同盟の談話を終わらせ帰参するまでには我々も美濃攻めの準備を終わらせ、攻め込んでいなければならぬ」

 慎重に考えている信長が最後に溜め息を吐いた。

「ならば、まずは墨俣築城をこなす。でしたな!」

 作戦内容を確認するように、勝家は言い返した。

「だにだに。とにかく、私達が活路を開くために出陣して墨俣を完璧に抑えるんだに。ふっふっふ……この長針に変えた種子島の威力を拝見させてやるに!!」

 と、自分の種子島を撫でて企みながら笑う一益。いつものように発言を裏返すと物騒過ぎる。

「築城作業はこの佐久間信盛にお任せください。必ずや墨俣に立派な城を」

 信盛は、ドンッと胸を拳で叩くと自信に満ち溢れた顔をした。
 この戦で墨俣に城を築くと言うのは、斉藤家に対して本気で攻めかかると言う意思表示。墨俣は、美濃国に位置する地域で、尾張から進軍する際に、最も最短距離で侵略することの出来る。そこから斉藤竜興さいとうたつおきの居城である稲葉山城の行動は筒抜けて見ることが出来る。
 美濃攻めの際には是非活用したい好都合の場所だった。しかし、東からは長良川が流れていて、西には斉藤家の城である大垣城が目を光らせて見張っていた。特に、大垣城の城主である稲葉良通いなばよしみちは斉藤家の有力な家臣であり、美濃三人衆と言われる重臣の中の筆頭。それに、美濃の兵は武術に優れており、戦国最弱の兵団言われる尾張兵の何倍もの強さを誇っていた。これについては、つい最近まで織田家も頭を悩ませてきたが、鉄砲が納品されたことにより、大量生産が実現。この戦で本格的に鉄砲が配備されることとなった。信長にとって、この戦は天下を取るための足掛かりとなる戦だった。その分、慎重に戦っていこうとしていた。

「うむ、城の築城は信盛に任せよう。ただし、わしらだけで攻めても、集中砲火を喰らうだけじゃ。……長秀、確か斉藤家は長島の仏教徒共と停戦をしていたな?」

 斉藤家の情勢を思い出した信長が、政略担当の長秀に確認を取る。

「えぇ、その通りよ。互いに利益を求める不合理な者達よね」

 扇子を打ち立てて、少し小馬鹿にするように長秀は一笑して言った。

「よしならば……可成、成政には長島方面より進軍して貰う。それと、鳴海の新助には松平を攻め立てようとする今川に睨みを効かせるよう、書状を」

 信長は淡々と長秀に指示する。
 長秀は頷くと、立ち上がって早速執筆に取り掛かろうと、一礼して大広間を後にした。

「道三は主家の土岐氏を追放してまで奪った豊地じゃ。それを竜興などの器量なき者がいつまでも治めていてはあまりに惜しすぎる。これより織田家は、犬山城を拠点して美濃を取る! みな、心してかかれ!!」

「っは!!」

 その場に居た家臣達が大声で返事をした。
 狙いは美濃! 美濃取り合戦! 遂に本気で信長の天下取りが始まる!!

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