時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~
“風林火山”の旗。
「…申し訳ないですが、私も戦支度をしなければいけません。これで失礼します」
次郎はそう言うと、刀を鞘にしまって立ち上がった。
「お、おう。 ごめんな、時間を取らせちまって……」
「いえいえ、気にしないで下さい。少しの間でしたが、お話しできて良かったです。それでは」
俺に手を振って彼女はその場を立ち去る。遂に周りに居る者も戦の支度を始めだし、実際のところ何もすることが決まっていない俺はただその場に立ち尽しているしかやることがなかった。
「さてと。 俺は誰の近くに居ればいいんだ」
今回の俺の第一目的は信勝と言う同盟の使者の御供として彼女を守る役目にあったが、今となってはそれは無効の状態。ましてや、信長にも何も言わずにこの戦に参戦しているとなれば、織田家としては長尾家までも敵をするような形となり、実際に言ってしまえば武田・織田連合軍vs長尾軍と言うことになるのだろう。帰った後、こっ酷く信長に絞られる気がすると気付いたのは今だったが、今更退き返すつもりも無い。と、ここで出てくるのが第二目的令。この戦を遠くから見物して戦略・戦術の勉強をすること。後々長尾家を敵にするのであれば、この時に長尾家の陣形や戦い方を覚え、実際に織田と相まみえる時に対策を練れるようにしたい。
ただ、一つ問題なのはこの川中島で見物しようとしても、何処も彼処も危ないと言うところ。大量に砦や山城が築城されているのであれば、無暗に変なところへは動き回れない。さて、どうしたものか・・・。
「…相良殿はおるか!」
すると、前方の方より誰かが俺を呼ぶ声がした。この声は……勘助か?
「此処にいるぞ!」
俺を呼んでいた勘助に返事をすると、彼女は急いで此処まで駆け付けてきた。焦っているのか、長い事探していたのか、彼女の額から汗が零れ落ちる。
「はぁ…はぁ…。御屋形様がお探しですぞ!急いで此方に!」
「あれ、でも晴信って戦支度で忙しいはずじゃないの?」
「どうやら時間を割いてくれているようですな。ただでさえ、時間がありませぬから、急いでくだされ」
そう言われ、風の様に流されて、俺はいつの間にか晴信の前へと連れて来られていた。急ぎと言っても、急ぎ過ぎだと思った。勘助の息が上がっているのも、それが原因なんじゃないだろうか。
晴信の下まで連れて来られたが、彼女は既に重曹の赤い甲冑を着ていた。
「さて、裕太殿。忙しい時に万事休すで申し訳ないね。裕太殿には馬の耳に念仏じゃないと思うから、一つこんな事を教えてやろうかと思ってね」
馬の耳に念仏?確か意味は―
そう「ためになる言葉や意見等を言っても全く聞く耳を持たないこと」と言う意味だった気がする。そうじゃないと思うから…ってことは、ちゃんと聞いてくれるからと言うことか?一体何の話だろう。
一応首を縦に振ってその話を聞く。
「さて、我が武田家は名門甲斐源氏。平安時代の末期から始まってる武家でね。あの源義光が始まりの宗家な訳さ」
「源って言えば…あの、源平合戦の源氏の事だよな?」
彼女は「その通り」と言って頷く。流石に源氏くらいは俺も知っている。壇ノ浦の戦いで平氏を滅ぼし、後に鎌倉幕府を開く源頼朝も源氏だ。平安時代から続く名門家は、室町幕府の武士であり、それぞれその国の守護だのを任されているらしい。
「長い歴史があるのは勿論、私たちの御先祖様は様々な旗を掲げて勇猛果敢に戦ってきたのさ。勿論、私もこの武田家の旗を一期一会、一生に一度私が出会ってこれだと思った志と言える旗を挙げている訳さ」
一期一会、一生に一度の出会いの事を言う。晴信はこれだと思う自分一生の志を一度で会って決めたのだろうか。しかし、志を持ち続けることは容易ではない。長続きしない俺にとっては。
「さて、そこでさね。私が掲げる旗ってのはどういう文字だと思うかな?」
と、言うことはさっきから後ろに掲げられている旗のことを言っているのだろう。多分、それしかあり得ない。彼女が掲げている旗と言うのは…。
「風林火山か」
「風林火山?」
あれ?風林火山じゃないの?ずっと風林火山だと思ってたんだけど……いや、間違いなはずはない。だって、武田信玄は風林火山の志の下で戦いの心構えを…って、現代ではそう言われていたのに!
「故其疾如風、其徐如林、侵掠如火、不動如山、難知如陰、動如雷霆。孫子の兵法さ。裕太殿、どうやら後ろの旗を見たようだけど・・・あれは勝手に勘助が縮めただけの語なのさ。意味だけど、故其疾如風は其の疾きこと風の如く、其徐如林は其の徐かなること林の如く、侵掠如火は侵掠すること火の如く、不動如山は動かざること山の如く、難知如陰は知りがたきこと陰(の如く、動如雷霆は動くこと雷霆の如し。かの中国の策士、孫武の残した「孫子」と言う兵法さね」
と、言うことは・・・。実は風林火山と言うのは俗称であり、武田信玄自身がそれを本当に活用していたという事実は何処にもない。実際に、我々が読み取りやすく、もっと短くされたものであり、信玄自身が「風林火山」の四字熟語を使っていたとはされていない。しかも、実際には「風林火山」だけではなく、その後ろに「風林火山陰雷」と知りがたきこと陰の如く、動くこと雷霆の如し。が加わる。
まず、孫武と言うのはかの有名な中国の武将であり、数多くの兵法を残した。「戦わずして、勝つ」なんて言葉を残したのも、「孫子」の作者の孫武である。
※またこの作品では勘助が「風林火山」と言う文字を作ったことになっていますが、史実では勘助ではありません。
「そうなのか…初耳だな、勉強になったよ!」
と、俺はそう言って晴信にお礼を言った。彼女の言った通り、馬の耳に念仏にならないとてもいい話だった。
「そうかいそうかい。何事も百聞は一見に如かずさ。実際にこの旗の下で最強の武田軍団の戦う姿を、私の本陣で見るかい?」
「え、ちょっと待ってくれ。それはもしかして……晴信の本陣で戦を見物して良いって事か?」
「勿論そういうことさ。流石に無理とは言えないだろう?」
勿論、無理とは言える立場でもないし、無理なんて言っても何処か行くことなんて決めていなかった。この際、武田の本陣で戦を学ぶなんて事もありなんじゃないだろうか。絶好のチャンスなのかもしれない。よし、そうと決まれば…。
「分かった。晴信の本陣に置いてくれ。面倒はなるべく掛けないようにするから」
こうして、俺は晴信の陣に置いて貰えることとなった。いざ川中島へ!武田と長尾の戦いっぷりがどうなるのか、本当に楽しみだ!
「さて、そうと決まれば…‥。勘助。正信と信房を呼べ。別動隊一万二千で急ぎ妻女山を叩けと伝えろ。私も直ちに本体八千を率いて八幡原に陣取りを行う。疾きこと風の如く、出陣するぞ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
こうして、武田が海津城を出てそれぞれ戦場に向かう事となる。勿論、この先の運命は知ったことではないが、遂に戦が始まろうとしていた。
次郎はそう言うと、刀を鞘にしまって立ち上がった。
「お、おう。 ごめんな、時間を取らせちまって……」
「いえいえ、気にしないで下さい。少しの間でしたが、お話しできて良かったです。それでは」
俺に手を振って彼女はその場を立ち去る。遂に周りに居る者も戦の支度を始めだし、実際のところ何もすることが決まっていない俺はただその場に立ち尽しているしかやることがなかった。
「さてと。 俺は誰の近くに居ればいいんだ」
今回の俺の第一目的は信勝と言う同盟の使者の御供として彼女を守る役目にあったが、今となってはそれは無効の状態。ましてや、信長にも何も言わずにこの戦に参戦しているとなれば、織田家としては長尾家までも敵をするような形となり、実際に言ってしまえば武田・織田連合軍vs長尾軍と言うことになるのだろう。帰った後、こっ酷く信長に絞られる気がすると気付いたのは今だったが、今更退き返すつもりも無い。と、ここで出てくるのが第二目的令。この戦を遠くから見物して戦略・戦術の勉強をすること。後々長尾家を敵にするのであれば、この時に長尾家の陣形や戦い方を覚え、実際に織田と相まみえる時に対策を練れるようにしたい。
ただ、一つ問題なのはこの川中島で見物しようとしても、何処も彼処も危ないと言うところ。大量に砦や山城が築城されているのであれば、無暗に変なところへは動き回れない。さて、どうしたものか・・・。
「…相良殿はおるか!」
すると、前方の方より誰かが俺を呼ぶ声がした。この声は……勘助か?
「此処にいるぞ!」
俺を呼んでいた勘助に返事をすると、彼女は急いで此処まで駆け付けてきた。焦っているのか、長い事探していたのか、彼女の額から汗が零れ落ちる。
「はぁ…はぁ…。御屋形様がお探しですぞ!急いで此方に!」
「あれ、でも晴信って戦支度で忙しいはずじゃないの?」
「どうやら時間を割いてくれているようですな。ただでさえ、時間がありませぬから、急いでくだされ」
そう言われ、風の様に流されて、俺はいつの間にか晴信の前へと連れて来られていた。急ぎと言っても、急ぎ過ぎだと思った。勘助の息が上がっているのも、それが原因なんじゃないだろうか。
晴信の下まで連れて来られたが、彼女は既に重曹の赤い甲冑を着ていた。
「さて、裕太殿。忙しい時に万事休すで申し訳ないね。裕太殿には馬の耳に念仏じゃないと思うから、一つこんな事を教えてやろうかと思ってね」
馬の耳に念仏?確か意味は―
そう「ためになる言葉や意見等を言っても全く聞く耳を持たないこと」と言う意味だった気がする。そうじゃないと思うから…ってことは、ちゃんと聞いてくれるからと言うことか?一体何の話だろう。
一応首を縦に振ってその話を聞く。
「さて、我が武田家は名門甲斐源氏。平安時代の末期から始まってる武家でね。あの源義光が始まりの宗家な訳さ」
「源って言えば…あの、源平合戦の源氏の事だよな?」
彼女は「その通り」と言って頷く。流石に源氏くらいは俺も知っている。壇ノ浦の戦いで平氏を滅ぼし、後に鎌倉幕府を開く源頼朝も源氏だ。平安時代から続く名門家は、室町幕府の武士であり、それぞれその国の守護だのを任されているらしい。
「長い歴史があるのは勿論、私たちの御先祖様は様々な旗を掲げて勇猛果敢に戦ってきたのさ。勿論、私もこの武田家の旗を一期一会、一生に一度私が出会ってこれだと思った志と言える旗を挙げている訳さ」
一期一会、一生に一度の出会いの事を言う。晴信はこれだと思う自分一生の志を一度で会って決めたのだろうか。しかし、志を持ち続けることは容易ではない。長続きしない俺にとっては。
「さて、そこでさね。私が掲げる旗ってのはどういう文字だと思うかな?」
と、言うことはさっきから後ろに掲げられている旗のことを言っているのだろう。多分、それしかあり得ない。彼女が掲げている旗と言うのは…。
「風林火山か」
「風林火山?」
あれ?風林火山じゃないの?ずっと風林火山だと思ってたんだけど……いや、間違いなはずはない。だって、武田信玄は風林火山の志の下で戦いの心構えを…って、現代ではそう言われていたのに!
「故其疾如風、其徐如林、侵掠如火、不動如山、難知如陰、動如雷霆。孫子の兵法さ。裕太殿、どうやら後ろの旗を見たようだけど・・・あれは勝手に勘助が縮めただけの語なのさ。意味だけど、故其疾如風は其の疾きこと風の如く、其徐如林は其の徐かなること林の如く、侵掠如火は侵掠すること火の如く、不動如山は動かざること山の如く、難知如陰は知りがたきこと陰(の如く、動如雷霆は動くこと雷霆の如し。かの中国の策士、孫武の残した「孫子」と言う兵法さね」
と、言うことは・・・。実は風林火山と言うのは俗称であり、武田信玄自身がそれを本当に活用していたという事実は何処にもない。実際に、我々が読み取りやすく、もっと短くされたものであり、信玄自身が「風林火山」の四字熟語を使っていたとはされていない。しかも、実際には「風林火山」だけではなく、その後ろに「風林火山陰雷」と知りがたきこと陰の如く、動くこと雷霆の如し。が加わる。
まず、孫武と言うのはかの有名な中国の武将であり、数多くの兵法を残した。「戦わずして、勝つ」なんて言葉を残したのも、「孫子」の作者の孫武である。
※またこの作品では勘助が「風林火山」と言う文字を作ったことになっていますが、史実では勘助ではありません。
「そうなのか…初耳だな、勉強になったよ!」
と、俺はそう言って晴信にお礼を言った。彼女の言った通り、馬の耳に念仏にならないとてもいい話だった。
「そうかいそうかい。何事も百聞は一見に如かずさ。実際にこの旗の下で最強の武田軍団の戦う姿を、私の本陣で見るかい?」
「え、ちょっと待ってくれ。それはもしかして……晴信の本陣で戦を見物して良いって事か?」
「勿論そういうことさ。流石に無理とは言えないだろう?」
勿論、無理とは言える立場でもないし、無理なんて言っても何処か行くことなんて決めていなかった。この際、武田の本陣で戦を学ぶなんて事もありなんじゃないだろうか。絶好のチャンスなのかもしれない。よし、そうと決まれば…。
「分かった。晴信の本陣に置いてくれ。面倒はなるべく掛けないようにするから」
こうして、俺は晴信の陣に置いて貰えることとなった。いざ川中島へ!武田と長尾の戦いっぷりがどうなるのか、本当に楽しみだ!
「さて、そうと決まれば…‥。勘助。正信と信房を呼べ。別動隊一万二千で急ぎ妻女山を叩けと伝えろ。私も直ちに本体八千を率いて八幡原に陣取りを行う。疾きこと風の如く、出陣するぞ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
こうして、武田が海津城を出てそれぞれ戦場に向かう事となる。勿論、この先の運命は知ったことではないが、遂に戦が始まろうとしていた。
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