時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

武田家への勧誘。

―越後国、春日山。
此処に城を構えるは、毘沙門天の化身を自称し越後を統一させ、天下を狙おうとしている(飽くまで予定)長尾景虎。遂に武田と国境を接した時、晴信と景虎は相まみえるのはいつかいつか、と予想されていたようだが、遂にその時が訪れた。

「がーっはっはっは。流石は景虎。タイミングが悪い時に来やがりますな!」

「さて、遂に来たか。昌景、昌豊。出陣の支度をせよと、城下中に伝えて。高遠は勿論、信濃全ての城へ伝えなよ!信房、裕太殿を尾張に・・・」

「お待ちくだされ」

勘助が再び、晴信の話を途中で止める。

「相良殿を残すが為の策です。この方も軍師。しかも織田家のです。織田と武田が同盟したと言うのはまだ景虎は知らないでしょう。だからこそ、織田家の旗も共に掲げ、景虎を怯えさせてやれば宜しいのです!」

「おいおい、ちょっと待ってくれ。戦支度なんて元々してないし、しかも信長に戦っていいなんて許可も貰ってない。勝手に戦う訳にはいかないだろ。例え、一時的に武田の配下に付くなんて言っても・・・」

「おぉ、それがいいね」

話を最後まで聞いていた晴信が、一つ閃いたようだ。

「裕太殿、うちの家臣になりなよ」

それは、突然すぎた事であり、ずーっと頷いていた昌景が驚く程のものであった。
勿論、その言葉に俺も驚きを隠せなかった。

「っと待ってください!流石に男を入れるなんて!」

昌景が立ち上がって、晴信の助言に反論を入れる。

「いいじゃないか昌景。勝負は時の運。裕太殿を家臣に入れるのも、また千載一遇のチャンスなんだから」

いや、昌景が言いたいことはそう言うことじゃないと思うよ、うん。
何処の家でもそうだけど、どうやら男は歓迎されない世界なんだ、と。
それは何故だか知らない。一代前までは平然と男が当主をやっていた所ばかりであったのだから。

「いや、家臣に入れるも何も、俺は織田家家臣だ。信長に天下を取らせる、俺はこの道一つでやっていくつもりだ。だから、折角の誘いかもしれないけど、武田家には入れない」

信長に誓った事、自分の思い、そして今の考えを全て包めて俺は言い放った。
辺りは騒然としていたが、勘助だけは笑って此方を見つめている。

「・・・それじゃ仕方がない、か。まぁいいさね。大事なのは、自分がどうあるか!そしてどう生きるか!それを大事にする者はいつか必ず大きくなれる」

俺は深く頷いた。その通りだから。





「とにかく、すまないけど先に戻っていてくれるか?」

「え~」

信勝は、勝三郎と昌信と共に葡萄を狩りに行っていて、長いこと帰って来なかった。いつの間にか夕方になっていて、辺りは少しずつ暗く、家中では夜のムードへと少しずつ気分が成っていた。

「えっと、起請文については頂けたと言うことですか」

勝三郎は、両社が同盟を成立させるにあたって重要な起請文について、不安そうに問いてくる。

「それに関しては万事完了だぜ。これが武田の起請文。俺は後から必ず追うから、急いで信長に届けてやってくれ」

そう言って、勝三郎に起請文を差し出す。
彼女は慎重に受け取ると、懐の中にしまった。

「分かりました」

彼女はそう言って後ろへ振り返り、夕日を見つめている。
信勝は、それを不思議そうに見つめていた。

「一体どうしたの~?さーちゃん?」

「・・・いえ」

袖を顔に当てて、涙を拭ったように見えた。そのまま此方へ振り向くと涙では無く、彼女は笑顔で笑って此方を見つめていた。

「死んだら、許しませんからね」

そう俺に言った。
きっと彼女は俺が武田の戦に出ることを分かっていたのだろう。それを察していたのだろう。

―死ぬな

と保険を掛けられたのだと。
そう思った途端に不思議と勝三郎が美しく輝いて見えた。

「も~。意味わかんないよ~」

信勝が嘆く。

「・・・ま、そう言うことよ」

「そう言うことですよ」

俺と勝三郎は、揃って笑った。信勝は意味が分からず、頬を膨らませて此方を見つめていた。
こうして、信勝は意味の分からないまま尾張へ急いで帰郷し勝三郎も同じく帰郷した。恐らく、尾張に着くまで、ここに来るまでを加算すると2日は掛かる。例え休憩しなくても。武田の兵は騎馬を束ねて3日で北信濃の海津へ向かうこととなっている。俺もこの戦を急いで終わらせて、早く尾張に戻らなければ。でなければ、『美濃攻め』に間に合わない。きっと苦戦する。
例え信長の作戦が上手く嵌ろうとも、それは飽くまでも向こうの罠となる。美濃には一人、この世を揺るがす策を次々と兼ね備えている軍師が居るのだから。
胸に手を当ててもう一度思い浮かべた。

―早く尾張に戻らなければ。

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