時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

織田家の明日は···!


「久方ぶりにお会いする。朝比奈泰能、相良殿の配下として配属させて頂き仕った。」

彼女は目の前にまで到達すると、左手を前に広げ、左足を前に出すという格好でそう言った。
流石に俺も数秒間、唖然として彼女を見上げる事しか出来なかった。

「泰能・・・って、まさか・・。」

朝比奈泰能。思い出したぞ!確か、元鳴海城城主で今川方の重臣だった武将だったはず!幾時か俺達と行動していた時もあった。確か、俺が背中でおぶって運んでいってたっけ。しかし、そんな彼女は今なぜ此処に居るのだろうか・・・。

「むむ?配下ってどういうことだ?」

目の前に立つ泰能を避ける様に体を横にして信長に問いかける。彼女は確かに今俺の配下がどうのこうのって言っていた。一体どういうことだ?
扇子を仰いでいた信長は、空気を変えるかの如く勢い良く扇子を閉じると詳細を話し始める。

「彼女は今川の徒。お主は今川の主の首を討った。その恩賞と思う事もお主には出来るのではないか?私はそのつもりで、朝比奈をお主の配下に加えることを許すと言っているのじゃ。」

え・・・。それってあんまりにも理不尽過ぎないか!?俺が義元の首を取ったから、その恩賞で今川の武将を俺に預けるって事だろ・・・?
確かに恩賞として武将を与えるというのは分かるけど...。
ひとまずそれについては了解しようと思う。折角の機会だし、人材が足りていないのは確かだ。

「分かった。承知しよう。」

なんとも単純な言葉数だが、俺はそういって頭を下げた。

「ふむ。それともう一つ。」

信長は頷くと、新しい話を切り出した。

「流石に軍師として、恩賞与えるとしては流石にわしも多いとは思う。しかし、軍師をなのるのであれば、それだけの位に就かねばなるまい。ということでじゃが、形だけ「足軽大将」として名乗って貰えると助かる。しかし、もう一度わしが目の引くような行動を起こさねばいつまでも奉禄は変えぬ。増えねば配下の者も困るであろう?」

究極過ぎるよね。要するに、織田は成績しかみないよ。金が欲しいなら成績上げな。と、ストレート過ぎるであろうやり方を取っていた。これじゃあ皆やる気でちゃうよね。

「おぉ、足軽大将はいいやんね。」

「流石、信長様です。」

一益と勝家が声を出してそう言った。こうやって皆の前で言われるのも恥ずかしいですね。
そんなことを思いつつ、俺は信長に頭を下げて立ち上がり、一番端の空いている座布団へ向かった。
泰能はそのまま信長に下がらされた。

「さて、本題じゃ。」

そう言いながら扇子を弄る信長でありました。
真ん中の列が空いている状態だったので、全員が信長に背を向けない並び方で詰めて座る。

「一月経ち、夏を迎える。鳴海城は未だに城代すらおらず、周りには敵ばかり。今回の打開策、何か導き出せる事は無いか、という事。そして、お主等の身分の引き上げの件じゃ。」

周りが「おぉ!」と言う声を上げる。身分を引き上げると言うのは、昇格するという事になるのだろう。
勿論、俺に関しては先程の侍大将と言うのが出世話。多分、今回のは関係ないと思う。それに、名前だけで俸禄は引き上げられない。

「さて、早速じゃが鳴海城の城主を任ずる。ー 毛利新助」

え?と言う声を上げたのが、毛利新助自身。周りも騒めき始める。
それを伏せ返すかのように、信長は扇子で新助を差して理由を話し始めた。

「文句は無かろう。落城後、長い間鳴海を抑えめていたのだ。兵士達の士気も上がった。お主以外にそこを任せることは出来ないからな、励め。」

新助は頭を深く下げると、涙を流しながら「全身全霊をもって励みます!」と痛感しながら話していた。
痛感っていっても、此方から見てそう感じたからです。
信長は高笑いして、頷いた。

「そして猿。お前も足軽から足軽大将へと身分を引き上げる。弁えよ。」

「え!?あ、はい!名に恥じぬよう努力致します!」

藤吉郎も同じく足軽大将へと昇格。大出世である。
勿論、侍大将から上に進むことが高い壁の難関となっているのだが。

「一益もよう戦った。お主には騎馬鉄砲を50丁与える。兵を鍛練させよ。」

「えぇ、勿論ですに。世界一の騎馬鉄砲軍団に育て上げますで!」

一益も、嬉しそうな顔で信長からの頬びを受け入れた。
後に一益の屋敷の玄関に大量に詰め込まれていたと言う噂を耳にします。

「佐久間、丹羽、勝家。お主らの棒禄も引き上げる。浅野もじゃ。勘重郎、お主は末森を与える。領地の統括、任せたぞ。」

佐久間、丹羽、勝家、浅野、勘重郎が全員一斉に頭を下げて「ははぁ!」と言って顔を上げる。
信長も上機嫌。かくして出世話の件は終わったと思われる。
そして、次は軍義に移ることとなるのだが、またしても席移動が起こった。さっきと同じように席を戻して中心を開ける。
回りに居た小姓が、地図を持ち出して真ん中に広げた。
そこには、近畿、中部地方が写し出されている地図であった。勿論、その領地ごとに大名家の名前が書かれている。

「さて、軍評に移るぞ。」

そう言うと信長は立ち上がり、地図の目の前まで来るとその場に胡座で座り込んだ。

「この地図を見て思うことはあるか、一益。」

信長は扇子で一益を差すと質問をし始める。

「殺りがいのある獲物が沢山いるに!」

「いやどう考えてもそうとは読み取れないんだけど!?」

一益のボケが異様なほどキャラに当てはまっていて吹きそうです。
てか獲物って表現は止めないと駄目だろ!NGワードだよ!?大名家だよ!?怒られるじゃ済まないよ!?

「何を言うか裕太。一益の言葉に偽りは何一つ無いはずじゃ。」

当主が発言認めちゃったよこれ!?駄目でしょ!?絶対怒られるじゃ済まないって!!どうするんだよこの軍評を敵大名の忍が聞いてたら!?怒られるって!!
そう思いつつも、口に出さない俺も同伴であるのは確実だ。

「南には独立した松平、北は斎藤、東に武田、西に浅井、浅倉、六角、足利、三好と....。何ともまぁ大大名ばかり。これじゃあ難しいわね...。」

難しいもなにも、今の状態じゃ絶対に無理なんですけどね。やはり、同盟をして固めるか、動けるときまで我慢するか...。むぅ。
長秀は腕を組みながら言った。こうみると、大名家は沢山あって凄いものである。歴史じゃ信長が偉大だったという勉強が殆どなので、こうも感じるのは新鮮な物であった。

「斎藤は完璧に断絶しているものと思われる。毎日厳重に尾張と美濃の国境付近を兵士達が見張りをしているからな。となれば、北に攻めると言うのは確実した方が良いのではないか。」

勝家が徹底的に地図を眺めながら決断した結論なのだろう。実際に俺もそう考えていた。

「松平は信長と仲が良かったんだろ?なら松平と同盟するって言うのは向こうも承認してくれる物だと俺は思うけどな。しかし困ったなぁ...。美濃攻めの途中で長島の僧兵が一揆したり、武田が攻めこんで来たりしたら...。」

「そうだな...。確かに、美濃攻めの途中でその様なことが起きてしまえば対処する事が出来ぬ...。」

佐久間が俺の意見に対して賛同すると、首を傾げて顎を左手で抑えた。
周りからも、家臣達の唸り声が聞こえる。さて、どうするべきか。

「武田と同盟...。」

え?と、俺は声のした方向を向く。

「武田と同盟を結べばいい。そうすれば向こうも攻めて来ない。」

棒読みに近い話し方で利家が言った。
いつ聞いても方言に近い利家の言葉は何が言いたいか簡潔に文章化されているので分かりやすいと思ってしまう。

「武田と結ぶ...か。さて、向こうが此方を対等に受け入れてくれるかじゃな...。」

信長は下向きに話すと、考えるタイムに突入した。
しかしそこで沈黙を破るのが俺である。

「じゃあ一先ず目標を決めようぜ。目指す場所は一体何処なんだ?」

「何を言うか、京に決まっておろう?」

「なら簡単じゃねーか。西は無視して東に進む。東に進む為には東の同盟国が欲しいところだ。近江の浅井なんかと手を結んで京まで一直線すれば良いだけだ。」

淡々と話したが、誰もが思う。出来る筈がないと。しかし、実際に俺の知ってる織田信長はそれを成し得て京にまで進んでいる。同じ信長が出来ない、とは俺には思えない。これまでの道のりがそれを物語っているからだ。

「しかし、そこまで進む兵糧、武器、馬、どうやって用意すると言うのだ?」

「楽しそうだけど、今の現状じゃ無理よね...。」

「流石に難しいものだと考える。例えそれが成功したとして、どれだけの痛手を被るか...。」

「兄さんの考え、よーく分かるで。でも、流石にそこは慎重にいくべきじゃないに?」

勝家、長秀、佐久間、一益の順で俺の意見がノックバックヒットにされて飛んでいく。
それに順次周りも同じように言い始めた。
はい、どうせ俺の意見なんて飛んでいくだけの飛翔物ですよー。

「ー面白い。」

面白い?何処が面白いんだよ、どう考えても冷やかしだろ。止めてくれよ死にそうだよ。

「面白いではないか。その話、乗った!」

え?
····ええええええ!?なにいってるんですか信長さん!?···いや待て。京にまで上ったって言ったの誰だっけ?俺だよな...ええええええ!?じゃなくて、信長は出来るんだ。だから面白いと言った。そうだろ。これでいいんだ、この通りなんだよ。

「···あぁ、やってくれるか?信長。」

さっきまで俺の意見反対してた癖に他の家臣達は静まり返ってじっと聞いている。

「しかし、流石に無理の可能性も十分あるです。となれば、この考えを前提に進んでいくとして、これほどまでか!?と言われるくらいにまで戦の準備をしてから攻めると言うのはどうですしょう?」

藤吉郎が上手いこといって収めようとする。ありがとう藤吉郎さん、ありがとう女の子、ありがとうおサルさん...。

「うむ。そう言うことでわしは文句はない。それを前提に決めていけば良いではないか。のう?」

信長がそのように訂正して話すと、家臣達は顔を見合わすも、頷いて承認した。
これにて、織田の進むべき道はほぼ決まった形になる。
俺は小さく深呼吸して、気持ちを整えて信長の話の続きを聞く。

「うむ。それでは軍評は終了じゃ。皆も疲れたであろう。これで解散とする。そのうち桶狭間の戦勝の宴をする。一層励むようにな!」

「はっ!」

その場にいた全員が大声で言った。かくして、桶狭間終了後初めての軍評は終わりを告げる。
信長は立ち上がると、その場から離れて世話役が戸を開けると部屋を後にした。
その後、家臣達も部屋を後にしていく。

「はぁ...。足軽大将ねぇ。」

俺が頭を片手で押さえながら話していると、藤吉郎が此方に向かってくる。
彼女も上機嫌の様ですね。

「ささ、帰りますか?」

「あ、うん。いや、先に帰っていてくれ。用事があるんだ。」

俺はそう言うと立ち上がって刀を腰に掛けた。
藤吉郎に別れの挨拶をすると、その場から立ち去る。

「そうですか、相良殿。」

ー 清洲城の待合

「相良殿。あの時は世話になり申した。」

朝比奈泰能は深く頭を下げると共に、感謝の意を評して話す。

「気にすんなよ。状況が状況だった訳だし。感謝されるような事はしてないよ。」

「そんなことはない。そ、その...おおおおおぶってくれたりとかして、大変ながらも背負いながら移動をしてくれていたではないか。」

顔を赤くしながら話す泰能。確かにそんなこともあったっちゃあったな。

「そんなこともあったな。でも、重くなかったし、大変だったけど泰能だって逃げ出せたから...。って、そう言えばどうして帰ってきたんだ?」

そんなこともあったと思い出すと共に、彼女がその場から一益に逃がして貰ったときの状況を思い出す。
疑問に思う所だ。泰能が態々今川じゃなくて織田につくなんて...。あれ、でも今川って滅亡したんだよな。じゃあ仕方がないか...?

「実はその話もここに来た一つの理由なのだ。聞いてはくれまいか?」

突然シリアスな話に戻るのも慣れた。俺は首を小さく振って頷く。

「実のところ、今川家は滅んでいない。」

「はぁ!?」

まさか...あの恩知らず...!?助けて貰ったと見せ掛けて、本国に逃げたってのかよ!?くっそぉ...余計なことした...。

「一ヶ月前、雨の中逃がして貰った時、私は岡崎へ逃げ込んだ。命からがらだった。少しすると松平が独立したと聞いては驚いた。岡崎からも逃げ出し熱田へ...そして清洲に...という経路だ。実はここに来る途中、義元様にお会いしてな。義元様は、相良殿に命を救われたと言っておった。私が助かるのもその相良殿に頼るしかないと思い、清洲に来た...。」

義元様にお会いした...?ってことは、義元が生きてるってことは知ってるってことか...。

「一つ約束してくれ。」

俺がそう言うと、彼女はじっと此方を見つめる。

「義元の事は俺とお前の秘密だ。誰にも言うな。言わないと同時に、俺はお前を守る。その為に配下にする。」

「は、はぁ...。分かり申した。」

一旦戸惑う泰能だが、頷いて承知した。
夏の暑い日差しが差し込む中、話は続いていく。

「しかし、今川家が滅んでいないってどゆこと?」

疑問視した点を思いっきり突っ込んでいく所も可笑しいように見えますが本気です。
泰能に今川の現在を聞いてみる。

「義元様の今川家ではない。『関口広重』という、今川家の一門衆の一人が事実上とは言え勝手だが、義元様の養子となり、『今川氏真』と名乗って後を継いだようだ。あの方も義元様には届かぬが、あの家を纏めあげるには出来たお方だ。きっとすぐに今川家を吹き返す、と思った矢先に松平の独立。雪斎様も意欲を無くし僧へと戻ったと聞く。今の今川家で活躍する将と言っても...井伊殿と...井伊殿くらいだろうな。」

と、現在の状況について詳しく説明してくれた。義元じゃないことは分かったが、今川家が再興したということは、したということは、織田にとっても脅威である事は確か。となれば、やっぱり松平と結ぶのは早い方が良いな。そう考える俺だった。

「しかし、井伊殿って誰だ?」

と、泰能が言った井伊殿についての話題も聞いてみることにする。

「井伊殿、確か井伊次郎直虎と言ったか。今川家の中でも戦上手でもあり、政治も出来る。井伊は元々男が家を継ぐのが常識だった勿論うちも同じだったがうちは二代前より長い間女が当主。井伊が今川では最長じゃな。そんな井伊家の一人娘が井伊直虎。桶狭間前より駿府館を出入りしていたが父は桶狭間で死、後を継いで今川家の重臣になったとか。独立して今川を喰うと思ったが、まさか今川の座で留まるとは...」

「え、そんなに強いの?」

「漁陣の扱い方に長けておりながらも、弓、鉄砲を得意とする。余り言いたくはないが、義元様と同じくらい美人だ.....」

な、何を言うか!美人じゃ俺はつ、れないぜ!?つ...つぅ。
一旦落ち着かせるため目をぶって話を止める。心が落ち着くまで、少し時間が掛かった。

「はぁ....分かった。ありがとうな泰能。そしてこれから宜しく。」

俺はそう言うと、ニコッと笑って泰能を見つめた。

「うむ。此方こそ相良殿を支えられるよう、誠心誠意で努力致す。因みに得意な事は家政、内政だ。戦は苦手だ。」

「あ、そ、そう?」

突然の職務説明だったので一瞬言葉が詰まったが、頷く。
俺達は清洲城を後にした。
···これからの、この先の長い戦いを俺は全く予測していなかった。









ー 戦国時代、それは下剋上で成り上がり、戦国大名として天下を統一を目指した者達の時代。
大名達はそれぞれ、志を持ち天下を目指す。天下統一の先に待つものは善か悪か······。
少なくともまだ尾張の大名『織田信長』の道は決まったばかり。
天下······この先の運命、開くのは時か人か、軍師か。

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