時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~
それは東海一の美女、今川義元。
「義元、俺は少し先の未来を見ることが出来るんだ。」
雨の降り続く中、対等に立っている2人の境には小さな小川が出来ていた。
小さな川中島の戦いの様にも感じた。
「少し先の・・・未来ですか?」
義元は首を傾げ、興味を示す様な話し方をする。
「あぁ。義元、今のお前だと此処で俺を振り切り、信長と相まみえる事になる。」
真面目な顔をして真剣に話を始めた。ちゃんと大切なところは重要そうな話し方をしますよ、俺も。
「しかし、周りは敵に囲まれた状態。義元は何人も何人も斬っていくうちに疲れ果てて、信長とまみえる事には、力尽きてしまう。」
「しかし、今此方に今川の援軍が向かっております。次期に到着するでしょう。信長など一握りで潰せることが出来ますが?」
彼女は物騒な事を淡々と語ると、俺に質問を投げ返した。言葉のキャッチボール・・・怖いです。あ、言葉のキャッチボールじゃなくて刀のキャッチソードですね。はい。
「よく考えろ。織田の兵がそれだけな訳が無いだろう?実際に、別動隊の動きも分かっていると思うが・・・。元々相手にしようとしていたのは鳴海城の4000の兵のはずだ。違うか?」
俺がそう質問し返すと、彼女は口ずさんで質問を仕返して来ない。こりゃ、図星だな。
少し沈黙の時間が訪れると、突然義元は驚いた様に声を上げる。
「な、鳴海城が落とされたのですか・・・!?」
そこかよ。やっぱり分かっていなかったのだな。鳴海城は一益一行と共に落城させている。城は既に織田の手中にあった。
「あぁ。それが本体と思っている時点でアウト。お前の待っている援軍は今頃その別動隊と戦っているところだろう。と、なれば此方に来ることは無い。今、この陣は蛻の空って事だよ。分かったか?俺の言っていること。」
彼女は溜め息をつくと、大きく頷く。流石今川様、分かっていらっしゃる。
「私の負けです・・・。貴方を信じましょう・・・。」
彼女はニコッと笑ったが、悲しそうな声でそう話す。
さっきの声とはまた違った音調だった。
「本当に、織田家の皆さんは凄い方ばかりなのですね・・・。今川家とはまた違った方々・・・。」
「信じてくれるならありがたいな。と、言う事は停戦してくれるって事かな?」
俺もニコッと笑い、決まりジョークで一つ言ってみる。
しかし、義元が放った言葉は全く予測していなかった言葉だった。
「このまま、今川家を滅亡させましょう・・・。」
一瞬、筋が凍った。義元が今川家を潰すと言ったのだ。
どういうことか意味が分からない。そのまま義元に声を掛けられずにいた。
「このまま私はやられるとなれば・・・。切腹は致し方ありません。私も一人の将です。いつでも死に場所は設けているつもりですから・・。最後に、天下を取ってやりたかった・・・。」
彼女は泣いていた。瞳から涙が零れる。
え、そんなに悪い事言っちゃったの俺?え、泣かせちゃったの??
俺は俺でパニック状態になっていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!何を言ってるんだよ!切腹ってどういう・・・。」
俺は焦ってそう言い返すが、義元はただ一点を見つめるだけで何も話さない。
「俺は、義元に生きて貰いたいんだ!例え今川家が滅亡しようとも、義元には生きて貰いたい!救いたい!」
俺は大声でそう言った。勿論、本音である。当初の目的は、彼女を決して殺してはいけないという事だった。一益からも「乱世の習いだから今回までだに。」と言われたが、絶対に守らなければならない。
「生きて貰いたいなど・・・。戯言に過ぎません。切腹は世の習い。真の武士の死に方は切腹なのです。身をも知らぬ貴方が私を気遣ってくれるのはありがたいですが・・・。助けてくれる理由なんてないでしょう・・・?」
義元は泣きながらもハッキリとそう話した。
「んなわけあるか!俺は、東海一の美女を失いたくないから、義元に生きて欲しいって言ってるんだ!俺は誰も殺したくはない!例えそれが世の習いだとしても・・・。そんな習いがあるから、女の子達はこうやって前に立たされて戦ってしまうんだ・・・俺はこんな世の中を変えてやりたい!こんなの絶対に嫌だ!だから義元、頼む!生きてくれ・・・!」
精一杯の気持ちを義元に伝える。
義元は服の裾で涙を拭くと、此方をジッと長い時間見つめてくる。
次第に、照れているのかちょっと顔を赤くし始める。
「東海一なんて・・・そんな冗談よしてください・・・。」
東海一の美女、今川義元。彼女は自ら運命を変えた。
ー雨は止み始めた。体中ずぶ濡れになりながらも、義元をなんとか説得して話を取り纏める。
「分かりました・・・。私、生きます。貴方にそこまで言われたら・・・生きなくちゃいけないみたいじゃないですか・・・。」
「あぁ、分かってくれたなら嬉しいよ。」
俺は彼女に寄り添うと、笑ってそう話してくれた。いつの間にか、彼女の体から感じられた殺意は無くなり、気持ち悪い感覚もしなくなっていた。
一体何だったんだろうか・・・ただ、それほどまで彼女が信長を殺したいと思っていたのだろうか。
まぁそこはかくかくしかじか・・・と言う事にしておいてもらいたい。
「さて、義元。本当に今川は滅亡って事で良いんだな?」
終了ムードに入っていきそうだったので、けじめをつける為に本題に移る。
彼女も笑いを止めて、真面目な顔で此方を見つめる。
「はい。それでよろしいです。どうせ、跡取りは居ませんでしたから・・・。」
さっきまで天下を狙っていた彼女だったが、すっかり気持ちを切り替えてくれたらしい。
「それじゃあ、もし良かったら俺の策、聞いてくれないか?」
少し考えてみた。義元が生き延びてくれる策を。
彼女は頷くと、俺は彼女の目の前に近づくと、手を差しのべた。
「これから、そこらに転がってる女の子の死体の首を切り落とし、それを義元だと見せかけ討ち取ったと、何人かの兵士と共に言って信長に伝える。信長は義元の顔を知らないだろう。きっと全員が信じてそれが義元だと思うはずだ。その隙にお前はここから逃げろ。遠くに逃げろ。とにかく遠くだ。そこで平凡にくらし、やがて婿を取って幸せに暮らしてくれ。これが俺の策だ。」
彼女は俺の手を掴む。俺はそのまま力を入れて後ろにひくと、彼女は立ち上がった。
目の前に東海一の美女、義元が居る。さて、美女と言われるだけあって、いつ時も凛々しい。
義元は顔を赤くして目を逸らす。何か疚しいことでもあるのか?あったらごめんなさい....!
「分かりました・・・。貴方の策、聞き受けました。・・・それと引き換えに、私のお願い・・・聞いてもらえませんか・・・?」
彼女はそう言うと、俺の手を顔に近づける。
ちょっとちょっとちょっとストップ。待って待って待ってまってまって?俺の汚い手に何をしようと言うのですか??
義元は、少しづつ顔を近づけると、手に唇をつけてキスをした。
突然のことに動揺してしまっている俺だが、彼女は恥ずかしそうに笑うとそのお願いを話す。
「次は....次は必ず、私の初めてを差し上げますから....。必ず再びお会いしましょう。その時まで...!」
彼女はそう言うと、後ろの方へ走り出した。
この時、意味も分からず動揺したまま突っ立っていた俺だが、後にどうなるかと言うのは、相良裕太はまだ推測すらしていなかった。
しかし、ちょっとの一時だったが、嬉しかった・・・。
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